第5話
「そろそろ、お昼ゴハンでも食べに行かない……?」
あれから、園山さんとぼくはバーチャオフの対戦をし続けていた。
10マッチやって4勝6敗……。
経験者であるぼくの方が押し負ける形になっていた。
バーチャオフの申し子、恐ろしすぎる。でも、バーチャオフ普及のきっかけになるかもしれないからな、頭ごなしに押さえつけるようなことをしてはいけない。
……本当か?
「あら、もうそんな時間なんですね。」
なんか、ゲーセンデートって、もっとこう緩やかな感じかと思ってたんだけど、
実際は超高速ロボットバトルみたいな感じなんだな。
いや、デートではないんだけど……デートじゃありませんよね?
「フードコートに行ってみない?好きなお店のものを選んで持ち寄るんだけど。」
「いいですね。行きましょう。」
「ちょちょちょ!そっちは衣料品売り場だよ!」
ゲームをやりすぎて歩くときの約束を忘れたのか、また適当な方に向かって歩き始めた園山さんを引き留めて二人でフードコートに行った。(また園山さんはぼくの後ろからついてくる形になった)
ピオンモールのフードコートはとても広くお店もたくさんある。
今日は休日なので、それなり以上の人出があり、にぎやかになっていた。
「あそこに二人がけの席があるから座ろうか。」
「いいですね。」
園山さんは結構何を考えてるかわからないところがあると思うけど、色々なことに割と頓着しない。
ぼくの提案をそのまま飲んでくれることがほとんどだ。
ぼくとしては、園山さんが楽しめているのか気になるところだけど。
「ぼくが座って待ってるから、園山さん、好きなものを選んできなよ。」
「ここの周りにあるお店だったらどこでもいいんですか?」
「そうだよ。どのお店もカウンターだけで席がないだろ。」
「そうですね、たしかにお席がありませんね。」
「ん、もしかして園山さん、フードコートに来たことがない?」
「ええ、外食でしたら、必ずレストランでしたから。」
もしかして、ものすごいお金持ちかなんかなのかな。
フードコートなんて誘ってはまずかったか。
「レストランの方が良かったかな。」
「いいえ、このフードコートも楽しそう。じゃあ、私行ってきますね。」
園山さんがお店を選びに行った。
まあ、楽しんでくれたら、いいんだけど。
ぼくも座りながらお店を見渡してどのお店にするのか考える。
まあ、軽くうどんにでもしておこうかな。
「ただいま戻りました。」
「おかえりなさ……うわ、なんだそのデッカイ丼は!」
園山さんが選んだのは、最強のスタミナ丼〜ブラックホール胃袋攻略戦〜というお店の
デっカルビ丼1680円だ。
「それ、なんかお相撲さんとかが食べるヤツじゃない?」
「なんか、見てたら美味しそうって思っちゃって。」
「絶対食べきれないヤツだよね!それ!!」
どんなときも無表情で貫き通している園山さんがなんか照れている。
いや、わかんないけど、そんな雰囲気があるのだ。
「じゃあ、ぼくも買ってくるね。」
「はい、いってらっしゃい。」
なんか、こう素直な言葉をかけられるとドキドキしちゃうな。
園山さんにはフラレたけど、魅力的な人だし、それになんか親しみがわく行動が多い気がする。
なんか、こうして二人で過ごしているのは、そのよくない気がする。
勘違いしてしまいそうだ。
いや、本当にそうか……?バーチャオフでボコられたくらいじゃないか?
「おまたせ。」
「はい、じゃあいただきましょうか。」
二人でそれぞれのものを食べ始めた……。
しかし、園山さんは、半分も食べ進まないうちに。
「ねえ、その、あなたのうどんと私のお肉を交換しましょう。」
いつぞやのお弁当のときみたいなことをいい出した。
え、と思って園山さんの様子を見ると、なんだか青い顔をしている。
「もしかして、やっぱり多すぎたの……。」
「いいえ。」
「きっぱり言ってるけど、もう状況と顔色が限界ですって訴えてるよねえ!」
園山さんのお腹はもう限界のようだ。
そりゃそうだよ。だってそれ絶対大食いチャレンジみたいな量なんだもん。
ぼくだって絶対に全部食べきれないと思う。
しかし、困った顔をしている(顔は相変わらずの無表情だ)園山さんを放っておけない。
「いいよ、じゃあ、うどんと交換しようか。」
「ええ、いいわよ。」
どこかホッとした顔色をした園山さんが残り僅かになったうどんを食べている。
それにしても……これは随分多いぞ……。
ぼくは、むちゃくちゃな量の肉丼をなんとかお腹のなかに収めた。
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「なんか、お肉でできちゃいそう……。」
ぼくは割と限界になったお腹をさすりながらピオンモールを歩いている。
園山さんは興味津々といった様子で周りのお店を見ながら歩く。
いや、無表情なんだけど。
間違いなく園山さんは学校一の美少女だけど、見てると無表情を貫いているし、そんなに愛想がいい方じゃない。
だけど、いつも男子生徒から告白されているし、人気なんだよな。
授業でも割とハッキリと発言しているし、よく友達と話しているし、そういうところが好かれているのかも。
「園山さんはどこかみたいものとかある?」
「そうですね……。」
園山さんが考え込む。せっかく来たことがないピオンに来たのだから、楽しんで帰ってもらおうと思った。
キョロキョロとあたりを見回した園山さんが指差したのは、まくらの専門店だった。
「え、ま、まくら?」
「ええ、なんか面白そうだから。行ってみましょう。」
確かにピオンモールにはまくらの専門店が必ずと言っていいほど入っている。
しかし、高校生がふたり連れ立ってみるお店か?
と思っている間に園山さんはお店に行ってしまった。
「これは素敵ですね。」
「そうか?」
高校生がそばがらとか、塩ビパイプの細かく切ったものとかを見て素敵って言う感想を持つか?
いや、持ってもいいんだけど、こうショッピングモールの定番って洋服とかじゃない?
「気になる素材がございましたら、お試しになれますよ。」
お店の人が話しかけてくれた。
しかし、高校生がふらっと休日にピオンに来てまくらを買うだろうか……?
「そうですね、このアクアパイプを試したいです。」
「え。」
「こちらの素材、特別柔らかくなっておりまして、首への負担が軽減されるんですよ。」
言うが早いか、園山さんはお試し用のベッドの上に横になっていた。
……なんというか、予測不能な人だな、この人という気がしてきた。
「いいですね。頭がグニグニして癒やされます。」
そうか……よかったね。
まくらを買う女子高生がピオンモールに現れる日が来るとは思わなかったよ。
「でも、今日はお試しだけでいいです。ありがとうございます。」
「またのお越しをお待ちしておりますね!」
これまたきっぱり断ったな!
いや、いいんだけど、買わないなら断るべきだろう。
お店の人にお礼を言って、まくらのお店を出た。
「どうしますか?またバーチャオフやりに行きますか?」
バーチャオフ気に入りすぎじゃない?!
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