第4話

「なあなあ、俺達と遊びにいこうぜ。」

「ヒマしてんだろ?飽きないように楽しませるからさあ。」


駅前広場にたどり着くと、園山さんが絶賛ナンパに遭遇中だった。

午前10時前やぞ?

なんか割と健康的な時間に起きて活動しているらしいナンパ野郎たちに思いを馳せた。


「いいえ、不要です。」

「そう言わないで、楽しもうぜ。」


割とバッサリ言ったはずなのにへこたれないバイタリティもすげえな、ナンパ野郎。


「あ、待ち合わせの人が来ましたので、それでは。」


あんな目に遭ってても、園山さん丁寧なんだな。

ぼくも園山さんの方へ歩いていく。


「なんだあ?彼氏か?」

「ちがいます。」

「え、お、おう。」


あんまりにもバッサリ言い切るからナンパ野郎さんも困っちゃってんじゃん。

ぼくだけならいいけど、もう全然関係ない人のことを困らせるなよ……。


「待たせました?」

「ええ、今……15分経過しました。」

「おまたせしてすみませんでした!!」


なんで謝らせられてんの。

普通、こういうときは待ってないとか、こう気を使ってくれてるもんじゃないの。

いや、待たせたのは事実なんだけど、それでも集合時間の15分前だからね。


「では行きましょう。どこにあるんですか。」

「ショッピングセンターの中に入っているゲームセンターに行きましょう。」


ピオンモールの中に結構大きいゲームセンターが入っているんだ。

ピオンは大きいショッピングモールだから、家族連れも多いし、カップルも結構いるので、

デートっぽく見えてデートではない、ちょっとデートな二人組が歩いていてもおかしくないはずだ。


「わかりました。じゃあ行きましょう。」

「ちょちょちょ、どこ行くの。バスで行くんだよ。」


わかってるのかわかってないのか、勝手に歩き出した園山さんを引き留めて、バス停へ移動した。

バスの中で園山さんに話しかけられた。


「あなたはピオンにはよく行くのですか。」

「うーん、そうだな。友人と遊びに行くとかじゃないとあまり行かないかな。バスのお金もかかっちゃうし。」

「ちなみに私はピオンに行くのは初めてです。」

「そうなんだ、じゃあ、えーと、楽しんで……?」


なんか、デートではないはずなんだが、やっぱりデートっぽくないか?


「園山さん、これデートだよね……。」

「いいえ、ちがいます。」


きっぱり言い切られた。

いや、まあ、そうだよね。デートではないよね。

友達と遊びに行く感じかも、とぼくは自分をなんとか納得させた。


「ピオンとは随分大きいのですね。」

「そうだね、中に色々なお店が入ってるんだ。」


バスから降りた園山さんがモールを眺め回しながら言う。

ぼくは自分の手柄でもないのに、なんだか嬉しくなって説明してしまった。


「じゃあ、早速ゲームセンターに行きましょう。」

「わわわ!そっちはスーパーマーケットの方だよ!わからないのに適当に歩き始めないで!」


またもや勝手に歩き出した園山さんを引き留めて、ぼくたちはモールの中へ入っていった。

マップでゲームセンターの位置を確認する。


「ゲームセンターは二階のようだね。じゃあ行こうか。」

「わかりました。じゃあ、あなたが先に歩いてください。」

「はい……。」


おかしい、ラブコメならここは照れながら手をつないであるく場面じゃないんか。

でも冷静に考えてほしい。ぼくは園山さんに告白してフラレているのだ。

だから、園山さんは別に僕に好意を抱いているわけではない。

じゃあ、なんで二人でピオンモールに来たんだよ!

わけがわからねえ!!デートじゃねえって言い張るし!そうだとしてもわけがわからねえ!


「わあ、にぎやかですねえ。」


ゲームセンターに到着した園山さんが言った。

ラブコメでお嬢様キャラをゲームセンターに連れて行ったときの定番のセリフだ。

それはいい。でも無表情で言うな。

いつもの調子で無表情貫いて言うな。


「ここらへんはクレーンゲームのコーナーだよ。クレーンで掴んで、取れれば景品がもらえる。」

「なにか面白い景品がないか見て回りましょう。」


相変わらずの無表情を貫く園山さんに同意して二人でクレーンゲームコーナーを回る。

ピオンモールの中にあるゲームセンターは結構大きいのでクレーンゲームもかなりある。


「しいかわ……?」

「最近人気があるアニメのキャラクターだね。詩歌を愛してるらしいよ。これが欲しいの?」

「いいえ、まったく。」


いちいちラブコメのセオリー外してくる子だな。

こういうときって、「あー、これ好きなんだー。」とかなんとかあるんじゃないのか普通。


「あー、これ私、好きなんですよ。」


なんだ、ちゃんとあるんじゃないか、そういうの。


「へー、そうなんだ、えっと……あたりめ……。」

「あたりめって美味しいわ。」


酒飲みのおっさんかよ!


「そうだね、カロリーも少ないし……。」

「でも、なかなか食べ切れないので、今日はやめておきましょう。」

「もう取れる前提で話をしていたね。挑戦してもいないのに。」

「取れても困ります。」

「そうだけどさあ……。」


あたりめに興味を失った園山さんが更にゲームセンターの奥へと入っていく。

ここらへんはビデオゲームのコーナーだ。

このピオンのゲームセンターは、ビデオゲームもおいてある。

ショッピングモールの中にあるゲームセンターでは珍しいところだ。


「ココらへんはビデオゲームのコーナーだよ。なにか興味のあるものはある?」

「そうですね……。」

「この、クイズゲームなんかどう?」


クイズを問いて、まるっこい猫を成長させていくクイズゲームだ。

これ、結構かわいいから女の子ウケも良かった気がする。


「それよりこのロボットのゲームが気になります。」

「で、電脳戦記バーチャオフ……。」


なんでこのかわいい猫福をぶっ飛ばしてバーチャオフをチョイスしちゃえるんだ。

そりゃ、バーチャオフは名作だけど、それでも感性がちょっと特殊だ。


「え、じゃあ、それやってみる?」

「やりましょう。ここにお金を入れるんですか。」

『Select Your Virtuanoid...』


園山さんがコインを入れると、デモ画面からキャラクターセレクト画面に切り替わる。


「女の子っぽいロボットも選べるよ。かわいいからいいんじゃない。」

「そうですね、私はこれにします。」

「ら、ライデソ……。」


園山さんが選んだのは両肩にレーザー砲がついていてめちゃくちゃゴツいロボットだ。

レーザーのバカ火力で押せるわかりやすい機体だけど……。


「じゃあ、操作を教えるね……。」


ツインスティックを使ったバーチャオフの操作を教えてあげる。

園山さんは熱心に聞いていた。


「じゃあ、こんな感じで、最初は自由にやってみて。」

「わかりました。」


言うが早いか、園山さんは前ダッシュして、敵ロボットに近づいた。

え、大丈夫?とりあえず射撃で様子を見るとかじゃなくて。

かと思ったら、両肩レーザーをぶっ放して、敵をダウンさせている。

そこにすかさず、地雷を投げ込んで追い打ち。

き、基本がちゃんとできている……。


「園山さん、このゲームやったことあるの。」

「いいえ?今日が初めてです。」


画面から目を離さずに答える。園山さんのライデソは、またたく間に敵の体力ゲージを刈り取ってしまった。

つ、強すぎる。この令和の時代にバーチャオフの申し子が現れていていいのか。


「ねえ、あなたもこれできるんでしょ。一緒に遊びましょうよ。」

「え、あ、いいよ。」


対戦したいってことかな。

ぼくは園山さんの向かい側の席に座ってコインを入れた。

ぼくが使うのはテムジソ。主人公機体で、一番クセの少ないベーシックな機体だ。


『Get Ready...』


とはいえ、園山さんは今日が初めてだ。ゆっくり対戦を楽しむようにしてあげないとな。


と思ったら、またライデソは前ダッシュでつっこんできた。

僕があっけに取られていると、ジャンプしてすぐ着地。

ダッシュキャンセルだ。

ダッシュキャンセル?!今日初めてやった人が?

あっけに取られているとライデソがバズーカを振って近接攻撃をしてきた。

ダッシュキャンセルからの近接?!

本当に今日初めてやった人!?

ぼくのテムジソはガードが間に合わない。近接からのダウンに追い打ちでレーザー。

みるみるぼくのテムジソの体力ゲージはなくなっていく。


「え?あ、あ、あ……。」


あっという間にぼくは負けてしまった。

あっけに取られていると、園山さんが顔を出した。


「……弱いですね。」

「リアル煽りやめろ。」


バーチャオフ対戦やってボコられてるっていうことは、やっぱりこれはデートではないのだな。

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