第3話

「あれ、もしかして……。」


授業が終わり、帰る支度をしているときに気づいてしまった。

園山さんは、ぼくについてきてるんじゃなくて、陽田に近づこうとしているんではないかと。

そう考えると、辻褄があう気がした。

告白をフッて一緒に教室へ戻ってきたとき、そしてお昼に一緒にお弁当を食べたとき。

ぼくの告白をきっかけに陽田へ近づく口実を手に入れた園山さんは、一気に距離を詰めてきたのだろう。


「そういうことか……。」

「何ひとりでブツブツ言ってるんだ?帰ろうぜ。」


今日は部活もないため、陽田と一緒に帰ることになっていた。

二人で教室を出る。


「もしかしたら、園山さんは陽田と仲良くなりたいのかもしれないぞ。」

「え、園山さんが?……そうだとしたら大変なことだぞこれは。」


こいつ、口では大事だみたいなことを言いながら、全然本気で聞いてないな。


「考えてもみろよ。告白した相手と一緒に教室に戻ってきたり、一緒にお昼ゴハンを食べたりするもんか。」

「それはそうかもしれないが。」

「これはぼくが告白したことを口実におまえに近づこうとしてるんだよ。」


ぼくの考えた説を聞いた陽田が変な顔をしている。

ぼくはつづける。


「学校でも一番美少女と言われている園山さんが、そう簡単に男性と仲良くなれない。だけど何かきっかけがあれば別だろ。」

「……。」

「園山さんは前から陽田と仲良くなりたかったんだよ。おまえ、幸せものだな。」

「いやあ、脳みそがハッピーなのはおまえの方だと思うな。」


せっかく、陽田が学年一の美少女をカノジョにできるかもしれないのに、何をとぼけたことを言ってるんだ。

と思っていたら、陽田が目で何かを訴えている。

ぼくはそんなに人の表情を読み取る能力に長けてるわけじゃないんだが、と思って振り返ってみると、

果たしてそこには、園山さんその人が突っ立っていた。


「……。」

「……。」


な、なんだ?僕が園山さんの陽田への気持ちを暴露しているのを聞かれたか?


「……ねえ。」

「……はい。」

「帰らないの。」


何言い出したのこの人。

いや、帰りますよ?でも、じゃあ帰ろうみたいな感じで話しかけてくる?

諸君らはいい加減忘れているかもしれないから繰り返すが、ぼくはこの園山さんに告白してフラレているからね。


「帰ります……けど。」

「そう、じゃあ行きましょう。」


そう言って園山さんは歩き出した。

ぼくと陽田も並んで歩き出す。


「あの……。」

「なに?」

「さっきの話、聞いてました?」


聞かれていたとしたらすっごい気まずいから、念の為確認しておく。


「なんの話?」

「いえ、聞いてないならいいんですけど。」


どうやら聞かれてなかったようだ。良かった。

また少し歩くと園山さんが話しかけてきた。


「ねえ、帰るときにどこかに寄ったりしないの。」

「え?そうですね、たまにマックに寄って軽く雑談して帰ったりしますけど。」

「そう、じゃあそうしましょう。」


まてまてまて。

お昼にお弁当を一緒に食べ始めたのも驚きだったけど、放課後も何故か一緒になってくるのか?

なんでだよ。

いや、友達になりたくてとか言ってくれたら、もうそれは、それでいいよ。

おつきあいは無理でも、友人関係なら、ってことでしょ。

そう言ってくれたら、別にうれしいけど。

別に気に入ったでもなく、つきあうということはなく、いきなり友人ポジションに入ってるじゃん。

ポールポジションじゃん。スリップストリームだよ。


「あ、俺、今日は家の用事があるから帰るな。」


ほら、陽田は帰っちゃうじゃん。

じゃあ、陽田と仲良くなりたいはずの園山さんもあきらめるはずだな。


「そう、じゃあ、さようなら。」

「じゃあ、また明日な。」

「じゃあ、行きましょうか。どこのマックに行くの。」


ねえねえ、おかしくない?

ぼくの考えた説を1時間も経たないうちに打ち崩さないでくれない?

陽田と仲良くなりたいんじゃないの?

だったらぼくとマックに行く必要なくない?なくなくないない?


「え、商店街の中にある……。」

「ふうん、わかった。じゃあ行きましょう。」


あ、はい……。

商店街の中にあって、建物の中で少し階段をあがったところにカウンターのあるマックへ来た。

僕はコーラを、園山さんはアイスティーを注文し、席にふたりで座る。

気まずい……いや、この気まずさはどこから来るんだ……。

もう一緒にお弁当を食べた仲だぞ。


「園山さんは、その……他のお友達と一緒に帰ったりしなくていいの。」

「そうね、今日はみんな忙しくて帰ったから。」


そうなんだ、誰も一緒に帰ってくれないから、たまたまぼくたちに付いてきたみたい。


「園山さんもお友達と帰りに買食いしたりするの?」

「いいえ、たいてい、私はすぐに帰るから、一緒にどこかに行ったりしないわ。」


じゃあなんで今日は一緒に来たんだよ。


「え、じゃあなんで今日は買食いなんて。」

「……。」


そこはダンマリなのか!動機については供述を拒否するのか!

検察側はひどく混乱をきたしています!!


「あなた。」

「はい。」

「お休みの日は何をして過ごしているの。」

「そうですね……。本を読んだり、あとはなにか面白いものが売ってないか、街に出かけたりします。」

「ウィンドウショッピングというヤツね。」

「そうですね。あとゲームが好きなので、ゲームセンターに行ったりします。」

「へえ、ゲームセンター。私、行ったことないわ。」

「そうなんですか。色々なゲームがあって楽しいですよ。あ、クレーンゲームがあって、景品を取れたりします。」

「景品がもらえるゲームもあるのね。」

「そうです。」

「じゃあ、今度のおやすみの日でいいかしら?」

「いいかしら?とは……?」

「だから、ゲームセンターに行くんでしょ。」

「ええ、まあたまに……。」

「だから、今度のおやすみの日に行きましょう。」


ついに勝手についてくるのみにとどまらず、約束を取り付けてきたぞ!

え、別におつきあいしてるわけじゃないよね。


「え、ぼくと行くってことですか。」

「そうよ。じゃあ、10時に駅前広場で待ち合わせでいいかしら。」

「いいかしらって、え?その……。」

「じゃあ、今日は帰りましょうか。」


なんか、一方的に話して終わっちゃったよ、この人。

ゴミ箱にコーラのコップを捨てながら、園山さんについていく。


「今度のお休み、楽しみね。」


無表情で言われても、まったくどういう感情なのかわからない。


「あの。」

「なに?」

「ぼく、フラレたんですよね、園山さんに。」


園山さんが少し考えるそぶりをする。視線が上を見て、下をみて、そして僕の目を射すくめた。


「そうよ。はっきり、お断りしたでしょ。」


そんな素敵な笑顔で言われても、ぼくは困る。

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