第2話

「じゃあ……。」

「「「いただきます!」」」

「なあ、なんで園山さんがいるの。」


 前の席に座っている友人、陽田茂通が聞いてきた。

 なんでだろうね。

 ぼくにもわからない。

 お昼休みになって、じゃあ昼飯でも食べようかってなって、机を合わせたら

 もう隣に座って弁当をスタンバイさせていたんだもの。


「あの。」

「はい、なんでしょう。」

「なんでいつのまにかぼくたちと一緒にお昼を食べているのですか。」

「一緒にお昼を食べるのに、理由が必要なのですか。」


 どうだろう。

 お昼を食べようと思ったとき、一緒に食べる人とは何らかの関係があるもんじゃないだろうか。

 じゃないと、いつの間にかグループに混ざり込んでるよくわからない人になる。

 ネットのオフ会で、毎回必ず後ろからついてくる謎の人みたいになってしまうのだ。


「いや、大抵の場合は理由が必要ですよね。」

「そうなんですね。あ、その玉子焼き、私のブロッコリーと交換しましょう。」


 そう言った次の瞬間にはぼくのお弁当から玉子焼きが消え、ブロッコリーが鎮座していた。

 諸君らのために何度だって繰り返すが、ぼくは昨日、この園山さんに告白してフラレたのだ。

 だから、バツが悪い。

 こうやって顔を合わせるのが。

 大抵の人はそうなんじゃないのか。


「園山さんは、こいつのことが気に入ったのか。」

「そうですね、別にそういうわけじゃありません。」

「じゃあなんで一緒にお昼を食べてるんだよ!」


 ツッコミを入れずにはいられなかった。

 こええよ。

 気に入ったとかそういうんじゃなかったら、関わりを持とうとは思わないじゃないか。

 もしかして気を使ってくれてるのか?ぼくをフッたことに負い目があるとか?


「別にフッたから申し訳ないとかそう思って欲しいわけじゃない。ぼくは気にしないから。」

「そうですか、私も気にしません。」

「園山さんって面白いな。」


 いや、面白いって言っていいのか。

 なんかその精神構造が怖い。

 怖いものなしすぎるというか、謎なのだ。

 女性の心はエニグマだ。正確に読み解ける解析機関チューリングマシンはない。

 これは、ぼくの言葉である。


「俺のからあげあげるよ。」

「ありがとうございます。では、この豆を煮たやつと交換しましょう。」

「仲良くなってるじゃん……。」

「いいえ?」


 なんでそこでいいえって言っちゃえるのかがわからない。

 めちゃくちゃ仲良くお昼食べてるじゃん。

 周りのクラスメイトも「なんであの学年一の美少女、園山さんがあの人たちと一緒にお弁当食べてるんだろう。」って顔でチラチラこっちを見てるじゃん。

 対して陽田は園山さんに何を言われても気にしてないようだ。


「わかった、園山さんに告白したときに、おまえ、乱暴にするとかしなかっただろ。」

「そりゃそうだよ。だって、好きになった相手に乱暴するとか、頭おかしいだろ。」

「それだよ。そこでフラレたことに逆上して暴力をふるおうとしなかったからだ。」

「どういうこと?」

「つまり、告白をバンバン受けてる美少女を助けにくる主人公が出てこなかったのが園山さんは不満なんだよ。」


 陽田はライトノベルを読みすぎたんだと思う。

 美少女と仲良くなるテンプレート、つまり、乱暴されてるとかナンパされてるとかそういうところに助けに入るシチュエーションがなかったからだと言うのだ。


「おまえ、普通過ぎるんだよ。」

「なに言ってんの!?」

「改めて告白をやり直したらどうだ。」

「ぼくの心の傷を広げてどうしようってわけ?いくら広げても中からイマジンとか出てこないよ。」


 ラノベテンプレートガチ勢こわすぎんだろ。


「じゃあ、今から体育館裏に行ってやり直そうぜ。」

「そんなことする必要ある?」

「どうしたの、行くなら早くして。」


 なんで園山さんもそんなやる気なの。

 話の流れもちょっとおかしいなって感じだったでしょ。

 おかしいって思わなかったの?


「じゃあ、はい、やり直して。」


 結局、体育館裏に来てしまった。

 なんか陽田が仕切り始めてるし……。

 うう、恥の上塗りとはまさにこのことだよ。


「園山さん、ひと目見たときから好きになりました。ぼくと付き合ってください。」

「昨日とセリフがちがうんじゃない。」

「ぼくの渾身の告白をセリフっていうな!」


 心の底からひねり出した発話やぞ!

 テンパりすぎて、実際なに言ったかもおぼえてないんだけど。


「ごめんなさい、あなたのことは好きじゃないの。だから付き合えない。」

「よし、そこで逆上して襲いかかる。」

「なんだよそのディレクション!」


 告白を何度もやり直しさせられている上、ディレクションまで入っている。

 これはもう告白ではないのではないでしょうか。

 ともあれ、襲いかからないと終わらないようなので、やってみる。


「こ、こいつ、いいからぼくとつきあうんだよ!」

「迫力が足りないな。」

「うるさい!」


 ぼくは、園山さんの手を無理やり握ろうとして手を出した。

 予定では、園山さんの手首あたりを掴むはずだったんだけど。


「ごめん、なんで、園山さん、手を握り返してきちゃってるの。」

「なんとなく?」

「なんとなくじゃないよ!ラノベ展開では無理やり掴まれるところでしょ!エースキラーがエースを無理やり抑え込んでる感じになってんじゃん!」


 がっぷり四つだよ!

 ギリギリと園山さんがぼくの手を握り込む。

 力押しで負けたぼくが片膝をつく。


「お、おい!やめろ!嫌がってんじゃないか!」

「おまえが出てくるのか!」


 止めに入ってきたのは陽田だ。

 まあ、ここにはこの三人しかいないから当然なんだが。


「やめてやれ、痛がってるだろ。」

「いや、痛がってるのは、ぼくなんだけど。」


 誰のこと助けようとしてんの。


「ち、ヒーロー気取りか。しょうがねえな。」


 園山さんもなんで乗ってきてんの。

 セリフもいつもの無表情でいうからこわいよ。逆に。


「大丈夫だったか?」

「なんも大丈夫じゃないよ。」


 なんで陽田はぼくのこと助けちゃったの。そうじゃないだろ。

 なんで園山さんは助けられる方じゃなくて、力押しで抑え込む方に行っちゃったの。

 そしてなんでちょっと満足げな顔してんの。


「よく考えたら、助けに入る主人公を用意するの忘れてたな。」

「全部終わってから言うなよ、そんなこと。」


 陽田が申し訳なさそうに言う。

 申し訳なく思うなら、最初からこんなアイディア出さないでほしかった。


「まあ、別に誰かに助けてほしいとかそういうわけじゃなかった。」


 園山さんもひととおり終わってから言わなくてもよくない?

 てか、この流れになったときに言ってほしかったんだけど。

 ぼく、無駄に二回もフラレたんだよ?


「じゃあ、帰ろうぜ。」


 もういいよ……。

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