第3話

 〜〜


アキ・ローゼンタールは、容赦無く照り付ける太陽の下、外へ一歩出る。踊り子として最低限の体力を回復するのにも、十分に時間を当てなければならない。


聞くと、近くに花屋があるらしく、あの日、あの夜、最愛の人の元に駆けつける為、空を飛び、其の最愛の人に裏切られた今、集中治療中のマリン船長にでもお花を添えようとそこに向かうのを決めた。


確かに、魔王討伐は必要不可欠だ。だが、これと言って理由は無い。


あるとすれば、そう…アキ・ローゼンタールの故郷の街を壊滅させた隣国のドラゴン-桐生ココが四天王として配下に居る事位だ。


そして、私は、暴風雨が晴れた後の少しぐちゃぐちゃな地面とおさらばするか如く、足早に花屋に向かった。


そこで、バッタリとだが、潤羽るしあと出逢った。


彼女は、桔梗の花を探していた様だが、私が来た途端にこちらを向いて、長い事沈黙していると、ふと口を開いた。


「何をしに来た。」


何をしに来たと言われても、花を買いに来た。貴女の愛しの人の為にも♡と、付け加えた。


「我々魔族は、魔力を辿る事で其方が何をして居るかが分かる。それでも、正直に答えてくれた……あの…名前を伺っても宜しいでしょうか。」


「アキロゼ」

アキ・ローゼンタール。


金髪のツインテールで、両方のツインテールが不思議な装置で浮いている短髪と長髪両方叶えた女性の憧れの姿をして居る高校生だ。長身でしっかりとした体型に、童顔っぽい可愛げのある顔をしたハーフエルフ。つまり、エルフと人間の混血種だ。


「アキロゼさんは、今回は見逃すのです。ですが、お忘れ無く。魔王席次第三席、死霊使いネクロマンサーの潤羽るしあです。どうぞ宜しく。次会った時は敵なのです。」

ピラっとスカートの裾を上げて律儀にお礼をすると、桔梗の花を買い、花屋を後にするるしあ。


「魔力を辿れる…」

自分にもある程度の認知はあるのは分かって居る。実際、何も無しで、魔王のところに行けたのも、あの強大な魔力を常に感知していたからなのだ。

しかし、誰が嘘を付いているとか、紛れも無い事実だとか、この魔力の蔓延る世界でそんな事を宣わったのは、あの女性が初めてだった。


「凄いな…四天王は。」

って、感心して居る場合じゃ無い。直ぐに次のプランを練らないと、行けないのに、ズキンと頭から激痛がして、花屋の所で倒れてしまった。


 〜


緋い竜 火を吐く 街は燃え 去れど空は曇らず


永遠の赤 目に映しは 倒さざる金色の剣 たとえ


 〜


たとえその手に花が握られていても 闇を打ち倒せし光は 剣を取る


断片された詩を思い出した。私は今、立ち上がらなければならない。一族の為、故郷の為、常に力強い姿を見せねばなるまいと、今日まで踊り子をしていたんじゃ無かったのか-。

「「大丈夫ですか。」」

花屋の店主に声を掛けられた。二人の獣人。両方とも淡い金髪に、目の色が赤と青の小柄な少女には寄せてもおぼ付かぬ出立。

匂いから、恐らく裏稼業をして居ると思わしきフワワ・アビスガード、モココ・アビスガードという-各々、精神科と大監獄の両雄の首長。其の実態は、この国を傾かせる為にI使われた《Advent》安寧を奪いし者達の一角である。


「ううん…大丈夫。ちょっと転んだだけ。」

何を思うか。丁度これでも、私は、何よりも、最速で駆け抜けて来た。

魔王の出征、故郷の崩壊、合理的な施政、ルシファーの降誕。

それでも、届かなかった-。


何よりも伝えたい思いが。誰よりも届けと願った世界に有りはしないと、気付いた時から私はずっと一人だった。

でも、今は、仲間が居る。

ここで諦めていては、何者も倒せやしない。


そう踏ん張ると、フワワとモココの手を取って、こちらに引き寄せ、固く握手をする。


不思議そうに見守るフワワとモココだったが、其の真の狙いには気付かない。


そうである。マメの確認。掌に残った稼業のマメを確認するためだったが、生憎、彼女達は獣人。格好や骨格がそれと同じだとしても、マメは無かった。


だとしても、骨格の確認位はできる。

歪な攻撃特化型の獣人骨格。ここだけ花屋をやって居ると言うのが疑問に思えるほどの素早さと力強さを携えた本能のままに争う獣の態度。ここで一悶着でも起こそうものなら、明日には、彼女たちの手によって挽き肉にされている事だろう。


よし、と。念入りに確認する。この島で、真っ当な生き物は居ない。其の事を確認できただけでも僥倖と言える収穫だった。そう、例えあの魔王とて、例外じゃ無い程に、この国は、今や、魑魅魍魎の群れでも恐ろしいと撤退願い出る力ある国になっていた。


私の願いはただの希望じゃ無い。悪しき竜を倒し、其の元凶である魔王赤軍を倒し、故郷を元に戻す。其の為に、力ある者達を招集する。できれば、今回みたいになるのを防ぐ為、回復役ヒーラーか、其の能力を併せ持つ僧侶と、魔法使いを招集したい。それができれば御の字。出来なくても、例えば、ここに居るこの娘達でも。


そう思うが早いか、私はつい思わず口を開いていた。

「ねぇ。私達の仲間にならない。」

「それと、何かおすすめの花を下さい。できれば、重体の人に添えられる花がいいな。」


隠遁術でやって居るとはいえ、花屋の店主に向かって言う様な言葉でも無いが、それでも、明らかな戦闘力・戦力、逃す手は無い。


これには思わずフワワとモココは揃って顔を見合う。


しかし-

「御免なさい。今、それは出来ないの。」

「私達は、隣国の降臨者アドベントっていうパーティに所属していて、何分力添えもできないけど、気持ちに持っていって。」

そう言うと、フワワとモココは、菊の花を渡してくれた。

「花言葉は、信頼、高貴とか高尚とか。貴方の熱意に打たれたわ。いつかは、お供しましょう。」

「他には、この赤い花の生えるサボテンとか。復活や情熱、恋の年頃って花言葉があるよ。」

「じゃあそれを二つ。」

「OK」

フワワは花を選んで素早く包み紙で絡むと私に持たせてくれた。サボテンは鉢植えでくれた。

代金を支払うと、こくんとまるでそうするかを習ったかの様に軽い挨拶をされた。

「じゃあ、待たね〜。」


こうして、菊の花とサボテン片手に花屋帰り外に出て行くと、そこには、不知火フレアが待っていた。

「もう。ノエちゃんはまだ来ないの。」

時刻は昼下がり、もうちらほらとしか辺りに人は見かけない。どうやら、先程話した花屋に行ったと思われた様だ。

「ねぇ。どうしてそんなにノエルのことが好きなの。」

「それは、私を守ってくれる頼もしい所、とか。格好良い所とかかな…」

「それじゃあ、この花をあげる。」

菊の花には、信頼とか高貴だとかの花言葉があるんだよって、ついさっきされた説明を繰り返す。

「へえ〜。これをノエちゃんに。それと、これも!??このサボテン、どんな意味があるの。」

「情熱とかだってさ。貴方達二人にピッタリ。」

「ありがとう〜。この恩は一生大切にするから。」


そう言って、帰路に着く私達は一抹の不安も感じさせないほどに和やかに、笑っていた。


しかし、其の笑顔が一変する。


歩いて居る途中、寝ぐらから煙が立ち上ったのだ。


焦って見に行こうと花を落としかけて、まだ本調子じゃ無いんだと再確認する。


「私は後から行くから、先に行って待ってて。」


魔力を辿るに、白銀聖騎士団の本拠地に、カボチャの竜が出て来たみたいだ。


フレアは走って向かった。


すると、騎士団の本拠地、教会風に建てられた並みいる建築物を押しのけて天を衝く其れに、大きな穴が空いて居る。


竜は、勢いを増すと、街中で大暴れして居る。街々を破壊し、人々を燃やし尽くし、余りにも大きな被害に、息を呑む間も与えられない程だ。


パンプキンドラゴンは、そうやって、一暴れすると、バサっと翼をはためかせ、悠々と空を飛ぶと、帰って行った。


何が原因なのかは分からないが、何か逆鱗に触れる事をしたのだろうと、勝手な憶測を呼ぶ。


いや、あの竜がそんな殊勝な奴な訳無い。自分の事が気に食わない奴が居るってだけで、エルフの村村を焼きに走った位の怪物だ。今回も、何かしら、では無く何もなく、勝手に全てを燃やし尽くそうと迫ったに違いない。


しかし-


「しかし、こんなにも竜が近付いて来て居るとは。何れは見えねばならない敵。備えを疎かにしてはならない。」

フレアは、エルフレンド-エルフ狩りで生き残った古来よりの仲間達に指示を出すと、こちらを振り返り、花を大切に受け取った。


どうして、こんな目に市政の人々が合わなければ行けないのか。


ノエルとフレア、そしてアキロゼは共に力を合わせて、あの悪しき竜を倒そうと、誓った。

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