第2話

助けに来た-。


確かに、そう言った。


純粋な気持ちとして、計り知れない程の愛情を感じる。自身に向けられたものではなく、其の胸に詰まる果てしない情緒の愛撫エロスを-。


「来るか、来ないか。」


白銀ノエルは間合いを見計らって居る。しかし、精悍にも、一切の躊躇なく、突撃をした。


ぶぅんぶぉんと棍棒メイスが魔王に向かって繰り出される。しかし、魔王は、防戦一方だ。


先程と何が違うのか。近接どこ遠隔なにが違うのか。それを手詰まりになりながら、白銀の騎士の後塵を拝しながら、考え続けていた-。


魔王「おっと。私はあまり運動神経が良い方では無いのでね。ここいらで一旦休憩とさせて貰うよ。」

野太い、それでいて野心も宿る声柄に、ついうっかり、踏み入りそうになる心を抑えて、アキロゼは倒れ伏したまま、魔王の隙を見つけていた-。


中庭のベンチに腰を下ろす手前、其の一瞬の硬直状態に、棍棒メイスが振り下ろされる。魔王の身体は、一瞬宙に浮きかけて、慌ててベンチに落ちると、ふぅ…と溜め息を吐く。


しかし、次の瞬間には立ち上がって、こう言い放った。


魔王「いきなり何をするのかと思えば、対して酔狂でも無い正義か。まあ良い。こちらも軍備を整えるとしようか。来るべき日に備え、顔を洗って待って居るが良い。アキ・ローゼンタール、白銀ノエルよ。いずれは戦う事になる四天王共々、いずれ挨拶をしよう。その時までにやられていなければの話だがね。」


ふーはっはっはーと華麗にマント翻すと、魔王は何処へともなく去って行った。


「やった。団長の勝ちですね。」

「浮かれるのはまだ早いよ。何せ、これ以上相手をしたら、私の身が保たな…」

がはっと出血をすると、アキロゼはそのまま途切れる意識のまま、暗闇を彷徨った。


 〜〜


目が覚めると、そこは何処かしら神聖な雰囲気を感じさせる場所だった。右手にランプ、左手に書籍棚を揃えた…真っ当な病室の様にも思えた。


「起きた…!」

近くで聞き覚えのある声がする…白銀ノエルだ。すると、団長は、アキロゼの両手を毎日そうしていたかの様に、ギュッと握り締めると、

「神様仏様ゴジラ様…どうかアキ先輩を窮地からお救い下さい。この通り、何でもしますので。」

「実に三日間、アキさんは眠ったままでした。踊り子の体力がそうさせるのでしょうけど、毎日シチューとパンをこうして食べて貰いながら、見る見る内に回復していったんです。最初は、全身発疹だらけで、ボロボロの腕と肌を見つめながら、それでもどうにかこうしてお慕い続けさせて貰った結果、ここまで回復する事に成功したのです。有難う。有難う…」

ノエルに少し唇に染みるシチューとこれまた当たると血が付きそうなパンを口元まで持って来て貰って、口元が動くままに、それを食す。

そうこうして居る内に、身体が動く様になって来て、少し上体を起こすと、心配された。

「あっ、まだ駄目ですよ。動いちゃ。まだ完治出来てないんですから。」

「ううん…もしかして、私ずっと寝てた?三日間も?」

「そうです。お医者さんに言われたんですけど、これから三ヶ月眠りこくったままかも知れないって言われて、あの時、団長は人生で一番辛かったな。」


そうか。もう三日も前のことなんだ。あの魔王とやり合って、それで敗北を喫した事。

どうしても勝たなくちゃ気が済まなかったけど、あの闇魔法に掴まれた結果、まるで天運に見放されるみたいに、自分の身体がそうじゃなくなる感じだった。

「あとどの位待てば良い?流石に三日も踊ってなかったら、街中は心配で溢れて居るだろうし。」

「大丈夫ですよ。先生が言うには、頭の発疹が最後で、それさえ無くなれば、あっという間に回復するんですって。今夜中には回復するかも知れないな。」


そうか-。そう言えば昔、食べる物も少なくって、回復薬ポーションを主食にしてた事あったけな。其の影響か、身体に溜まった回復薬ポーションの分まで回復したって感じなのかも知れない。


「さあさ、今日の分はさっさと食べちゃって下さい。今に力が付きますよ。なんたって、白銀聖騎士団特製の粉末豆入りなんでも煮込み溶かしちゃうたっぷり野菜の生姜シチューですからね。」

生姜のシチューか。通りで身体が温かいと思った。しかし、ただ食べるだけで回復するとは、案外病原菌も怖く無いかも知れない。嘘です。怖いです。何せ全身の血流が沸騰する位熱くてそれでいて身体の先から芯まで凍る様に動かなかったんだもん。もう二度とああ言う想いは嫌だな。


アキロゼは食べ終わると、直ぐに寝込んだ。


すぅすぅと寝息を立てて寝て居ると、団長がランプを持って来て、枕元でかざす。



温かい心地がして、目が覚めると、そこはやはり、昨日と同じ部屋だった。


どうやら夜通し看病を続けてくれたみたいで、団長も、ベッドの下で蹲りながらスゥスゥと寝息を立てて居る。


今日は、もう動ける様になって、頭の包帯も取って、そして、ベッドから降りる際に、ご就寝にノエルを避けて、ゆっくりと立ち上がると、少しめまいがした。



よし、さあ、取り敢えず外に出よう、陽の光を浴びようと言ったその時、長い事寝過ぎていた為か、先に入り口の扉が開いたのを感じ取れなかった。


どっしーんと目の前から全力で走って来る褐色のエルフに衝突。こちらもハーフエルフだからか。倒れたまま、お互い少しは納得した様子で、手を伸ばし合う。お互い手を握り合うと、確りと立ち上がって、挨拶がてらどなたか確認した。

「あの…私は踊り子のアキ・ローゼンタール。とある事情でここに三日間?程居たのかな。白銀聖騎士団にお世話になっていました。」

「そうか。あんたが三日も。ノエちゃん、連絡寄越さないから、心配で走って来ちゃった。いつもなら、不知火建設に来る頃だもんね。私?私は不知火フレア。白銀ノエルの愛人こと褐色のエルフ。」

褐色の〜の所で誇りを感じる。確かにエルフはこの世界では、其の美貌と高い魔力適性を狙って、幾度となく原生人類と衝突して来たという。

「それで、ノエちゃんは何処に?」

「ああ、それなら、先程まで、あのベッドの脇で眠りこくってましたよ。」


フレアは、直様駆け寄ると、ああ、いけなーいって、ノエルをゆさゆさとゆさって、起こして居る。私は、この度、魔王を倒す勇者になりました。そんな中、いきなり街に飛び出るのも壮観だけれども、取り敢えずは礼を行ってから外に出る事にした。


「ありがとう。短い間だけど、おせわになりました。」

手短に例を言うと、

「そんな事ない。言ったでしょう。これからはアキさん護る一人前の騎士なんだって、もう、何処にも離しませんよ。」

そう涙を溜めながら喋る女性騎士の事を深く覚えて居る。実に魔王討伐まで三年を切った明くる日の事だった。

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