剣山夏目⑧
「えーっとぉ? ゼリー状の体を持つ架空の生物……これをスライムと呼ぶ、らしい」
俺は謎の生物二匹を連れてアパートへと戻った。どうやら二匹は所謂仲良しらしく一緒に居させると大人しくなる。あの破天荒な宝箱もどきが大人しくなるのだからよっぽど仲が良いのだろう。
大人しくしてくれればそれで良い。何せこのアパートはペット禁止なため、五月蝿い大家さんに見たかったら瞬殺まっしぐらだ。
取り敢えず今は、二匹の正体についてノートパソコンを使って調べている最中である。
「どうやら片方はスライムに似ているんだよなぁ……」
半透明な黄緑色の体を持つ生物、スライムは宝箱もどきと和気藹々している。だがしかし、一つ引っかかる点がある。
それはスライムは架空にしかいない世界、つまり現実には存在しない生物ということだ。
「まさかだけれど……この宝箱もどきもそうだったりする?」
俺はパソコンの検索欄に「宝箱、ファンタジー、生物」と打ち込んだ。すると案の定、とあるサイトが出てくる。
「なになにぃ? ミミック……?」
やはり聞いたことのない生物名、しかも架空である。ゲーム内では宝箱に成りすまし、プレイヤーを苦しめる存在であると言うことが分かった。
「あんなに暴れん坊将軍の癖して、随分と可愛い名前してんのな」
宝箱もどき、ミミックは俺は言葉が聞こえたらしく飛びつこうとする。可愛いと言われたのが嫌だったのかもしれない。
「てか、君たち一体どこから来たの?」
スライムとミミックに問いかけるも二匹は互いに顔部分を見合わせこてんと傾く。恐らく首を傾げているのかもしれない。
その反応に「ですよねー」と納得と諦めのため息が漏れた。
「このまま外へ放すと、なんか面倒なことになりそうだし……。なんか、可哀想なんだよなぁ。でもこのアパート、ペット禁止なんだよなぁ……」
悩みに悩んだ結果、俺はこの二匹を隠れて飼う(?)ことにした。
「てか、スライムとミミックって名前言うの長いからこうしよう。スライムのスーちゃんと、ミミックのミミちゃん!! これでどうだーーって痛い!!」
ミミックが突然俺の頭目掛けて噛みつこうとしてきた。しかし、ただただ頭突きをされただけで歯形が皮膚に付くことはなかった。名前のどこに不満があるというんだ。単純で、とても覚えやすいだろうに。
「注文の多い生物だなぁ。全く、ミミとスーでいい?」
すると今度は二匹ともコクリと頷いた。どうやら「ちゃん付け」がお気に召さなかったらしい。何でだよ。
「てか、こいつらって何食うんだろう。まぁ、適当に俺の飯でも食わせるか」
ひょんなことから、一人暮らしが謎の生物ミミとスーの二匹も追加されこれから賑やかになりそうである。
ミミが職場で暴れたくらいだから家でも落ち着きがないのは目に見える。ただ、スーは見た感じ比較的大人しめだからそれが良い感じに中和されている気がする。
そうだ!
夏目にもこいつらのこと紹介しとこ!
俺はスマホを片手に二匹の写真とコメントを添えて送信する。夏目は意外とこまめな性格だ。恐らく夜には返信が来るだろう。
しかし、俺が朝起床しても夏目からの返信、更には既読が付くことはなかった。
◇
職場にて。
「えっ、夏目今日お休みですか?!」
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