剣山夏目⑦
「はぁ……!! マジで今日は死ぬかと思った」
仕事も終わり、アパートへと足を運ぶ。今日はより一層疲労がたまり今にも地面に倒れ込みたいぐらいである。
「宝箱もどきはいつの間にか、動かなくなったし。まぁ、何とかなったけれどな……」
鞄の中を覗くと宝箱もどきはまるで、本当の宝箱のように全く動かない。鞄を傾けたり反応を起こそうと試みるも、その反動でこてんと傾くだけで期待していた行動は起きない。
「取り敢えずこいつをどうにかしないと。また職場に来たらまずいし……」
ふと視線を目の前に移すと、宝箱もどきを拾った例の草木の場所へと辿り着く。
「いっそのこと捨ててしまうか……」
不法投棄は宜しくないが、流石にアパートに居続けられるのも更に困る。ただの静止物ならば、俺の小物として部屋に飾れるがこれは違う。俺は勝手に未確認生物と認識しているが実際一体何者なんだろうか。
そんなとこを考えながら「もう帰るか」と草木を通り過ぎようと歩き始めた。
ガサガサガサ。
突然、草木が揺れ始めた。
「待って、何か嫌な予感……」
俺は鞄を盾に体全体を守る。俺の身長では鞄の面積からはみ出てしまうが顔全体は守れるように防ごうと考える。
すると何かが勢いよく俺の所に飛び出してきた。
「ぎょわぁぁぁぁぁ?!」
俺は目を強く瞑る。掴んでいた鞄をより一層前に出し、防御を固める。そしてそれは、そのまま鞄に何かがべちゃりと粘り気のある音を立てて地面に落ちる。
やがて特に攻撃は起きず、ゆっくりと瞼を開く。そして目の前に視線をずらした。
「え?」
地面には、雫を子猫ぐらいの大きさにした水状の何かがぷよぷよ佇んでいる。黄緑色の半透明の表面で、コンクリートが薄く見える。
「何だろ……これ」
しゃがみ込んでそれを観察する。すると、突然鞄の中がガタガタと動き始めた。俺は宝箱の仕業だと鞄を抑え込むも、宝箱がファスナーを開ける方が早くあっという間に外に飛び出した。
「あぁ、こら!! 勝手に動くな!」
街の人たちに見られたらそれはそれはとても面倒なことだ。俺の視界離れたらより一層厄介である。咄嗟に手を伸ばすも、その手は一瞬にして手持ち無沙汰になった。
俺は今度は別の意味で声を上げた。
「え?」
視線の先には、宝箱もどきと巨大雫が互いに見つめ合っている。ぴょんぴょんと跳ねたり、くるくる回ったり表情が物理的にないため嬉しいのか悲しいのかは分からないが兎に角賑やかなのは理解できた。
そこで俺はとあることに気がつく。
「え? こいつお前の友達……?」
俺の言葉に反応した宝箱もどきたちはゆっくりと頷いた。
ともだち……?
ともだち、トモダチ、友達……。
友達?
「えぇぇぇぇぇぇ?!」
まさかの出来事に叫び声を上げるしか、この感情のぶつけ方は分からなかった。
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