剣山夏目③
俺の目の前には、木製の宝箱が倒れている。宝箱と言う割にはサイズも大きく両手で持たないと丁度良いとは思えなかった。
「しかもなんかこれ、古っ! 所々にちっちゃい穴があるし……」
鞄を地面に置き宝箱の方へと駆け寄る。
「てか、これ誰かの落とし物だったりするか……?」
辺を見回すと当然、俺以外歩いている姿はなくがらんとしていた。宝箱が出てきた草木の近くに住宅街があるわけでもない。
「よいしょっと……」
持ち上げると少し重みがあった。
どうやら中に何か入っているらしい。気になり振ってみるも、何も音がしなかった。
「こりゃどんでもないお宝が入ってるんじゃね?」
そう呟くと途端に胸にワクワク感が湧いてくる。それなら善は急げだ。早く家に帰って、中身を拝見しなければ。鞄を持ち、更に宝箱を両手に抱えてアパートへと続く道を歩き始めた。
アパートの自室の扉を開け、靴を適当に脱ぎ捨てる。辺りは夕暮れをすぎ、夜へと溶け込もうとしている。部屋の明かりを付け、古びた宝箱をテーブルに置いた。
「さぁて、お宝は一体何だろうな〜!」
俺は目の前の宝箱を再び掴む。正面に見える鍵穴はどうやら壊れているらしく、蓋を触るとパカパカと僅かに開くことができる。俺は、勢いよくその蓋を開けようとした。
「んっぐぅ! あっかねぇ……?!」
だがしかし、蓋を開けようとすると途端にビクともしなくなった。まるで、中から必死に閉じようと力を込めているみたいに開かなくなったのだ。
「んだこの野郎っっっ!! ……ボロいくせに中が頑丈とかふざけんなよぉ……!!」
力を振り絞り、蓋を必死に開けようと必死になる。これじゃまるで瓶の蓋が開かなくなったときのようで、似たような体験を、しかも宝箱で遭遇するとは誰も思わないだろう。
「んぐぐぐぐ!!! って、わぁ?!」
思い切りこじ開けようとする中、床に足を滑らせ俺は尻餅をついてしまった。その途端に、宝箱は宙に浮く。よく見ると蓋が大きく開き、一瞬だけ中身が見える状態になった。
俺が凝視する間も無く、宝箱は床へ叩きつけられる。俺は中身が飛び出してしまうのではないかと不安になり、痛む尻をさすりながら宝箱に手を伸ばした。
刹那、宝箱からギザギザの歯が飛び出し勢いよく蓋を閉じようと俺の手を挟んだのだ。
「いっだぁ?!」
指の関節から広がる痛み。思いっきり皮膚に何かが刺さったような妙な違和感。今何が起きたのがよく分からず、目がチカチカする。俺は、それを理解するのに数秒かかった。
やがて、何が起きたのかを理解する。途端に血の気が引き、顔を真っ青にしながら必死に宝箱から手を振り解こうと振り回した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の悲鳴と共に俺の手を噛んだ宝箱はビクともしなかった。やがて、勢いよく離れ再度宝箱は放り投げ出される。
しかし今度は、乱雑に倒れることはなくしっかりと底が床につくように着地した。俺はその光景を見逃さなかった。そして、更に困惑を隠せずにいられなかった。
「痛っ! って、は? これ、血……? 待って待って? え、噛まれた……?」
手にはくっきりと噛まれた痕が残った。深く噛まれた所には、血がダラリと流れる。小さな怪我とは思えないが何故か冷静に手を見つめてしまった。
俺が宝箱にゆっくり視線を移す。宝箱は、先程のことがなかったかのようにいつものままだ。
すると、俺の携帯が振動する。
画面には、
『もしもし、トキ?』いつもよく聞く安心した声が耳中に広がる。
俺は大きな声でスマホに向かって叫んだ。
「夏目ぇぇぇぇー! 聞いてよぉぉぉ!!」
『な、なんや?! そんなにデカい声出して……』
「あのクソ宝箱がね!! 俺のことを噛んでね! いや勝手に持ち出したのは悪かったけれどさぁ!! もう、酷いんだよぉぉぉ」
『ま、待って。話が一ミリも理解できへん。てか、クソ宝箱ってなんやねん』
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