剣山夏目②
「変な夢ぇ?」
「そうや」
夏目はうんうんと頷くと更に会話を進める。
「オレがな、こんななっがい剣を持って駆け回っとるんよ」
夏目は両腕を縦に伸ばし、剣の長さがどのくらいなのかを伝える。
「それで目の前に、でっかい化け物がいてな。確か……ドラゴンとか言う奴やったか」
「へぇ、それは良かったじゃん」
「良かったって感想が適当やな。そうじゃないんよ」
「と言うと?」
再びグラタンを頬張りながら夏目の答えを待った。
「それがいっぺんだけやったらええんよ。だけどなオレの場合、それをなんべんも見るんや」
「なんべんも……」
夏目の会話の一部を呟く。夏目は真剣な眼差しで俺を見つめていた。なぁ、これって可笑しいだろうとでも言うみたいに。
「それ、アニメの見過ぎじゃね?」
「オレはアニメより漫画派やで」
「異世界ものとか……」
「んえー? 最近は、ホラー見とる」
夏目は俺の質問に次々と首を振る。他の案を思い浮かばせようにも思い付かず、言葉に詰まった。俺はグラタンを食べながら夏目の様子を伺う。
「でも、同じ夢を見るって怖いなぁ」
「せやろ? 何かの祟りやったらどないしよう」
「落ち着けって、いずれその夢も見なくなる筈だし!」
夏目とは会社からの付き合いで、大阪から東京へとはるばる上京してきたのだ。生まれも育ちも東京都の俺からすると、慣れない環境で起きるストレスが原因なのではないかと軽く考えている。
夏目は溜め込む癖があるからなぁ……。
変に病まないと良いんだけれど。
グラタンを食べ続けながらそう考えていると、夏目が「おおきにな」とお礼を言い始めた。何が何だか分からず首を傾げると、夏目は薄い笑みを浮かべていた。
「こういう相談は、トキにしかできへんからほんま助かるわ」
「いや、俺別に何もしてないよ……?」
「何もしないは何かすることと同じやで。東京に上京して、右も左も分からんオレを引っ張ったのは紛れもないトキや」
「夏目……。でも、何かあったら俺に言えよ?」
「おぅ、おおきにな。トキ」
夢っていつの間にか忘れているもんだし、本当に何もないと良いんだけれど。
◇◇
「ふぃー……。やっと仕事終わったぁ」
思い切り腕を伸ばし、出来上がった資料を見て満足げに頬がニヤける。あたりを見回すと既に退社した人や、未だに作業を続けている社員もいる。
「夏目は用があるからって言って、帰っちゃったし俺もそろそろ帰るかー」
特に残業することもないため、パソコンを閉じ急いで帰る準備に取り掛かった。
会社を出た後、俺はアパートへと向かう。そこへ着く頃には、人の気も減りあたりが静まり返っている。その道中、近くで生い茂る草木から何やらガサゴソと物音がした。
「ん?」
俺が近付くと、その草木からポロリと何かが落ちる。鈍い音と共に地面に叩きつけられたそれを見て俺は凝視した。
「何だこれ、宝箱ぉ……?」
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