異世界転生症候群〜同僚の前世は勇者だったらしい〜

剣山夏目①

「なぁ、トキ。ちょっと聞いてくれへんか?」


 そう言って注文したカルボナーラをフォークで突くのは同僚の夏目だった。俺はグラタンを食べるのを止め、スプーンを置く。


「どうひたんだ? なふめ」

「ってこら、口に入れたまま喋るのはアカンっていつも言ってるやろ〜?」


 夏目は苦笑いしながら、俺のおでこにデコピンをかます。弱い力で皮膚を蹴られるもその衝撃で目を瞑る。そして、口の中に広がったチーズとマカロニをゆっくりと噛み込み、漸く飲み込むことができた。


「それで? 夏目がそんな深刻な表情をするって珍しいじゃん」

「ん〜……。まぁ、そんなんやけど」

「あっ、もしかして上司の聖川ひじりかわさんに変なこと言われたんだろー? 神がどうちゃらこうちゃらって」

「そんなんいつもの事やろ。あの人、よう分からんことをいっつも言うからな〜。ほんま困るわ……」


「って、そんなことやない」夏目は首を振った。


 彼の行動に俺は更なる疑問を抱かせる。上司の奇行に苛まれることが日常茶飯事ならば、夏目が今悩んでいることは一体何だろうか。


「もしかしてずっと大阪に住んでたから、東京ここに飽きたとか?」

「そんなわけないやろ。寧ろ、トキがいるから楽しいで」

「んふ、そんな嬉しいこと言っても何も出ないからなー!」

「奢ってもらおうって考えてたけど、その作戦は失敗だったみたいね」

「お前なー」


 夏目の軽い冗談を聞くことができ、そこまで思い悩んでいる訳ではないようだ。俺は少し安心した。しかし、一度会話を閉ざすと夏目は再び眉を下げた。夏目は一つ、ため息を吐くとその胸の内を呟き始めた。


「最近、変な夢を見るんよ」


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