第17話-絶景と気の緩み

ジョセフのて仕事をらジッと見ていた俺は暇を持て余すように彼に提案した。

「なぁ、水浴びする前に海で少し泳いでもいいか?」

すると、ジョセフは俺を見て、少し心配そうに俺を見た。

「いいですけど、寝不足なんでしょ?大大夫ですか?」

「昔から、泳ぐ事は得意だったんだ。海や川はよく遊びに行ったし。そんな遠くまで行かないから。直ぐそこで水遊びするだけにする。」

とは言っても、最後に泳いだのは十年も前だけど。

水の底は透き通っていてよく見えているし、流れも無いに等しい。注意してれば深い場所まで行く事は無さそうだ。


ジョセフは少し心配そうにしていたが、仕方ないか、という風に微笑みコクリとう頷いた。

「分かりました。変だなって思ったらすぐ上がって下さいね?」

「おう。」

俺は上着をモゾモゾと脱ぎ、ポイっとジョセフの持ってきたバスケットに投げる。

「え!?ちょっコースケ!?」

ジョセフは女の裸でも見たようにそっぽを向いてしまう。俺はキョトンと彼を見た。

「なんだよ。男同士だろ?この時代にもあるだろ?裸の付き合いってやつ。風呂とかさ。」

そう言うが、ジョセフはフルフルと顔を振る。

「大昔はそういうのもあったらしいですけど、今は裸を見せる相手なんて、限られた仲でのみです。」

「そうなのか?窮屈だな。まぁ日本でも銭湯や海水浴場以外で脱ぐ事もないな。でもお前、それでどうやって水浴びしようなんて言ってきたんだ?」

訝しげにジョセフに言うと、彼は恥ずかしげに俺を見上げた。

「交代で、と思ってましたけど。」

まるで、乙女のようにそんな事を言う。これでよく恋愛術を教えるなんて言えたなと思う。

「ったく。俺の半裸見ただけでそんなオドオドしててどうすんだよ。お前の客の色仕掛けはこんなもんじゃねーだろ!!」

ジョセフをビシッと指差して言うが、彼はゲンナリと項垂れる。

「はぁ。コースケって本当に恋愛経験ないんですね。」

「ねーよ。だから教えを乞うてるんだろ?」

「まぁ、……そうでした。」

ジョセフは溜息を吐くと俺を見上げた。

「泳ぎに行くんでしょ?あんまり遠くに行っちゃ駄目ですからね。」

真っ直ぐに、真剣な表情で見つめられる。オリーブ色の瞳はまるで射抜くようで、今度は俺が恥ずかしくなってきた。

「わ、わかってるよ。んじゃちょっと行ってくる!」

靴を脱いでバシャバシャと海に入って行く。チラリと後ろを向くと、いつも通りのにこにこと微笑むジョセフが手を振りながら見送っていた。


なんだアイツ。いきなり雰囲気変わりやがって。


顔が熱い。胸が騒つく。そんな妙な気分を海で洗い流そうと海水の冷たさに集中する。

胸の辺りまで浸かると、辺りに色とりどりの小魚が寄ってきて、幸いにもすぐにそちらに気を逸らす事ができた。


大きく息を吸い、ざぶッと潜ると、音はくぐもって聞こえ辺りを気泡が包んだ。

そっと目を開けると、そこには写真でしか見た事が無い程に美しい世界が広がっていた。


凄い。白い砂地に草原のような海藻が沢山生えており、緑の絨毯のようだった。ゴツゴツした岩場は色とりどりの小魚達の住処のようで、沢山のくるくるくると踊るように戯れている。よく見れば、貝やヒトデにイソギンチャクなんかもいて、夢中で見てまわった。

息が続かずに一度海面に上がり、胸いっぱいに空気を吸う。

「ぷはぁあ!」

少し深い場所で立ち泳ぎをしながら砂浜を見るが、そこにジョセフはいなかった。


キョロキョロと辺りを見ていると、違う場所から声がした。

「コースケー!」

声の方を見ると、ジョセフは岩場に移動して、そこから網を投げてながら、俺に手を振っていた。

「ジョセフ!ここ凄く綺麗だな!」

「綺麗なのはそうなんですけど!そこ深くなってるから危ないですよー!」

そう遠くから叫んでいる。けれど問題なく泳げているしなぁと思いながらも、ジョセフの心配そうな顔を思い出す。

「わかったー!」

俺は彼の言葉に手を振って答え、海中を見ながら戻ろうとまた海に潜った。


よく見ると確かに足場はだいぶ離れた場所にあり、夢中になりすぎたなと岸を目指した。


ん?なんだあれ。


少し泳いでいると、キラキラと輝く石を底に見つけ、潜ってそれを手に取る。よく見ると、貝殻が研磨され石のように見えるだけのようだったが、白乳色に光がさすと虹色に光りとても綺麗で、ジョセフへのお土産にしてやろうと、それをポケットに入れ水面を目指した。


大したものじゃ無いし、彼は見慣れた物かもしれないけれど。俺は綺麗だと思ったから。


早く戻らないとな。


そう思い、呼吸をするために水面に顔を出した瞬間、片足が引き攣り激痛が走った。

「うわっ!?ちょっ……ッ」

必死に泳ごうとするが上手くいかない。慌てふためきバシャバシャと不格好に水面で暴れる。口に海水が入り思うように呼吸できず、恐怖に襲われる。なんとか泳ごうとするがどうにもならず体力の限界がきて、俺は、引き摺り込まれるように海に沈んだ。

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