第16話-海
抜けるように青い空、その水平線が同じ色をしているものだから、どこからが海なのだろうと目を細めてしまう。
紺碧に輝く海。入江は狭く波は穏やかだ。
俺は、ジョセフの誘いで海に来ていた。
二時間ほど前……――。
朝食の後片付けを終えたジョセフは、振り返って俺を見た。
俺は椅子に座ったまま、大欠伸を噛み締めている。
「眠いならお昼寝でもします?あっちのソファー気持ちいいですよ?」
指を差していた先は、応接室だ。きっと心地良い。すぐに眠ってしまうだろうとは思うが。
「やめとく。」
「どうして?」
「今寝たら夜眠れなくなる。夜寝なかったら朝眠くなる。それが続いたら時差ぼけは直らないだろ?」
「ああ、なる程。じゃあ寝られないですね。」
とはいえ、眠くて仕方ないのも事実で。俺はやっぱり欠伸を噛み締める。
そんな様子を見ていたジョセフは、また俺を見つめ少し考え、あ!と何か思いついたように俺を見た。
「コースケ、水浴びに行きませんか?」
そう言われ、ぱぁっと笑顔になる。
「いくいく!行きたい!」
この様子にジョセフは嬉しそうに笑った。
「じゃあ準備しますね。」
――……そう言って連れてな来られたのがこの浜辺だったというわけだ。
「この先の岩場に海に流れ出す川があって。そこにある滝がちょうど良い水浴び場所なんです。人も滅多に降りてこないし、安心ですよ。」
砂浜に座り、風を浴びる。波の音は柔らかく白波は優しく砂を攫っていた。
「へぇ。凄い場所だな。眠気も吹っ飛んだ。」
そう言うと、ジョセフは楽しそうに笑う。
彼は着替えやタオルの入ったバスケットとは別に、投網を持って来ていて、彼も砂浜に座り、何やら準備をしているようだった。
「投網で魚取るのか?」
「はい。沢山取れたら干物にしようかな一つ
て。」
「へえ。そういうのはお婆さんから教わったのか?」
何やら楽しげで、俺まで笑顔になる。
「そうですね。祖母に教えてもらいました。生活の知恵の大半は祖母が教えてくれて、後は従軍中に。」
日本では聞かない話だ。一般人が従軍なんて。本当に住んでいる世界が違う。
「聞いていいのか分からんが、家族はお婆さん以外にいるのか?」
「いませんね。一家離散して、俺は幼い頃に運良く祖母に引き取られて、もう父や母が生きているのか死んでいるのかも分かりません。」
「探そうとは、思わないのか?」
「思いませんね。俺の家族は祖母だけです。」
ずいぶんと踏み入った話をしてしまったが、ジョセフからは、悲みも怒りも寂しさも感じない。ただ淡々と、事実だから。というそんな感じだ。変な事を聞いたと謝るべきか?と考えあぐねていると、ジョセフはふふッと笑った。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
「朝、家族みたいって言ってくれたのを思い出したら嬉しくて。今はコースケが家族ですね。」
幸せそうな笑顔で見つめらて、俺まで照れ臭くなり、俺は頭を掻きながら目を逸らしてボソリと言った。
「そ、そうかよ。じゃあよろしく、な。」
「はい!」
彼が楽しそうなら、まぁ、それでいいか。
俺は戸惑いながらもそう思ったのだった。
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