第12話-夕焼けよりも

気付けば窓の外は夕日色に輝いていた。


「ああ、もうこんな時間か。」

窓を見つめてそう言うと、ジョセフは、よいしょ、と立ち上がった。

「コースケと話してると時間忘れちゃいますね。」

俺は座ったまま、彼を見上げた。


「どこ行くんだ?」

「明るいうちにコースケの部屋の準備を。あ、別に一緒の部屋でも……」

「無理だな。部屋準備してくれ。」

「あはは。はぁい。」

ジョセフは冗談めかしてそう言うと、俺の即答に笑いながら二階に行ってしまった。


俺も居間から出て海の見える作業部屋に行く。この、絵画のような窓から見る夕日が見たいと思ったのだ。


部屋に入ると、夕日は海の西側の空を茜に染め、夜のヴェールが裾を焦がしている。

空のグラデーションはまるでガラス玉の中に広がる景色のように澄んでいた。

海は鉛色に染まり西に行くにつれ茜色を反射して輝き、昼間とは違う顔を見せてくれ、大変美しい。 


「……綺麗だな。」


ゆっくりそんな景色を見ていると、天井の階段に当たる部分がギシギシと鳴る。ジョセフが移動しているのだ。


「あれ、コースケ?」

広間に居ない俺を探す声がするので、俺はヒョコリと顔を出した。


「ここだぞー。」

「ああ、良かった。」

パタパタと駆け寄ってくる彼はどこかホッとした様な顔をしていた。

「?、どうしたんだ?」

「いえ……ほら、コースケっていきなりここに来たんでしょう?なら、いきなり帰ってしまう事も、あるのかなって。」

少し寂しげに俺を見るジョセフが、頼りなく見えて、俺は彼の髪をフワフワと撫でてやる。

「そんな簡単に帰れたら苦労しねぇよ。もしかしたら一生このままかもなァ。」

そう言ってニヤリと笑ってやると、何故か嬉しそうな顔をする。

まったく変な奴。俺は息を吐いてまた海を見た。


「綺麗だな。こんなに綺麗な夕焼け見たの初めてだ。ずっと見てられるよ。」

「そうですね。」


ジョセフは夕日に感動する俺を見つめて微笑んだ。

「俺は、暗くなる前に色々支度してきますね。ああ、そうだ。これ、俺ので悪いんですけど着てください。」


そういって渡されたのは、綺麗に畳まれたこの時代の洋服だった。


スーツ姿じゃ目立つし、通気性も悪く暑いので、とても助かる。

「あぁ、ありがとう。世話掛けてごめんな。」

普段、自分の事は自分でと考えている身としては他人に頼る事を申し訳なく感じてしまう。

「いつか、ちゃんとお礼する。」

そう言うと、ジョセフはふふっと笑って言った。


「言ったでしょ?ちゃんと打算があって貴方を連れ帰ったんですよ?だから気にしないで。俺のキャットニップなんでしょ?」

彼は後ろに手を組み、俺に触れないように近付くと俺を見下ろして、ゆっくり首筋に顔を近付けた。


「うん。やっぱりいい匂い。」


耳元で囁かれ、不快感ではなくゾクリと身体が強張り一歩後ろに後ずさった。

「……ッ?!こら!ビックリすんだろ!」

「あはは。お礼はこれで!今度、貴方の洋服とか日用品も揃えにいきましょう。」

そう言うと、彼は部屋を出て行こうとする。

「おい!日が暮れる前にやる事あるなら、俺も手伝うぞ?」


そう言って引き止めるがジョセフはにこりと笑って言った。

「大丈夫ですよ。初めての感動は、初めてしか味わえませんから。ゆっくり夕焼け見てください。すぐ戻ります。」


ジョセフはそう言うと部屋を後にした。

彼に言われて、チラリと外の景色を見るが、ジョセフに耳元で囁かれた事が衝撃的すぎて景色どころではなくなっていた。


顔が熱くて堪らない。

女慣れてしてるヤツの囁きって男でもドキドキするものなんだろうか?


何がゆっくり見てくださいだ!

「俺の感動返せよバカ。」


俺は彼の声が残る耳を抑えて、また、ため息混じりに夜に染まり始めた空を見つめた。

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