第11話-本当に好きとしか…

お互い、気になる事ばかりな俺とジョセフは、コーヒーを飲みながら色々な話をした。


胡桃の実や、イチジクのドライフルーツなんかがお茶菓子として出てきて、思いの外楽しいコーヒータイムとなった。


談笑していると、テーブルに肘をついて俺の話を聞いていたジョセフは、ポツリとつぶやいた。

「良かった。」

俺は、きょとんとジョセフを見る。

「ん?何がだ?」

俺はヒョイと口の中に胡桃の実を放り込みながら彼を見る。

「だいぶ緊張がほぐれたみたいで良かったなァって。」

対面で嬉しそうに笑う彼を見て俺はキョトンとする。

「そういえば、そうだな。」

彼の事が知れて、俺の話も聞いてもらえた事で、心が凄く軽くなった気がする。


ジョセフは俺の事を何一つ否定しなかった。その上で、俺がこの環境に馴染めるよう気遣ってくれていたのだ。おかげで、俺は俺らしくいる事が出来ていた。


そんな配慮ができるなんて……。

「お前さ、女にモテるだろ。」

「はい。そりゃもう。」


ジョセフはテーブルに肘をついて、イタズラっぽく笑った。

「なるほどな。」

またコーヒーを一口飲み、俺はため息をついた。

俺がジョセフの立場なら、コイツを警察に連れて行って終わりだ。自分の家に上げようなんて思わない。物騒な現代ではそれが常識だろう。


しかし、彼の人となりを知った今は、警察に置いてけぼりのジョセフを想像すると、かなり心が痛い気もする。


……が、これは、あくまでも初動の話だ。いきなり家に来いとはならないだろ。


うん。やっぱりならない!


ジョセフの良心を疑うのは失礼かもしれないが、彼の様子だと俺を拾う時には自分の手元に置こうと決めていたのでは無いだろうか。あまりに最初から親密度が高いというか。


調香に貢献して欲しいと言われて納得たが、これも彼の作戦の内だったり?


今度は闇の組織のボスのように、フフフ。と悪党っぽく笑うジョセフを想像してしまう。

俺を油断させて、天涯孤独な俺を売っぱらうつもりだったりして……。


ニコニコと笑う彼を見て少し警戒する様に聞いてみる。

「なぁ、お前はなんでそんなに俺に親切なんだ?もしかして、俺、売られるのか?」


その言葉に、ジョセフはポカンて俺を見た。

「え、っと……なんでいきなりそういう解釈になったんですか?」


そう聞かれて俺は不安げに彼を見る。

「ジョセフがあんまり優しいから、油断させて麻袋に詰めて海外に売り飛ばされたり奴隷商に売り飛ばされたりとか想像した。」


そう言うと、ジョセフは慌てて両手を振りながら言う。

「しませんしません!第一、奴隷は法律で禁止されてますから!犯罪ですよ!」

「じゃあなんでそんなに優しくすんだよ。見ず知らずの男だぞ?」


また俺が問うと、俺にどう説明したものかと頭を悩ませているようだった。


「別にコースケを騙そうとか、そういうのじゃないですよ?ほら言ったでしょ。匂いが好きなんです!だから好感しか持てないっていうか。メロメロ……なんですよね。」


「めろめろ……?。」

ドン引きしたようにジョセフを見ると、彼は更に慌て始めた。


「い、今のは失言でした!違くて、えっと、なんて言うのかな。ほんとに好きとしか……っ。もちろん探究心を煽る香りでもあります。あ!もしかしたら、コースケが来たから俺は未来で有名になるのかもしれませんよ!?」


その言葉は、ストンと俺の腑に落ちる。


俺が未来的な香りを持って来たからジョセフが有名人になるのか。なるほど。


「つまり俺は来るべくしてココに居るって事か。」

「そう!そうです!俺は貴方を養う義務があるってビビッときたんですよ!」

俺が納得しているため、ジョセフはホッとした様にそう言った。


慌てふためく彼が面白くてふふっ笑う。コイツの言う事に嘘は無いだろう。彼にとって俺がマタタビみたいな存在というのなら、まぁ想像ではあるが納得できた。


「信じてもらえますか?」

「俺がお前のマタタビなんだなと理解した。」

「マタタビ?」

「猫が匂いを嗅いだり舐めたりすると気持ち良くなる木の枝だよ。」

「キャットニップのこと?」

「なんだそれ。」

「コースケが言ってた通りの効果があるハーブです。」

「じゃあそれ。俺はお前のキャットニップって事だよ。」

ジョセフはポカンと俺を見つめ、少し考えるように目を逸らしたと思うと、また俺を見て真剣に言う。


「じゃあ俺のキャットニップになって下さい。」


あまりに魔の抜けた申し出に、俺はぷは!っと笑ってしまう。

「あはは!分かりやすくていいな!じゃあ俺はお前の……――。」


キャットニップって草なんだよな。食われるタイプの。


「キャットニップにはなってやるが、嗅ぐだけだからな!食うなよ?」

「はい!大切に嗅がせてもらいますね!」

ジョセフは嬉しそうに笑いそう言ったのだった。

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