第6話-馬車の道のり1

気温は少し高いくらいなのに湿度は少なくサラッとした風が頬を撫でて心地良い。

荷馬車を引く馬はゆっくりとしたペースで凸凹とした道を歩いていく。


「コースケはここに来る前の事は覚えてるんですか?最後は何してたんです?」


俺が自分の名前を覚えていたことで、ジョセフは俺の記憶がどこまで欠落しているのかが気になったようだった。


「最後の記憶は夜に同僚と飲み屋に居た事だな。そっから帰ってて穴に落ちたかと思ったら、昼間になってて困惑してる。」

苦笑してそう言うと、ジョセフも前を向いたまま笑う。

「なるほど。記憶飛ぶくらい飲んだのが原因?でもお酒の匂いはあまりしませんよね。」

そう言うと、ジョセフはまた匂いを嗅ぐような仕草をした。

「記憶が飛ぶほどは飲んでないな。穴に落ちて、急に世界が変わったみたいな……とにかく、全く違う場所に居た。夜だったのに、昼になってるし。」


ジョセフは軽く相槌を打つとまた俺に問いかけた。

「じゃあ、コースケはまったく違う世界から落っこちて来たって事ですか?」

「まぁ、……多分そうなる。」

自分でもおかしな事を言っているなと思う。嘘は言ってないが、もし自分がジョセフの立場なら関わらない。居心地悪くしていると、彼はふぅんと相槌を打った。

「それは災難でしたね。」

「へ?」

「どうかしました?」

ジョセフの言葉に呆けた声を出すと、彼はキョトンとする。

「いや。スルッと受け入れたなと。」

すると、俺の姿をまじまじと見つめてくる。

「あはは。違う世界からポンッと現れたって言われたら、納得できるなって。」

今度は俺の方が訝しげにジョセフを見つめる。


いやそれは普通納得出来ないだろ。


すると彼は困った様に笑いながら俺の服を指差した。

「貴方の身に付けている衣類、生地がこちらの物よりしっかりとしていて、貴族様の物に似ていますが、シャツもジャケットも、装飾が無く簡素です。しかし高級感があってすごく珍しい。クラバットも見た事の無い形ですし興味深い。ここじゃない何処かから来たっていうのは頷けます。これ、仕立て屋に持って行けば高く買ってくれますよ。」


「そ、そうなのか?俺でも自分の言い分じゃ、かなり怪しいと思うんだが。」


「あはは。なんでコースケが自分を疑ってるんですか?」

予想しなかった答えに狼狽していると、彼は吹き出す様に笑いながら聞き返した。


「いやだって、お前適応力ありすぎだろ。俺だったらこんな怪しい奴拾わねーよ?」

「それ、自分で言っちゃうんですか?やっぱりコースケは悪い人じゃないですよ。」

そう言って笑う優しい笑顔に俺は心底ホッとしたのだった。

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