第4話-え、俺死んだ?


「わぁぶ!?」


突然周りが明るくなり、草の上に投げ出され、顔面で草を擦り潰す。

上から落ちてきた筈なのに、横から投げられたような落ち方をした自分に頭が混乱した。


「ッ???!」


なんだ?急に明るいし……急に暑い。

確か今は十月も終わり頃だった筈だ。いきなりの環境変化に身体も驚いたようにドクドクと胸が緊張を知らせる。


「なに!?なんなんだ!??」


気持ちいいくらいに転んだ身体は、幸運な事にかすり傷ひとつ無かった。

あちこち見てみるが、服が破れたりも無さそうでホッとした。


次第に鼓動も落ち着き、大きく深呼吸をして俺は改めて周りを見る。


しかし、ただただ草地が広がっているだけで、目立つ物といえば、所々に剥き出しになった白い岩くらいだ。


「てか……、アレに衝突してたらタダじゃ済まなかったな……。」


ゾクリと悪寒がして両腕を摩る。

見たところ、のどかな初夏の草原。襲ってきそうな動物なんかは居なさそうだ。少しだけ自分に余裕が出てくる。


「……なんなんだ、ここ。」


立ち上がり辺りを見回すと、草原の少し向こうにゴツゴツとした岩山とまたその先に微かに見えるのは、真っ青な海だった。


「はは……夢……?」

さっきまで都内で瀬木と飲んでいて、しかも夜で、帰りに歩きながらスマホを見ていたせいでマンホールに落ちてしまった……はずだ。

こんな所を歩いていた記憶も住んでいた記憶も無い。


「あ、もしかして俺、死んだのか?」


天国とはなんとリアルな……。


「いやいや、死んでもスマホ持ってんのはおかしいだろ。」

足元に落としていたスマホやパンフレット類を拾い上げる。そしてスマホの画面を確認して苦笑した。

「はは。しかもご丁寧に圏外だし。」

とりあえず拾った物はカバンに仕舞い、ボリボリと頭を掻いた。


「えー……俺死んだ?天国ってこんな気温高いのか?」


頭の中は大混乱なのに、身体はやけに冷静に動く。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め、ワイシャツの袖を捲り上げる。


そして俺はキョロキョロと辺りを見回した。

「何はともあれ誰か探すか。天国にしても、幽霊の一人くらいいるだろ。」


ビル群なんてどこにも見当たらず、見えるのは、澄み渡る青空、草原と白い岩場、南国かって程に綺麗な海、だけだ。


小鳥がさえずり風が草木を揺らす。こんな状況でなければ仕事のストレスを癒すのにとても良い場所だとも思う。

よくよく見れば、生えてる植物も知らない形ばかりだ。


「ほんと、どこなんだここ。」


まさか、実は海外までりょこに来てて……さっきの衝撃で記憶喪失になったとか?


そんな事を考えて、自分の姿を見る。海外旅行の格好じゃ無いだろ。モロ仕事帰りだ。


……だめだ無理がある。


あ、出張か?それならこんなヨレたスーツ来て行かないか?

あぁ。……てかウチに海外の取引先は無かったわ。


「はぁ。」


俺は考えても仕方ないと、諦めたように周りを再度見渡し、少し歩いてみる。

すると、草原を横切るように土を固めただけの道を見つけた。

少なくとも人はいるようでホッとする。

まぁ俺が幽霊だったとしてもだ、足があるわけだから、道は有難い。


「この道を歩いてれば誰かに会えるよな?」

誰に問うでもなくボソリと独り言を呟く。


誰か探して、ここが何処なのか聞こう。

死後の世界でもなんでも、場所が分かれば次が考えられるだろ……。


一つ目標が出れば、途方に暮れていてもなんとか体が動くものだ。

俺はヨタヨタと道の端を歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る