第3話-青年と香水展
「はぁー、明日やっと休みだ。寝るぞー!」
ふと額が風通しが良いことに気が付き髪に触るとヘアピンを付けたままだった。
流石にスーツ姿でサンルオヘアピンを付けて歩けないので、取り除き前髪を申し訳程度に整える。
「サンルオに罪はないだろ。趣味にまで口出しやがってオカンかよ。」
ブツクサと今は居ない瀬木に文句を言いながらカバンにヘアピンを仕舞いながら歩いていると、前方を見ていなかったせいで、対面わ歩いていた青年にぶつかってしまった。
「うわっ!」
青年はカバンを落としてしまった拍子に中に仕舞ってあったノートや教材がトートバッグから飛び出してしまい拾うためにしゃがみ込む。電灯の下で良かった。これなら落とした物全て拾えそうだ。
「すみません!よそ見をしてて。手伝います。」
大学生だろうか難しい本ばかりだった。
俺は慌ててそれを手伝った。すると青年の教材を拾う手がピタリと止まる。
「あの、貴方のお名前は何といいますか?」
「え、華束と申しますが…もしやお怪我でもなさいましたか??」
やばい。やってしまったか。
そう思い、ぱっと青年を見ると、青年はポロポロと涙を流し始めていた。
「なっ!本当に大大夫ですか?病院行きますか?救急車!?」
彼は驚いている俺の表情を見て慌てて否定してくる。
「あ、すみません。なんとも無いので。」
いやいや……なんかあっただろ。
俺は苦笑して、俺は内ポケットから手帳を取り出す。
「今はなくても、後からでも何かあればご連絡下さい。」
そう言うと電話番号と名前を書いて青年に渡す。
「あ、ありがとう……ございます。」
荷物を拾い終わり、青年と立ち上がると青年は俺より背が高く、立った拍子にフワリと良い香りがした。
「あ、あの、ありがとうございました。あの、か、た……ばさん。そのッ、香水に……ご興味はありますか?」
俺は首を傾げる。いきなり何を言い出すんだろう。
「申し訳ない、香水はよくわからなくて。」
困ったように笑いながら言うと、青年は少ししょんぼりした様子だった。
しかし、気を取り直したように、トートバッグに手を突っ込んでファイルを取り出すと、中から何かを取り出した。
「あの、良ければこれを。親切にして頂いたお礼です。今、これしかなくて。」
青年が渡してきたのは、近くの博物館のパンフレットとチケットだった。
「香水展をやってるんです。良かったらいらして下さい。」
パンフレットには、調香師の歴史と書かれている。興味は無いが雑学として知っていても良さそうな内容だった。
「ありがとう。休みの日に行ってみます。」
俺の反応をジッと見つめていた青年は、にこりと笑う。
「はい。是非!」
そんなやり取りをした後、俺はパンフレットを見ながら駅に向かって歩き出す。
「香水の帝王、フランソワ・コティ…十九世紀か。女性の調香師が頂点か。すごいな。」
パンフレットには調香についての歴史や香水の種類についての概要が載っている。
「こういうの見ると調べたくなるんだよな。」
スマホを取り出して香水について調べる。便利な世の中だ。
「へぇ…香水って奥が深いんだな…っ…ん?」
突然、フッと足し場が無くなって浮遊感が身体を襲う。
「へ?は?」
そのままその穴に、ズォオッと吸い込まれるように落ちていく。
「わぁぁあ!?」
なんだ!?マンホールでも開いてたのか!?
どこまでも落ちていく。ごぉぉっと耳の横で風が鳴る。
深ッこれ死ぬやつだ…っ
ぎゅっと目を閉じる。
やばい!マジで死ぬ!!!
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💠売れない調香師が帝王と呼ばれた理由が俺だった件。 pasuta @pasuta58
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