第三話 二拍手①
「華子さん!連れてきました~!」
「ようこそ。待っていたわ。改めましてこの
神社の
「さ、とりあえず座って」
華子さんが座布団を用意しながら言った。
「華子さん、先程――――」
東さんが先程のトネさんの件を座りつつ、つらつらと報告した。
「お疲れ様。やっぱり最近
「
「恐らくね」
三人が何やら話しているので、邪魔しないようにしていると、
「ま、とりあえず今はあそこで気まずそうにしている子の件からね」
華子さんがクスっと笑いながら言った。
「――――まずはあなたに謝らなければいけないわね。入院中にあなたの気を引くために、色々小細工も仕組んだし、傷心中の心に付け入るような素振りもしてしまったわ。ごめんなさい」
華子さんが正座したまま深く頭を下げた。
「ちょッ土下座!? 華子さ――」
「早乙女」
東さんが言葉を
「――――顔を上げてください華子さん。これから上司になるっていうのに……」
「上司……」
顔を上げた華子さんが呟く。
話を続ける。
「入院中の出来事に関してはちょっと複雑な気持ちです。でも、入院してる時、絶望で体が押し潰されそうになった時、生きる活力になったのはあの時の華子さんのお陰でもあります。それに声まで
お返しとばかりに頭を深く下げた。
華子さんが「やっぱり貴方をスカウトしてよかったわ」とボソッと呟く。
オホンッと咳払いした華子さんが問う。
「響君、今一度あなたに問うわ。あなたは神職になり、この街を守る覚悟がありますか?」
――――少し間を空けて、口を開く。
「正直歌手に復帰したいです。
でも、自分の歌であのような化け物を育ててしまったのかもしれないっていうのが、昨日今日でわかりました。
神職として訓練すれば、そんな事が無くなるかもしれない。
神職として訓練すれば、ファンの方々をもっと勇気付けられる歌も唄えるようになるかもしれない。
そしたら……そしたら俺は歌手としてもっと大きくなれると思うんです。
それまで歌手は休止したままにしようと思います」
「それに、事故で声を失った自分にまた声をくれたあなた達は、命の恩人です。俺は皆さんに恩返しをしたい。
俺の力が役に立てるなら――――」
「神職になります。よろしくお願いします!」
改めて深くお辞儀をした。
「わかったわ。ようこそ」
「後輩が出来た!おい、パン買ってこい!アハハ!」
「神職は年中人手不足だ。こちらこそよろしく頼む」
3人が歓迎?してくれている。早乙女さんがバンバンと背中を叩いた。
「それに、昨日本物はどっちだろうって言いましたよね? ちょっと考えたんですけど、自分はどっちも本物だと思いました! 根拠はないですけど……」
――――華子さんが目を見開き、虚を突かれた表情をした。そして口元に添えた手からはみ出るほどの口を開けて、快活に笑って答えた。
「そうね、そうかもね」
思いがけない華子さんの姿を見た三人は、さらに目を大きく見開き、
このギャップは誰でも虜になってしまう。
その時、耳元で何かが語りかけてきた。
「ほぉぉ~!これはまためんこい」
驚きと同時に瞬時に振り向いたが、誰もいない。
何か気付いた表情をした華子さんが口を開いた。
「
もう一人?今語りかけてきた人だろうか。
「入っていいわよ」
「は、はじめまして。
な、なんだか大々的に発表されたみたいで恥ずかしいですよ華子さん……それになんか盛り上がってたみたいですし……」
12歳、まだ子供だ。この子も神職なんだろうか?
「いいじゃない。大物参上。って感じでかっこよかったわよ」
華子さんが彼に語り掛ける。
「あ!」早乙女さんが少し大きな声をだした。
「うちら歳言ってない!私17よ」
「そういえばそうだったな。俺は20になる」
「18です」
じぶんを指さして言った。
「私は26よ。あ、病院で前言ったっけ。私だけ随分おばさんだわ。悲しくなっちゃう」
華子さんが口元を緩ませながら言った。
早乙女さんが間髪入れずに答えた。
「そのくらいが女として一番魅力爆増ですよ! おい響!華子さんに気ィ遣わせんな!」
「年齢の流れ作ったの早乙女さ――――」
「あと私の事は下の名前で!敬語も禁止!でもさん付けはして!さん付け憧れてるから!」
流れるように早乙女さん、いや
「俺は何も強要はしないぞ。俺はさん付け
「一言多い」
律歌さんがガンを飛ばす。
「じゃあ私もタメ口、さん付けも無くていいかも」
「「いや駄目(よ?)です」」
2人が同時に自分と華子さんに釘を打った。
「あらそうかしら」
「わかってるって!」
こちらも同時に答えた。
「アハハッ、なんか皆さん相性良さそうですね!この神社も賑やかになりそうで、<
継君が話を締めた。
この子が一番しっかりしているかもしれない。と3人は頭を掻いた。
「継君も神職なの?」
「…………はい!所謂神社の一般職員の、
「あ~。」と病院でつらつらと説明していた東さんの言っていたことを思い出そうとした。
「一応修行してるんですけど、あまり才能無いみたいで……。なので今は主に神社の事務全般をやってます!」
「……そうなんだ……」
……地雷を踏んでしまったかもしれない。
「あ!全然気を遣わないでください!稽古頑張ります!」
継君がフォローしてくれた。つくづく大人だ……。
「才能が無いと思った子でもある日急に目覚めることもある。変わらず稽古頑張りましょ」
「はい!頑張ります!」
継君が拳を胸に置き頷く。
「さて、これがうち
「少ないと思うだろう? 先ほども言ったが、神職は人手不足なんだ。複数の神社を一人で掛け持ちしている神職も少なくない。
実際うちもここ院瀬神社を拠点に、院瀬区全体16の神社を我々が管理している。お前を入れてこれで一人4つになった。助かる」
「本当ね。助かるわ」
「マジで助かるわ!」
「そういうことね…………」
色々動きが急だったのに、納得いった気がした。
パンッと華子さんが手を叩き話を変えた。
「さてと、顔合わせは取り合えず終わったことだし、そろそろ響君も稽古を始めようかしら。
継君も稽古参加したいだろうけど、君にはあとで特別な稽古があるから、とりあえず業務に戻ってもらって大丈夫よ」
「は~い!」
「了解です」
「承知いたしました!」
「あの……なんか何もなく神職になる宣言しちゃいましたけど、なんか試験とかないんですか……?」
「うちは神社を
強いていうなれば、私が『なる?』って聞いて。『なる』って答えられたら、立派にうちの神職よ。
よろしくね、
「えー……っと
また新しい単語が出てきた。昨日今日はずっと頭がパンクしそうだ。
作詞作曲をしている時に、多種多様なものをインプットしていた時が懐かしい。
「さすがに見慣れない単語を詰め込みすぎたかもね。また今度詳しく説明するわ。とりあえず稽古場に行きましょ」
華子さんや律歌さんが扱っていた技を自分も使えるようになるのかもしれないと、期待を膨らませつつ、稽古場へと足を運んだ。
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