第二話 二拝②

「さーてと! いくわよ」

 

祓詞はらえのことば: 蜂誇すらぐぼこり】


 そう唱えると彼女の目の前に、蜂の尾の形をしたグローブが現れた。

 

「よっしゃ! いっきまーす!」

 グローブを装着した彼女が敵に向かって走り出していった。


 

 敵の察知に感づいたのか、蜘蛛が慌てた様子で樹を降り、お腹から糸を発射した。

 早乙女さんは瞬時しゅんじに避ける。

 

「東ァ! よろしくぅ!」

 

 こちらに向かってくる糸に対し、東さんが指をさし唱えた。

 

【はじけよ】

 

 糸が粉々にはじけ飛んだ。

 同時に、早乙女さんが敵に正拳突きをお見舞いした——

 

「ハッ!」

 

 拳を食らった蜘蛛が吹き飛び、樹を突き抜け公園の壁に衝突した。

 蜘蛛は大いにひるんだが、鈍い叫び声をあげながら、最後の力を振り絞り早乙女さんに飛び掛かった。

 

「私の拳はまだ終わってないわ!」

【はじけよ】


——彼女がそう唱えた瞬間、敵は空中で静止した。

 

「止まった……!?」

 敵の体の節々がボコボコと膨れ、破裂、霧散むさんした。

 

「幼体だったから楽勝ね!」

 

 そう呟きながら、彼女が帰ってきた。装束が徐々に消えていくのと同時に、祓所はらえども解けていく。

「よし、ではトメさんの所に戻るとしようか。今私たちが行った技についてはまた神社に帰り次第、……神職になるのなら、話そう。

フッ、まだお前は神職になると決めていないんだろう? 守秘義務しゅひぎむってやつだ。 だが職業見学はできたな」

 

「いや言霊の事とか祓所のこととかもう言っちゃってんじゃん。 勿体ぶりたいだけでしょバカ」

 東さんがガンを飛ばした。「なんか文句あんの?」と早乙女さんも飛ばしかえした。「まぁまぁ」と二人をなだめ、トメさんの元へと向かった。


 

 恐らく二人とも、いや三人とも自分が神職になることを確信しているのだろう。その確信は当たりだ。

 また歌手に復帰したいが、自分の歌であのような化け物を育ててしまったのかもしれない。

 神職として訓練すればそのような事が無くなるかもしれない。それに————

 

 

 何やら世間話をしている二人の後ろで一人考えていた。


「トメさん! 公園をお祓いしたから、多分もう声に悩まされることは無いと思うよ! また何かあったら何でも相談してね~!」

「おぉ本当かい! ありがとうねぇ……! いつもありがとうございます〈常世神とこよのかみ〉様」

トメさんが合掌し、お辞儀をした。

 

「そういえば後ろにいるめんこい子はどなた?」

「こいつは新しい神職候補! ほら挨拶!」

「ごめんなさい挨拶が遅れました! 天音響と言います! よろしくお願いしますトメさん!」

 

「あら行儀のいいこと! それにどこかで見たような顔と名前……」

トメさんが思い出そうとしていたが「まぁそれよりも!」と店の奥に入って行った。

「これはお礼のお団子! たんとお食べ。華子さんにもよろしく言っておいてくださいな」

「おぉ!」

 三人で目を輝きさせながら、呟いた。そういえばしばらく何も食べていなかったと、キラキラと光を反射させるみたらし団子を見て思い出した。



「うぅンま~い! やっぱり松喜屋の団子は別格ね……!」

 スキップしながら前を歩く早乙女さんがとろけた声で言った。

「働いた後の体に染み渡るぅ~~」


 「対して動ふぉいてないだろ。」

 東さんが団子を食べながらつぶやいた。

 

 シュッと振り返る早乙女さんと東さんの間に割り込み「これすんごいおいひぃですね! ずっと病院食しか食べてないから感動するぅ~」と空気を切った。

 



 

「とーちゃーく!」

 

しばらく団子を頬張りながら歩いていると、いつの間にか目的地についていたようだ。

「ここが、我らが仕えている〈常世神とこよのかみ〉様がおわしめす〈院瀬区神社いんせくじんじゃ〉だ」

 


 ————神社についた。大きな鳥居の奥に、本殿ほんでんが見える。森がそのまま神社になっているようで、広々としていた。

 今まで神社を見てきたときとは違い、荘厳な何かを感じた。

 それは今までの事があったからであろうか。

 

 一礼し、鳥居をくぐった。



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