暗闇の猫はみな灰色
「TAKIDA」のソードフィッシュは快適に空を走った。
車窓の向こうには
遥か下には低空を行く
更にその向こうの
ソウナは座席に腰かけたまま、意識を集中した。
研ぎ澄まされ、拡張された
──どこか遠くから、緩やかに迫って来る光と音。
脳の奥が熱くなり、チリチリとする感覚。
まさか、デバイスが焼けている訳ではないだろう。
けれども、それ以上続けていると本当に
視界に混ざり込むノイズと、警告を発する幾つもの精神アラート──
──これ以上はいけない!
ネットランナーとして経験が告げてた。
ソウナは意識を閉じると、ときおり僅かな振動を続ける座席に身を任せた。
ソードフィッシュが着陸した最下層は、かつての公園だった。
見渡す限りに、荒れ果てた地面。一切の光が届かない為に植物はない。
錆びて朽ちた遊具だけがその面影を伝えていた。
ソウナは解析した画像を頼りに、
「ANZAI」の
暗闇に沈んだ街角はすぐさま明るさを増し、どこまでも見渡すことが出来た。
現視界に対して幾つかのフィルタリング。
更に情報を細分化──細分化──詳細解析。
ソウナが見つけたのは、肉眼では解らないような淡い足跡。大型のサイボーグではない、小さなブーツ。しかし、踏み込み方で
ソウナはそれを追い掛けた。
歩幅から、全速力で駆けていたのだろう。ならば、何かから逃げていた可能性が高かった。
倒壊したビルを迂回し、路地に入ったときだ。
ソウナはそれを見つけた。
逃げた相手ではなく、きっとそれを追っていた方──
三体の追尾型ドローンだ。
それは一見二枚のように見える、重なり合った四枚の
ソウナが操るものとは違う、球形と流線形のモジュール・ボディ。
狂暴な大顎と、尖った腹部の先に
ソウナはしばらく、それを尾行した。
事を荒立てないつもりだったが、すぐに二つの理由で攻勢に出た。
一つ目は、「こいつ等に見られていては捜索が出来ない」というマトモな理由。
そして二つ目は、こいつらが何を考え、どんな思考ルーチンなのか──
「ちょっと繋がって解析したい」不純な理由だった。
ソードフィッシュから二体のドローンを起動、発進させる。
一体をふらふらと泳がせ、あえて向こうの注意を惹いた。
警戒態勢に入り、追尾を開始する三体のポリス・ドローン。
とはいえ、まだ何も悪いことはしていないし、こんな時の為に武装も解除済み。
セオリーから言えば、すぐさま攻撃されることは無い。
三体が一体に接近して行く中、隠しておいたもう一体が躍り出る。
計算通り、二対一に分かれた!
味方のドローンをそれぞれ反対方向に飛ばし、ある程度両者を引き離す。
そして一体になった方に向かってソウナは駆け出した。
彼女が所持する
耳障りな音で接近し、腹部の
しかし、ふらふらと飛んでいたソウナのドローンが急に牙を剥く!
武装など無いかように思われた
味方ドローンはその細長い脚でポリス・ドローンに抱き付くと、隠されてる
脅威判定の増加によって、引き離されていた別の二体が急接近。
けれども、もうソウナは襲われない。
──解析され、改ざんされた識別コード。
ポリスドローンたちは瞬時に、ソウナを仲間だと認識する。
彼らが立てる、ぶんぶんという楽しそうな羽音。
やがて大人しいペットのように、三体はそれぞれソウナの身体に着陸した。
「──いい子たち。ちょっと見せてもらうね」
ソウナは直接、その一体と繋がった。
ポリス・ドローンの思考パターンは、実に単純でつまらなかった。
ただし、彼らの見た物は面白かった。
逃亡者の後ろ姿を、朧気ながら捉えていたのだ。
ソウナはそれを
問題のものは引っ掛からなかったが、元ポリス・ドローンの報告にはヒントがあった。
ここ最近、破壊された可能性の高いドローンの残骸が見つかったのだ。
ソウナは現場に赴いた。
それはかつての調整池の近くだった。
流れ込んだ濁った汚水が、今にも溢れそうな人工の川──
そのほとりに、二体のドローンは散乱していた。
興味を惹いたのは、鋭い何かによって両断されていること。
しかもその断面は、水に濡れたかのような湿り気を帯びていた。
ソウナはしゃがみ込み、更に調べた。
ドローンには、
装弾数から考えれば、十発以上撃っている。
この中のどれか一つでも当たったとすれば、逃亡者は生きていない可能性が──
ばしゃん!
水飛沫の上がる音──
ソウナは咄嗟に飛び退いた。
周囲に群れ飛ぶドローン──その複眼が、確かにそれを捉えていた。
調整池から飛び出した
彼女の握る
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