キャットランナー 「ソウナ」
ソウナの意識は、トシマ・オーツカの遥かな上空に浮遊していた。
それはさながら肉体から抜け出した
たしか猫の
ならばそのうちの一つくらいは、天界入りしたって良いだろう。
問題はソウナが、天国も地獄も両方信じていない事だった。
「──ソウ、見えてるか? 仕掛けるぞ?」
準備が整ったらしい、地上の仲間からの通信。
「見えてます。いつでもどうぞ──」
ソウナはそう答えると、九つの
それらが今宿っているのは、
ソウナが上空を任されている理由は、まさにこれ。
複数同時操作をしても、顔色一つ変えないからだ。
彼女の本当の魂──あるは、本体とでもいうべき
──汚い仕事は一番遠くから。だって、
それがソウナの信条だった。
ソウナが駆使する九つの眼、つまりはドローンに搭載された複眼が遥か下の地面で最初の銃撃を捉える。
それはかつてバンサク・ネコヅカが愛した、
彼の死後、その最後の残党が立て籠もる根城だった。
ネコヅカの
そもそもやや劣勢にあったネコヅカだが、そのバイタル異常を知った
敗軍に残りたくない防衛的自己保身。
街のネオンの瞬きとは違う、火花の煌めき。
同時に、連続する波長の音波。それは本格的なエンゲージの始まり。
ソウナは編隊を崩すと、三機一組に再編成。
それぞれを
そこに熱感知及び、機械の駆動音、また銃器の発砲音でフィルタリングしたデータを乗せると──
残党がどこに隠れ、何を所持し、次にどう動くかの青写真の完成だ。
そのデータは、瞬時に突入部隊である仲間たちに共有。
それでもソウナは、彼らにアシストを怠らない。
脳内に過剰分泌されたアドレナリンは、気分をアゲてもくれるが判断を鈍らせる。
「九時! それで壁は抜けない!」
「十二時、
若い仲間の
バイタルはフラット。多分、助からない。
人はサイボーグ化したとき、自分が強くなったと思い込む。
そして過信する。
若くして
だからこそ、
自分を突き放し、遥か遠くに立つ。
精巧に組み上げられた機械の視座だ。
そうすれば、終わらない円環の中を駆け続けられる──
現実とマトリクスが混在するソウナの視界に、新たな脅威が警告される。
それは地下二階の
慣性航法と、搭載カメラの画像分析によって電波妨害を受け付けない携行火器。
まさかこんな隠し玉があったとは!
「散開! 照準器の視界に入るな!」
ソウナは怒鳴りながら、各編隊から二機ずつを突進させた。
徐々に二つの三機編隊を編成、片方をホットスポットへ侵入させる。
間に合うだろうか?
相手も無暗には撃てないだろう──必ず位置取りをするはずだ!
ソウナは散開と終結を繰り返し、それを避ける。
そして後方の三機に
ランチャー所持者の出現予定地点に対し、
まるで
煙に巻かれ、所持者が再び移動を開始するのを熱感知で検出。
ソウナは突出させた編隊の一機から、追撃の
相手はまたも位置を変える。
唯一残された、しかしソウナが誘導するある地点へと目掛けて──
次に相手が姿を現したのは、かつてネコヅカが寝所としていた
まるで城の天守閣を思わせるような廻縁と高欄。そこに面した鎧戸から、相手は地上に向けてランチャーを構える。
そいつはあまりにも照準に気を取られ、そして見逃した。
すでに二体のドローンが居た事を。
ぴったりと天井に張り付き、息を殺して、そもそもそこにあった彫像か何かのように──
二体が同時に放った
ミサイルでなく
ALAW諸共爆散し、幾つもの破片となったそれらを見届け、ソウナは次の目標へと移動する。もしかしたら地下に、まだ隠し玉があるかも知れない──
「──余計なことしやがって。仲間全員の眼が
突入部隊を指揮するサイバー
ソウナはあえてそれを無視。
地下へ目掛けて、ドローンを先行させて行った。
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