キャットウォーク
クラブでの大立ち回りから二時間後──
シノの姿はトシマ・オーツカの巨大な
辺りを
シノは今、どこまでも続くような
ネコヅカは先の戦争で脚を怪我し、上手く
「ヤヤ・ヤマはやり過ぎた。ケジメを教えなくてはならない。あるいは刺し違えることになったとしても──」
ネコヅカは、ときおり痛むらしい脚を摩りながらそう言った。
ネコヅカは元々、臨時政府の副首相まで務めた政治家、モチウジ・アシカガと懇意であった。実に壊滅的な被害を出した
特に、彼の兄弟分に当たるヤクザ・マスター「ヒキロク・ヤヤ・ヤマ」は、あらゆる手段でそのシマを削り取っていた。政治と法律、そして最後に限定的な暴力をチラつかせるという、昨今の
時代の波を乗りこなすという意味で、ヤヤ・ヤマはやり手である。そしてネコヅカは、少しずつ溺れつつあるのかも知れなかった。その予感は、ネコヅカ組の中で汚い仕事を担当するシノのような人間にも明白であった。
物言わぬシノの表情に、ネコヅカはそれを感じ取ったのかも知れない。
「なあに、心配するこたあない。儂にはまだ、後ろ盾があるんだ──」
言うと、ずいぶん長い時間をかけて立ち上がり、
「これは儂が、亡きモチウジ副首相から預かった
その言葉に、シノは激しい虚しさを覚えた。
未だ若かった時分に、
シノは、根拠なき希望にすがるネコヅカを、寂しい気持ちで眺めた。
とはいえ、自分から親分を裏切ることはないだろうとも思った。それは
信用できる者とだけ組む──いうなれば、純粋なる
「──お前、眼は大丈夫か?」
ふいに我に返ったように、ネコヅカが言った。さっきからマニュアルとオートの切り替えを試していたのを、見抜かれてしまったようだった。
「ちょっと、問題があるかも。大した問題じゃないけれど──」
「うちの
シノは
向かったのは、
「サイバー・ホスピタル 四白」は、トシマ・モノレール駅の近隣にあり、地上五十階建てのテナントの二十階に位置していた。
シノが自動ドアをくぐると、狭いコンクリートの院内に人の姿はなく、動くものはただ「SATOMI」の新製品のCMのみ。ヤクザと関わっている病院にありがちな、静けさと謎の正体不明感。どうやって経営が成立しているのか解らない、怪しさだけが漂っていた。
受付のデータ認証を終えると、診察室の扉は独りでに開き、合成アナウンスが入室を促す。
室内に座っていたのは、これまた正体不明感のある老人。
最低限の
見ようによっては五十歳にも見えるし、百歳を超えているような印象も受ける。
彼こそが院長のヨシローであり、ネコヅカに言わせれば、腐れ縁の
もっとも、シノがこの老人を信用していないのは、「SATOMI」を取り付けた張本人なだけではない。かつては
「
いかにも責任はないといった様子で、ヨシローは診察もそこそこに、シノを手術室へと招き入れる。
「今度こそ、『ANZAI』なんでしょうね?」
そう言いながら手術台に座ると、ヨシローはわざと装着前の部品をシノに近づけ、
「お前さんの言ったとおりの品だ。探すのに苦労したんだぞ?」と、
人間性は信用ならないが、「ANZAI」なら信用できる。
シノは安心して、身体制御系を手放した。
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