第8話 尾は引かない

「おかえりなさいませ、ダイナ様」


離れの地下室に戻った俺を、クソバスが丁寧に出迎える。

コイツはもはや、俺の忠実な犬だからな。


「もうじき、俺は本邸で暮らせるようになる様だ」


俺がここから解放されるのは、属性変換を覚えてからの事になる。

まあその気になれば即使える訳だが、あえてそれは止めておいた。

下手に才能を見せつけると、余計な警戒を生むだけだからだ。


まだ俺の力は小さいからな。

油断させておいた方がいい。


なので、習得には1週間ほどかける事にしておく。


「そ、そうなのですね。おめでとうございます」


「命拾いしたな。クソバス」


俺はそういってにやりと笑う。


オツムの弱いクソバスは、何らかの理由で俺が完全に見捨てられたと思っていた。

だからやりたい放題していたのだ。

もしそれが続いて俺がガリガリの死にかけだったままなら、こいつは間違いなく男爵によって始末されていた事だろう。


「は、はい。それもこれもダイナ様が私の愚かさを諫め、こうしておそばに仕える事をお許し名なってくださったお陰です」


回帰前、クソバスは両親兄妹が死んで俺が男爵家を継いだ時点で問答無用で処刑している。

7年間もふざけた真似をしてきたのだから当然だ。


じゃあ今回も処刑するのか?


答えはノーだ。

回帰前の罪は、既に命と言う対価で支払われている。

それを今更蒸し返して罰するほど俺も橋梁ではないからな。


今魔法で縛っているのも、単なるセーフティーに過ぎない。


「おべんちゃらは良い、要はないから下がれ」


「は」


クソバスを下がらせてから志向を巡らせる。


まさか父が、俺の闇属性を偽装するための物を探していたとはな……


簡単ではなかったはずだろうし、偶然偶々という事もないだろう。


「何が目的なのやら……外に出れるようになったら、速攻で魔王の精髄を回収しに行った方がよさそうだな」


意図の読めないたくらみに対応する最も手っ取り早い方法。

それは単純に力を身に着ける事だ。

少なくとも精髄を吸収すれば、男爵家如き何をしようと恐れる必要がなくなる程度の力は手に入るからな。


やはり生きていくのに物をいうのは力である。

圧倒的な力さえあれば、どんな状況になろうとも対応できるという物。

たとえ知っている未来からずれて行こうとも、そこだけは不変だ。


「見ていろ、エスペランサー共」


どれほど時間がかかろうとも、奴らはこの手で必ず滅ぼしてみせる。

やられっぱなしで終わらせてやるほど俺は甘くないからな。


敵がいれば殺し。

仇がいれば復讐する。

それが覇王であるこの俺、ダイナ様だ。

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