第3話 忌み子

忌み子。

それは魔力に闇属性を宿す物を指す言葉である。


――人は魔力を持ち。


――そしてその魔力には属性が宿る。


火・水・風・土・雷。


この5つを基本属性といい。

十万人に一人以下の確率という、極低確率で生まれて来る強力な光属性を上位属性、もしくは神聖属性と呼ぶ。


更に基本属性の100倍、光属性の20倍のパワーを発揮する最強属性が存在していた。


それが闇属性である。


闇属性は強力無比な属性であると同時に、数十億分の一程度でしか生まれてこないと言われる程稀な属性であり――


そして世界から忌み嫌われる属性だった。


何故か?


理由は簡単だ。

かつて世界を滅ぼしかけた魔王。

その魔王が宿していたのが、闇属性だったからである。


それ以来世界は闇属性を忌避し、それを持って生まれた子を忌み子と呼んだ。


◇◆◇◆◇◆◇


俺の名はダイナ。

ダイナ・グレートスター。


男爵家の末息子として生まれた俺は、5歳の時に闇属性を持っている事が判明して以来7年間、男爵邸の離れに隔離される事となる。

闇属性を持って生まれてきたために。


それでもまあ、マシな方だったとは思う。

というか、幸運と言ってもいいぐらいだ。


闇属性持ちは即座に処刑か。

良くて魔法を封じられ、一生を過酷な環境の牢獄で暮らす事になる。


だが生まれが貴族家だったお陰で、離れに隔離されるだけに住んでいた。

家門に闇属性持ちが出た事を表にしたくなかった男爵家が、それを隠したからだ。


辺境の男爵家だと言うのも幸いしていた。

中央権力に近い貴族だったなら、きっと隠し通すのは難しかったはず。

そうなった場合、俺は事故死辺りでサクット処理されていた事だろう。


因みに、父が俺を殺さなかったのは、息子を手にかけたくなかったから。

なんてお優しい理由ではない。

現に俺の閉じ込められていた7年間、父は一度も顔を見せはしなかったからな。

恐らく、強力な闇の力を何かに利用できるかもしれないと、とりあえず生かしておいたって所だろう。


まあその答えを俺は知らない訳だが。

何故なら俺が12の時に、父は乗っている馬車に落雷が落ちてなくなっているからだ。


「くくく、それも幸運だったな」


過去の記憶を整理しながら、俺は思い出し笑いをする。


俺の父と母。

それに二人の兄は、外遊先で馬車事雷に打たれなくなっている。

そして男爵家に残された唯一の血筋である俺が、跡を継ぐ事になったのだ。


「ふぅ……やはり食事が足りんな」


考え事をしながらも、俺は魔力を増幅させるための秘術を行っていた。

魔力をコントロールし、体内で圧縮と解放を繰り返すという物だ。

こうする事で、魔力の器を押し広げる事が出来る。


これは俺が後々、魔王の精髄を手に入れた際に習得した増幅法で、これにはある程度体力が必要となるのだが、食事もろくに与えられていないこの体では長時間行う事が難しかった。


鏡に映る自分の姿を見る。

極度にやせ細り、いつ死んでもおかしくない様な栄養状態。


実際、闇の魔力を身に宿しているから生き延びれているだけで、それ以外の人間がこんな状態だったなら餓死していた事だろう。


父親は俺を生かそうとしていた。

目的は何であれ、だ。

にもかかわらず、食事は最低限以下。


何故そんな真似をしたか?


答えは簡単である。

下の者達が勝手にやったのだ。

正確には、俺の世話役になったため出世コースから外れたクソバスが。


要は腹いせである。

更に言うなら、あわよくばさっさと死んで欲しいという思いもこもっていたのだろうな。


奴には、俺が闇属性である事は伝えられていない。

そのため、当主である父の怒りを買って切り捨てられた末息子としか考えていなかったのだ。

だから死んでも問題ないと考え、食事量を極僅かに絞っていた。


完全に絶たなかったのは、餓死だと責任追及されるからだろう。

奴が求めたのは、衰弱から病気になっての病死。

だから最低限――実際は餓死レベルだった訳だが、調整下手すぎ――の食事は用意していたのだ。


「食事を改善しない事には、魔力も思う様に伸ばせん。何とかする必要があるな」


今の俺は虚弱だ。

単独でクソバスを制圧する事すら難しい。

闇属性が強力無比とは言っても、自力ゴミすぎては流石にどうしようもないからな。


「ふむ、勝てる様になるまで地道に頑張るのが正道なんだろうが……」


エスペランサーを倒すためには、少しでも多くの力を蓄えなければならないのだ。

それなのに非効率的な行動をしていたのでは話にならない。


「闇の力を奴に見せるか……」


俺の闇の力は封印されていた。

正確には、魔法を発動できないよう制限を賭けられていると言うのが正解だ。

魔法として使わなければ、俺の属性など知り様がないからな。


とは言え、その制限は今の俺には意味をなさない。

らかけられた制限は魔法を詠唱と発言を制限するという物だが、今の俺は無詠唱で魔法を発動させる事が出来た。


なので魔法を使えば、自分の属性が闇である事をクソバスに見せつける事が出来る。


従僕に見せ、情報が広まったら困るのでは?


それは確かに困るな。

そうなれば男爵も、きっと迷いなく俺を殺すだろう。


「まあだが要は……周りに知られなければいいだけの話だ」


広まる事がまずいのなら。

広まらない様、ストップをかければいい。


「そのためにはあの魔法だな……」


俺は自らの肉体から魔力を抽出し、そして闇の魔法を発動させる。

詠唱を唱える事なく、体外で直接魔法を発動させる方法で。


「この極小の魔力でも、簡易版なら何とか発動は可能か」


忠実な下僕だった暗黒騎士達。

その彼らを縛っていた魔法の簡易版だ。

ある程度の強者なら容易く弾けてしまうが、クソバス程度にそんな真似は出来ないだろう。


「じゃあ、あいつが来るまで一休みするとしようか」


部屋にはかぎが外側からかかっている。

俺を閉じ込める為だ。

そして非力な今の俺に、それを何とかする力はない。


なので、奴が食料を持ってくるまで待つしかないのだ。

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