48 三人の時間③

 これは一体どういう状況だろうな……。

 さっきから両腕に感覚がないような気がしてすぐ目を開けてみたら……、花柳と小春さんに腕枕をしている俺がいた。しかも、二人ともこっちを向いて寝ている。そしていつから俺のそばにいたのか分からないけど……、腕が痺れてすごくつらかった。


 どうして俺のベッドで寝ているはずの二人がここで寝ているんだろう……。

 そのままぼーっとして天井を見ていた。


「ううん……」


 そして寝言を言う花柳がさりげなく俺の体に足を乗せる。

 てか、俺は抱き枕じゃないんだけど……、起きたばかりだから声が上手く出てこない。なんだろう、このすごく恥ずかしくてエロい状況は———。それにこんなところですやすやと寝ているなんて、いろんな意味ですごいな。


「お、起きてぇ……ください。二人ともぉ」


 喉の奥から絞り出した声、カラカラになっている。

 てか、腕がぁ……。腕がもう限界だぁ……。


「うん……? 千秋くん……。さっきからどうしたの……?」


 先に起きたのはやっぱり大人の小春さん。

 彼女が体を起こした時、つい「あっ!」と声を漏らしてしまう。一瞬、これは拷問じゃないのかとそう思っていた。

 でも、少しだけ我慢すれば———。


 くそぉ!!! ダメだぁ!!!


「あら、腕が痺れて動けないの〜? あらあら〜、そうなの〜?」

「た、楽しそうに見えますね……」


 くすくすと笑う小春さんがさりげなく俺の腕をつつく。

 この人……、わざと!?


「か、勘弁してください……」

「えへっ! イタズラがしたくなっちゃって。それになんかエッチだね〜♡」

「…………」


 小春さんの頭の中覗いてみたい……。


「分かったよ〜。そんな目で見ないで。小冬ちゃんを起こしてあげるから」

「は、はい……」

「小冬ちゃん起きて〜。起きて〜!」


 けっこう大きい声で起こしたような気がするけど、全然起きない。

 そのままじっと花柳を見つめる小春さんだった。

 そしてため息をついた後、花柳が着ているシャツを捲って「パン!!!」とお尻を叩く。すぐそばにいたからさ、音がすごかった。それにその苦痛が俺にも伝わるような気がして、すぐ花柳から目を逸らす。


「い、いたーい! なんでまたお尻をぉ…………」


 そう言いながら俺の体を抱きしめる花柳。

 小春さんにお尻を叩かれたせいか、体がすごく震えていたような気がする。


「起きて! そこで何してるの? 小冬ちゃん!」

「えっ? そ、それは私のセリフだよ! お姉ちゃんが先に———」

「はあ? 何言ってるの〜? 私は小冬ちゃんがそばにいなくて探しに来ただけだよ?」


 この人……、何気なく嘘をついている。


「そんな……!」


 そして花柳が体を起こした時、やっとあの束縛から解放されてすごく嬉しかったけど、それと同時に痺れが感じられる。

 ぴりぴりするその感覚はとても嫌だったけど、耐えるしかなかった。


「ど、どうしたの? すごく苦しそうに見える……! 千秋くん! 大丈夫!?」

「は、はい……」

「ふふっ、私が腕をマッサージしてあげよっか〜?」

「や、やめてください! 小春さん! やめてください!」

「あっ! 千秋くん、腕が痺れて動けないの?」


 両腕を広げたまま横になっている俺。

 なぜか俺を見ている二人の視線が少し恥ずかしい。それに腕が動けるようになるまでもう少し時間がかかりそうだからさ、思わずため息が出てしまう。


「その前に……、どうして二人が居間で寝ているんですか?」

「そうだよ、お姉ちゃん! この嘘つき!」

「えへっ」

「小冬さんは……、どうして?」

「わ、私は! お、お姉ちゃんがトイレ行ってすぐ戻ってこなかったから! 心配になっただけだよ! そ、それで……居間に出たら千秋くんのそばで寝ていて……」


 すべての原因は小春さんだったのか。


「小春さん……」

「えへっ♡ でも、可愛い女の子たちに囲まれて、気持ちよかったよね? 千秋くん」

「…………ええ」

「すごい……、あの千秋くんが引いてる」

「やっぱり、千秋くんにはお仕置きをしないと…………」

「えっ? な、何を……す、するつもりですか?」

「ふふっ」


 両手で俺の右腕を触る小春さんに、思わず恥ずかしい声を出してしまう。

 いや、いくらなんでもそれはひどすぎるだろぉ。


「どうだ! どうだ!」

「やめてぇ……、くださいぃ」

「実はすっごく気持ちよかったくせに! お仕置きが終わるまで我慢して〜」

「わ、私もやりたい! なんか、楽しそうに見える!」


 どこが楽しそうに見えるんだよぉ……! 花柳。

 俺は死にそうだから二人ともやめてぇ———。本当にやめてぇ———。

 そのまま両腕を二人に掴まれて、その痺れが治るまでずっとあの二人にからかわれていた。


「えへへっ、楽しかった〜」

「私も楽しかった〜」


 一体、どこが……。

 二人に一言を言ってたかったけど……、朝から疲れてしまって話をする力すら残っていなかった。


「てか、二人とも朝からラブラブだね」

「うん? 何が?」

「寝る時にもつけてるんだ〜。それ」

「あっ! これね…………」

「あっ! 小冬ちゃん照れてる! 可愛い〜」

「あっ、もう! お姉ちゃん!!! 早く九州に帰ってよ!」


 そして急にテンションが下がる小春さんだった。


「明日……、また……会社……。高校生……、なりたい」

「頑張ってください。小春さん」

「うん、頑張るよ! 高校再び入学する!」


 いや、そっちじゃない。

 なぜか急にテンションが上がる小春さんだった。仕事のせいかぁ。


「じゃあ、みんなと朝ご飯を食べた後……、帰ろっか! 寂しい私の家に!」

「寂しいは言わなくてもいいよ!」

「だって、二人はいつもここでイチャイチャしてるのに、お姉ちゃんだけ一人で納豆ばかり食べてるから寂しいよ〜。ひん〜」

「お姉ちゃんは大人だから、もっとしっかりして! 私は高校生だから卒業する前まで甘えてもいいの!」

「くっそ! そうか! そういうことか! 私も高校生になりたい! 小冬ちゃんの制服貸して!」

「嫌だよ!!!」

「貸してよぉ〜!!!」


 やっと痺れが治ったのに、目の前で二人が仲良く口喧嘩をしていた。

 そしてこっそり俺の手の甲に自分の手を乗せる花柳。


「はいはい。二人とも……、朝ご飯食べましょう」

「いいね!」

「いいね!」

「は、はい……」


 同時にこっちを見て答えるから少し緊張した。

 てか、やっぱり姉妹だな。似ている……。

 日曜日の朝、この二人と朝ご飯を食べながらゆっくり三人の時間を過ごしていた。


「ううん……、お尻が痛い……」

「だ、大丈夫ですか?」

「ねえ、千秋くん……。お尻見てくれない? 声めっちゃ大きかったから、真っ赤になったかもしれない」

「それは出来ない相談です」

「ひん……」


 男に何を頼んでるんだよ、バカか。

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彼女に捨てられた俺は、雨降る道端で君を拾う 棺あいこ @hitsugi_san

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