47 三人の時間②
そばでいろいろ面倒臭いことを要求するけど、賑やかだから俺は嫌じゃなかった。
そして花柳がケーキを食べている間、小春さんが俺に合図を送る。
そろそろ、花柳にあげるプレゼントを持ってこないと。でも、花柳は喜んでくれるかな? 化粧品はいらないって言ったけど、一応女子高生だからさ。その時にしかできないことがきっとあるはずだから、俺はどうしてもそれを渡してあげたかった。
また……、その笑顔が見たい。
それだけだ。
「小冬さん、俺……小冬さんにあげたいものがありますけど」
「えっ? なになに!? ケーキ以外にもあるの?」
「はい。今、持ってきますからしばらく目を閉じてください」
「わ、分かった……!」
そばで笑いを我慢している小春さん。
そして俺は部屋の中に隠したショッピングバッグを持ってきた。中にはいろいろたくさん入ってるけど……、小春さんが選んでくれた化粧品だから問題はないと自分にそう言い返していた。
「はい。目を開けてください」
「…………」
花柳の前に置いておいたショッピングバッグ。
初めてそれを見た時は首を傾げていたけど、中身を確認した後、ちらっと俺の方を見る。そしてまた中身を確認して、またちらっと俺の方を見る。それを4回くらい繰り返した後、また首を傾げる花柳だった。
そのままきょとんとした顔をして、静かに瞬きをする。
どんな反応をすればいいのか、俺も分からなくなってきた。
でも、小春さんはこの状況をすごく楽しんでいるように見える。さっきから精一杯笑いを我慢していた。
「これ……、私の?」
「はい」
「ど、どうして……? わ、私はこんなにいらないし…………。そ、そして! 私は化粧品いらないってちゃんと……」
「そうですね。でも、リップを塗る時にすごく楽しそうに見えましたし……。好きですよね? 化粧。やってみたかったんですよね? 実は……」
ショッピングバッグの前でしばらく指をいじっていた花柳が「うん!」と大きい声で答えてくれた。そして中から一つずつ化粧品を取り出す花柳。その顔がとても嬉しそうに見えて、しばらく花柳の前でじっとしていた。
よく分からないけど、幼い頃にお母さんにずっと欲しがっていたおもちゃを買ってもらった時の感情だろうな。これ……。
「小冬ちゃん」
「うん?」
「それぜ〜んぶ千秋くんが買ったの。私が今日千秋くんと一緒にいたのは小冬ちゃんを喜ばせたいという千秋くんの話に付き合ってあげただけだから。ドッキリ大成功かも?」
「…………そうなの?」
「はい。それは全部小冬さんの化粧品です」
「…………」
それから口数が減ってしまう。
そして両手で化粧品をぎゅっと握りしめる花柳が静かに涙を流していた。じっと目を閉じると大粒の涙が彼女の膝に落ちる。いきなり泣き出すとは思わなかったから、「えっ?」と思わずそう言ってしまった。
「ど、どうして泣くんですか……? き、気に入らなかったり……?」
「ううん……。すっごく嬉しくて……、嬉しくて……、どうしたらいいのか分からんくて。私は……、千秋くんに何もやってあげられないのに。千秋くんはずっと私にいろいろやってくれるから。私が知らないことをたくさん教えてくれるから……、すっごく幸せだよ……。涙が出るほど……、幸せ…………」
涙声で話す花柳を見て、すぐその涙を拭いてあげた。
本当はそんなことで泣くなよって言いたいけど、泣くほど花柳が純粋ってことだから仕方がなかった。それに今まで女子高生らしいことをやったことないからさ。分からないとは言えない。
でも、このままずっと泣くのもあれだから……、仕方がなく頬をつねった。
てか、前にも触ったことあるけど、めっちゃぷにぷにでなんか癖になりそうだ。
ちょっと変態みたいでキモいな俺。
「ううん……? な、なにしへんの……?」
「泣き顔は似合いませんから、やっぱり俺は……小冬さんの笑顔が好きです」
「…………」
そして後ろからずっと笑いを我慢している小春さん。
まったく……、自分の妹が泣いてるのに……。なんとか言ってあげてくださいよ。
「はい! じゃあ、そろそろ私の出番だね!」
「やっと口を開けましたね」
「あははっ。だって、二人ともイチャイチャしてるから割り込めないね〜」
「じゃあ、お願いします。小春さん」
「えっ? な、何をするの? お姉ちゃん? えっ……?」
「何って、化粧に決まってるんでしょ? 小冬ちゃん化粧やったことないから、このお姉ちゃんが教えてあげるね。だから、もう泣かないで」
「あっ、そ、そうなんだ……」
小春さんが化粧の準備をしている間、俺は後ろのソファに座って二人の方をじっと見つめていた。
特にやることもないし、そろそろ寝る時間だからさ。
「千秋くん……」
「はい。小冬さん」
「へ、部屋で待ってくれない?」
「えっ?」
「は、恥ずかしいよ……。化粧が終わった後、呼ぶから……今は部屋で待ってくれない?」
「あっ、そうですか。すみません。じゃあ、部屋に入りますから……」
「ごめんね」
「いいえ」
寿司をいっぱい食べて腹もいっぱいだし、明日はバイトだけど余裕あるし。
てか、同じ空間に人が一人増えただけなのに……、空気が全然違う。花柳といる時も全然違ったけど、今日は小春さんまでいるからさ。
そして化粧をした花柳……、少しは気になるかもしれないな。
あくびをしながらベッドで横になる。
やっぱり、ちょっと疲れたかも……。
……
「千秋くん〜」
「千秋くん! 起きて!」
そしてすぐそばから聞こえてくる二人の声に目が覚める。
いつ寝落ちしたんだろう。
ちょっと目を閉じただけなのに———。
「本当に……、30分しかかかってないのにすぐ寝ちゃうなんて」
「すみません……。ちょっと疲れたみたいです。あれ? 小冬さんはどうして後ろに隠れているんですか?」
「ふふふっ、見たい? 私の可愛い妹が!」
「はい……」
「ジャーン! イメチェン! 小冬ちゃん!」
「お姉ちゃん大袈裟だよぉ……」
「…………」
化粧をした花柳を見た時、俺は何を言ってあげればいいのか分からなかった。
じっと花柳の顔を見つめるだけ。すぐ言葉が出てこなかった。
「やっぱり……、変?」
「いいえ、すごく……可愛いです。小冬さんの前でこんなことを言うのは恥ずかしいですけど……、可愛いと思います」
「ほ、本当に……?」
「はい。可愛い人が化粧をして、もっと可愛くなったな……と。それだけです。そして俺は今日居間で寝ますから二人は俺のベッドを使ってください」
「う、うん! 分かった!」
そう言った後、すぐ布団と枕を持って部屋を出る俺だった。
あまり変わらないと思っていたけど、やっぱり可愛いな……。まるで———。
いや、何を考えているんだ。俺は…………。
「…………」
そのまま寝床を作って、すぐ横になる俺だった。
やばい、可愛すぎる。
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