44 小春さんとデート?

「あっ! 千秋くん! こっちだよ!!! こっち!!!」

「…………」


 大人が大きい声を出しながら手を振るなんて……。

 一応、迎えに行くって約束をしたから待ち合わせの場所に来たけど、相変わらずテンションが高い人だな。小春さんは……。土曜日の午前十一時半、俺は〇〇駅で小春さんと会った。そして俺たちがここで会うのを花柳はまだ知らない。今頃バイトをしているはずだからさ。


「小春さん……」

「うん? どうした〜? 千秋くん」

「今日の服装ちょっとやばすぎじゃないですか? 俺、高校生なんですけどぉ」


 休日だから私服を着るのは分かるけど、なんで体のラインが出るタイトなワンピースを着ているんだろう。短い……。それに今履いているそのヒールもやばそうな気がする。


 それ履いて歩けるのかと少し心配になる俺だった。

 マジか。


「似合う?」

「はい。でも、少し……。いいえ、なんでもないです」

「普段はずっとスーツ着てるし、九州には友達がいないから出かけるチャンスもないし、こんな時に着てみないともったいないじゃん! うふふっ」

「それもそうですね。行きますか? 小春さん」

「は〜い! そういえば、千秋くんも今日おしゃれしたね〜」

「別に……、いつもと同じです」

「小冬ちゃんがなぜ惚れたのか分かりそう〜」

「へ、変なこと言わないでください……」

「ふふっ」


 そのまま小春さんと50メートルくらい歩いたけど、周りの男たちがめっちゃ小春さんの方を見ていた。ちらっと見るだけなら気にしないけど、完全に気を取られたような顔をしていて、再び小春さんの凄さが分かる瞬間だった。


 ちゃんとメイクやってるし、ブランドバッグも持ってるし、それにスタイルもいいからさ。誰もが好きになる理想の女性って感じだ。そしてそんな理想の女性が今俺のそばで俺と一緒に歩いている。


 なんか、気まずい。


 花柳と一緒にいる時もこの視線を感じるけど、小春さんは大人だから……やっぱりすごく目立つ。「すごい」とか「綺麗」とか、こそこそ話している人々の声が聞こえてくる。それもあるけど……、もう一つ……目をどこに置けばいいのかよく分からない。なるべく、小春さんの方は見ないことにした。


 そして姉妹だからか———。


「どうしたの? さっきからずっと周りの人たちを見てるような気がするけど」

「いいえ、なんでもないです。やっぱり、小春さんはすごいなと思っただけです」

「すごい? 私が? なんで?」

「聞かないでください。分かりません」

「そういえば……! 千秋くんって背高いね! 私今日ヒール履いたのに、そんな私より背が高い! 何センチなの?」

「176です」

「ええ、高すぎ〜。私、9センチのヒールを履いて170だよ! どう! 背高いよね!?」

「じゃあ、靴脱いだら161ってことですね」

「むっ! 履いてるから170だよ!」

「はい……。背、高いですね。小春さん」

「なんか……、恥ずかしいね〜。責任取ってくれるの?」

「どこがですか?」

「えへっ」


 この人……、ちょっと面倒臭いかも。

 てか、今日俺たちがここで会ったのは花柳のためだけど、どうしてこんな話をしているんだろう。

 そして距離感がバグってる小春さんと話すのはやっぱり難しいな。


「照れてるの〜?」

「小春さん……。お願いしますから、何もしないでください……」

「えへへっ。じゃあ、私と腕を組んでくれたら目的地まで何も言わない! どう!」

「えっ、嫌です……」

「チッ」


 舌打ち……? ええ、俺なんか悪いことでもしたのか。

 やっぱり、難しい……。


「そんなことより小冬ちゃんはいいね」

「いきなり……?」

「だって、小冬ちゃんに化粧品をプレゼントしたいから私を呼んだんでしょ? 違うの?」

「それは……、そうですけど。その代わりに……飛行機代はこっちが払いますから」

「いいの、いいの。私も小冬ちゃんに会いたかったからね」

「でも……」

「じゃあ、その代わりに甘いものおごって!!! そして腕!!!」

「はいはい……」


 この前……、花柳に化粧品を買ってあげるって言った時、彼女はすぐ「このままで十分だよ」って言ってくれた。とはいえ、花柳も高校三年生だし……。何よりも俺がリップに気づいた時のその顔が、すごく嬉しそうに見えたからさ。


 だから、プレゼントしたいって決めた。


 そしてこっそり化粧品を買って花柳にプレゼントをするつもりだったけど、あいにく俺は女子の化粧品についてあまり詳しくない。でも、どうしてもドッキリしたいっていうか……。花柳には綺麗なブレスレットをもらってしまったから、俺も何かやってあげたかった。


 てか、メイクをしない女子高生って……、ほとんどいないよな?

 まあ、花柳はしなくても可愛いからいいと思うけど、佐藤さんにもらったリップを塗る時に幸せそうに見えたからさ。最初は佐藤さんに聞くつもりだったけど、人の彼女にそんなことを聞くのはさすがにあれだと思って、花柳のことを一番よく知っている小春さんに頼むことにした。


 女子高生よりメイクに使った時間が長いはずだからさ。


「そういえば、そのブレスレットいいね!」

「これですか? これは小冬さんにもらいました」

「へえ〜、あの子センスいいね」

「はい。俺もすごく気に入ったので、ずっとつけています」

「ふふふっ、千秋くんも可愛いね〜」

「恥ずかしいこと言わないでください」

「あら、綺麗なお姉さんに可愛いって言われて恥ずかしいの〜? うふふっ」


 そう言いながらさりげなく俺の頭を撫でる小春さんだった。

 いや、この人の距離感マジでおかしい。


「…………」

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