41 気持ち

 千秋くんにあげるプレゼントを選んで、美咲ちゃんを駅まで送ってあげて、時間はいつの間にか午後七時になってしまった。本当にあっという間だった気がする。今までこんな風に友達と遊んだことないから……、すごく楽しかった。


 みんな、こんな感じで学校生活を過ごしていたのかなと……。

 そして今日は美咲ちゃんと遊んで……、普通の女子高生についていろいろ学んだような気がする。私はずっと一人だったから———。


「どれどれ……、今日の夕飯はカレーを作ってあげるって言ったから……。セールしている野菜を買わないと……」


 帰り道、近所のスーパーに寄って買い物をしていた。

 でも、いつもより時間がかかってしまう。多分……、ショッピングバッグの中にあるプレゼントが気になって。何を言ってそれを渡せばいいのか、それを考えていたからかもしれない。


 誰かにプレゼントをあげるのも初めてだから。

 そういえば……、私……全部初めてだね。


「いける!」


 お会計を終わらせた私はスーパーの入り口で独り言を言った。


 ……


 そして千秋くんにもらった合鍵でドアを開ける。

 今までずっと千秋くんがドアを開けてくれたからかな……? 私が直接ドアを開けるのはちょっと不思議だった。ここが私の居場所……、この鍵を見るたびにワクワクする。


 私にも帰る場所がある。


「ただいま……」


 千秋くん、外出したのかな? 家が静かでなんの音もしない。

 すると、すぐ千秋くんを見つけてしまう。ソファで寝ていたんだ……。

 ベッドで寝てもいいのに……、どうしていつもこんなところで寝るんだろう。よく分からない。


「…………」


 じっと千秋くんの顔を見ていた。

 そういえば……私今まで千秋くんの寝顔をちゃんと見たことないような気がする。

 いつも腕を掴んだり、手を握ったりして……、先に寝ていたからね。そしてまつ毛が長い……、近いところで見るとなぜ小林さんが千秋くんに興味を持つのか分かりそうだ。


 カッコいい……。


「せん……、ぱい…………」

「…………」


 寝言……。

 先輩……って言ってるのかな? そういえば……前にも先輩って言ってた気がするけど、あの「先輩」ってもしかして千秋くんの元カノかな……? 何があったのか詳しいことまでは知らないけど、千秋くんにも……他人に言えないそんなつらいことがあったかもしれない。


 そっと彼の頭に手を乗せて、なでなでしてあげた。


「…………誰?」

「あっ、千秋くん……。ご、ごめん……。起こすつもりはなかったけど……」

「小冬さん……。いいえ、今ちょうど起きろうとしました。佐藤さんと楽しく遊びましたか?」

「うん! すっごく楽しかった! そして買い物もしたし! そろそろ夕飯作るからね!」

「小冬さん……。今日……、リップ塗りましたね」

「えっ!? わ、分かるの?」

「いつもと唇の色が違いますからね」

「そ、そうなんだ……。に、似合うかな!?」

「はい。可愛いです。そういえば、小冬さんは化粧品……持ってないですよね?」

「うん……。これは美咲ちゃんが買ってくれたの。いいって断ったけど……、結局もらっちゃった……」


 どうしてすぐ分かるの……? 電気もつけてないのに……、不思議だ。

 ソファで横になっている千秋くんとソファの前でしゃがんでいる私。そのままじっと千秋くんと目を合わせていた。


 なんか、恥ずかしい。


「来週……、一緒に出かけましょう。小冬さんの化粧品を買ってあげますから」

「い、いいよ! 私はこのままで十分だから! もういい! みんなにいろいろもらうのはもういいよぉ」

「そうですか? 確かに……、小冬さんはすっぴんも可愛いですから。化粧はいらないかもしれません」

「もう……! そんなこと言わないで! こ、これあげるから!!!」


 そしてショッピングバッグの中から手のひらサイズの箱を取り出した。

 ずっと……、ずっとどうやって渡せばいいのか悩んでいたのに……。

 結局……、こんな形になってしまったね。


「私……、千秋くんにプレゼント……したいから。でも、……男子の好きなもの知らないから……。美咲ちゃんがそばでいろいろ教えてくれたの」

「あ、ありがとうございます……。あ、開けてもいいですか?」

「うん!」


 ソファで箱を開ける千秋くん、その中にはシルバー色のペアブレスレットが入っていた。食べ物はダメだし……、男子の服もよく分からないし……、選択肢はこれしかなかった。


 気に入ってくれたらいいけどぉ。


「あれ……? 二つ……」

「そ、それね……。実は……、私も一つ買うつもりだったけど、美咲ちゃんにせっかくだからお揃いがいいんじゃないって言われて。いいよって言いたかったけど、美咲ちゃんは……私たちが付き合ってると思っているから……。断れなくて、そのまま二つ買っちゃった……」

「…………」

「私……、バカだよね……?」

「小冬さん、ちょっと失礼します……」

「えっ?」


 箱の中からブレスレットを一つ取り出して、私の右手首につけてくれる千秋くん。

 そして千秋くんも残りの一つを右手首につけた。


「どうですか? これ」

「似合う!」

「小冬さんも似合います。ありがとうございます……。これ、大事にしますから」

「ねえ、千秋くん。ど、どうして私につけてくれたの? 私はつけなくてもいいよ」

「せっかくですから、お揃いの方がいいと思って。嫌だったら外してもいいです」

「い、嫌じゃない! 私! これずっとつけるからね! お風呂に入る時もつけるからね!」

「お風呂に入る時は外してもいいです……」

「えへへっ、そうだよね」

「本当にありがとうございます。誰かにプレゼントをもらうなんて、すごく嬉しいです。今……」


 そこまで言ってくれるとは思わなかったから、すごく恥ずかしかった。

 だから、すぐ千秋くんから目を逸らしてしまう。


「あ、あの! 私、今からカレー作るからね! た、食べる?」

「はい。食べます。お願いします。小冬さん」

「そ、そこで待ってて! 今すぐ作るから!」

「はい」


 そして部屋着に着替える時、鏡に映った自分の姿を見ていた。

 どうして……、顔が真っ赤になっているんだろう。恥ずかしい。

 でも、私……千秋くんと同じブレスレットをつけている。その事実がすごく嬉しくて、カレーを作る時もニヤニヤが止まらなかった……。それが嬉しくて、嬉しくて、ちらっと手首を見てしまう。


「…………」


 よかった……。本当によかった……。

 すごくドキドキしている。

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