39 女子会②
誰かと遊ぶのは初めてだから、約束の時間より三十分早く来てしまった。
でも、私は……最近流行ってること何も知らないけど、そんな私と遊んで何が楽しいのかよく分からない。普段なら千秋くんのそばで本を読んだり、テレビを見たりするけど……。せっかく誘ってくれたから断るのもあれだと思って、今……時計塔の前でじっとしている。
そしてスマホをいじっている。
(小冬) 千秋くん、何してるの〜?
(千秋くん) 今は適当に映画を観ています。
(小冬) へえ、楽しそう〜。
(千秋くん) もしかして、佐藤さんまだ来てないんですか?
(小冬) バレちゃった……。
(千秋くん) もう少し待ってみましょう。その前まで話し相手になってあげます。
「…………」
なんか、不思議だ……。千秋くんは不思議な人…………。
世の中に家族以外……、私のことを気遣ってくれる人がいるとは思わなかった。
今まで見てきた男の人はみんな一緒だったから……、千秋くんみたいな人を見るとなぜか甘えたくなる。あの人は……あれをしない私に価値を感じないから、消えろって言ったけど、千秋くんと出会った時は私の方から「好きにしてもいいよ」って言ってもやってくれなかった。
そしてここにいてもいいよって、私の居場所を作ってくれた……。
よく分からない……。不思議な人……。でも、すごく気になる。
いろいろ……、千秋くんは私が知らなかったことをたくさん教えてくれた———。
(小冬) 佐藤さん来た! 行ってくるね!
(千秋くん) はい。楽しんでください。
「あっ! ごめんね〜。小冬ちゃん、地下鉄を逃して遅くなっちゃった……」
「ううん……! 大丈夫!」
「へえ、可愛い! 小冬ちゃんって団子頭めっちゃ似合うね! なんっていうか、噛みたくなる!」
「噛むのは勘弁してぇ……」
「あはははっ、冗談だよ! 行こうか! 今日はいろいろ行きたいところたくさんあるからね!」
「うん!」
そしてさりげなく私の手を握る佐藤さんに、お姉ちゃんと過ごした時間を思い出してしまう。同い年の女の子と遊ぶのは初めてだから……、なんかドキドキしていた。でも、佐藤さんはどうして私と遊びたかったんだろう。彼氏の加藤さんと一緒に遊んでもいいのにね。
「そういえば、小冬ちゃんはリップ何使ってる?」
「えっ? 私、化粧はしないから……。リップ持ってないよ……」
「えっ? すっぴんなの?」
「うん……。化粧品全然持ってなくて……ごめんね」
「いや、そっちじゃない! すっぴんなのに……、こんなに可愛いの? なんだよ。この可愛い生き物は!!! キャー!!!」
いきなり頭を撫でてくれる佐藤さんに少し慌てていた。
そういえば……、佐藤さんは化粧をしたよね。綺麗な人……。性格もいいし、すごく優しい。それに背も高いから、なんかお姉ちゃんみたいだ。幼い頃に私をいろんなところに連れて行ったからね……。お姉ちゃん。
「佐藤さんも可愛いよ?」
「クッ! 小冬ちゃんに可愛いって言われたぁ!!! やめてぇ、恥ずかしい!」
「ごめん……」
「いやいや、謝らなくてもいいよ〜」
「う、うん……」
「そうか、持ってないかぁ。仕方がない! こうなったら! 行こう!」
「ど、どこに?」
「リップ、買ってあげるから!」
「い、いいよ! そんなの買わなくてもいい!」
と、ちゃんと言ってあげたのに……、私をショッピングモールに連れてくる佐藤さんだった。ここに来るのは二番目……、前には千秋くんにいろいろ買ってもらったからちゃんと覚えている。
「ううん……。どれがいいかな。小冬ちゃんに似合いそうなカラーは!」
「…………いいよ」
「そんなこと言わないで、友達としてプレゼントしたいだけだから」
「…………」
なんか……、なんか…………泣きそう。
どうして私に優しくしてくれるのか分からない。本当によく分からない。私は千秋くんや佐藤さんに何もやってあげられないのに……、この人たちは優しい。優しすぎて、心が痛くなる。
「小冬ちゃんはね。可愛いから薄桃色のリップが似合いそうだけど、小冬ちゃんは好きな色とかあるの?」
「…………」
「小冬ちゃん? どんな色……」
「…………」
「えっ!? ど、どうして泣いてるの!? えっ? ごめんね!」
「ううん……。佐藤さんが優しすぎて……、なんか……私本当にいい人と友達になったなと思って。今までこんな人いなかったから……、だから……」
「そうなんだ……。でも、小冬ちゃんには望月くんと私がいるんでしょ? これからいいことたくさん起こるはずだから、泣かないで」
「ごめんね……」
「そのすぐ謝る癖も直した方がいいよ。私たち友達だから、そんな言葉はいらない」
「うん……」
「ねえ、小冬ちゃん。今日望月くんと会うの?」
「えっ? ああ、う、うん……!」
「じゃあ、これにしよう!!! ちょっと待って買ってくるから!」
そう言いながら私にリップを買ってくれる佐藤さんだった。
そして隣のベンチに座る二人。
「小冬ちゃん、リップの塗り方分かる?」
「わ、分からない……」
「これはね、塗り方によって印象が変わるから。じゃあ、この鏡持ってて」
「うん……」
すると、私にリップを塗ってくれる佐藤さん。
こういうの初めてでどうすればいいのか分からなかった。
でも、手鏡を持っててって言われたからそれが終わるまでその場でじっとするしかなかった。佐藤さんの顔が近い。そして……、化粧をした佐藤さんの顔がとても可愛くて……、私も……そうなりたかった。
もし私も化粧をしたら……、千秋くん可愛いって言ってくれるかな。
「わぁ〜。可愛い!!! どう?」
「か、可愛い……色」
「内側は濃く! そして外側は薄くなるのがポイントだよ! 簡単でしょ?」
「う、うん……。あ、ありがとう! 佐藤さん!」
「えっと……、私のこと美咲って呼んでくれない? い、嫌だったら! 今のままでいいよ!」
「うん! じゃあ、美咲ちゃん!」
「可愛い!!! 可愛いよ!!! 小冬ちゃん!!! 好きぃ!!!」
なぜか、女の子に好きって言われた。
そして名前も綺麗だね、美咲ちゃん。
「次! 行こ〜」
「う、うん……! まだ時間あるから、そんなに急がな行くても……!」
「えへへっ」
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