38 女子会

 土曜日の朝七時十二分。

 なぜか佐藤さんからすごい量のラ〇ンが来ているけど……、何かあったのか?

 それにスマホをマナーモードにしておいたから、電話に全然気づいていなかった。


「…………」


 こうなったら掛け直すしかないよな。

 そして花柳がそばで寝ているからこっそり部屋を出るつもりだったけど、さっきからずっと俺の手首を掴んでいて動けない。それにいつものことだけど……、寝る時は本当に無防備だな、花柳は……。


 そばから「ん……」と可愛い寝言が聞こえてくる。


「…………」


 仕方がなくその場で電話をかけることにした。

 てか、右手が使えないから片手でスマホをいじっているけど、不便だな……。

 まあ、いいか。


「おっ! 望月くんだ! ずっと寝てたの!? 今日土曜日だよ!?」

「土曜日だからのんびりしたいんですけどぉ」

「それはダーメ! 高校時代は短いからもっといろいろやってみないと!」

「そ、そうですか。あの……。起きてすぐ電話をかけましたけど、どうしましたか? 朝から電話をするなんて」

「実は……! 相談したいことがあってね! でも、本人には聞けないから!」

「そうですか?」


 てか、相談なら彼氏の大智もいるだろ? どうして俺に……。


「ねえ、私小冬ちゃんと二人で遊びたいけど……」

「それなら本人に直接聞けばいいんじゃないですか? どうして俺に……」

「だって、小冬ちゃん人めっちゃ警戒してるように見えるから言えないんだよぉ。でも、望月くんが話したらなんとかなりそうっていうか……」

「ああ……」


 確かに……、知らない人と一緒にいると緊張しているように見えたからさ。

 だから、俺に連絡をしたのか。そして佐藤さんは噂に流されずちゃんと花柳のことを見ようとしていたから、信頼できる。いい人だな。


 そしてちらっとそばで寝ている花柳を顔を見た。


「お、お願いしてもいいかな……?」

「はい。じゃあ、まず小冬さんに声をかけてみますから……。後で連絡———」

「千秋くん……、誰とで———」


 その時……、そばから聞こえてくる花柳の声。思わず彼女の口を塞いでしまった。


「うん? 誰かと一緒にいるの? 望月くん」

「い、いいえ……。テレビの……、テレビの音です! えっと……、一応聞いてみますから後で電話します」

「うん!」


 あの二人には俺が花柳と同居していることを話してないからさ。

 本当にびっくりして、一瞬体が固まったしまった。

 さっきまですやすやと寝ていたはずなのに、いつ起きたんだろう。


「邪魔してごめん……。大事な電話だった?」

「えっと……」

「でも、お、女の子の声が聞こえてきてね……」

「聞こえたんですか……?」

「うん。今日……、女の子とデートするの? 千秋くん……」


 そう言いながら俺の手首を掴む花柳だった。

 なんで、不安そうな顔をしているんだろう。


「えっと……」

「デートするのは構わないけど、早く帰ってきてね……。夕飯は……、一緒に食べたいから」

「えっと……、俺じゃなくて小冬さんです」

「うん? どういうこと?」

「さっきの電話は佐藤さんです」

「佐藤さん……、前にファミレスで一緒に食事をした人」

「そうです」

「あの人がどうして私に……?」

「一緒に遊びたいって言われました。でも、小冬さんにどうやって声をかければいいのか分からなくて俺に電話したらしいです」

「そうなんだ……。私と遊びたいって……、珍しいね」

「そうですか……? たまには女子同士で遊ぶのもいいことだと思いますけど」


 じっと俺の方を見ていた。そういえば、花柳って……友達と遊んだことあるかな?

 まあ、あの佐藤さんだから一応問題はないと思うけど……、この沈黙は一体なんだろう。行きたいのか行きたくないのか全然分からない。でも、必ず仲良くなれってわけないじゃないからさ。


 その曖昧な反応を見て、ダメだなと思っていた。


「じゃあ、行かないって伝えておきますから……」

「い、行く……! でも、ちょっと怖いかも……」

「大丈夫です。佐藤さんは変なことしませんから。でも、もし何かあったらすぐ俺に電話してください。そっち行きますから」

「いいの……?」

「はい。そして今日は予定がないんで、家で小冬さんの帰りを待ちます」

「うん……! 分かった。じゃあ、私……行ってくるから!」

「そうだ。お金は大丈夫ですか?」

「うん! 給料もらったし、ちゃんと節約してるからね! そして今夜はカレーを作るから買い物をして、ちょっと遅くなるかもしれない」

「分かりました」


 その後、俺はすぐ佐藤に電話をして、二人は繁華街の時計塔で会う約束をした。

 そして今日の朝ご飯は花柳がゆっくり準備できるように、俺がサンドイッチとオレンジジュースを作っておいた。女の子はいろいろ準備することが多いから、花柳が来るまでしばらく食卓の前でスマホをいじる。


 すると、佐藤からラ〇ンが来た。


(佐藤さん) ドキドキする! 小冬ちゃんとデートだなんて!

(千秋) よかったですね。

(佐藤さん) でも、ごめんね。今日土曜日なのに、二人っきりの時間を邪魔して。

(千秋) 大丈夫です。今日は楽しんでください。

(佐藤さん) ありがと〜。その代わりに大智くんあげるから!

(千秋) それはいらないです。

(佐藤さん) 大智くんが可哀想……。


「ごめんね……! わぁ! サンドイッチだぁ! これ、千秋くんが作ったの?」

「はい。朝ご飯は適当に食べて、外で佐藤さんと美味しいものたくさん食べてください」

「うん……! いただきまーす!」

「はい」


 たまに友達と遊ぶのもいいことだと思うけど、なぜか「行っちゃうんだ」と思ってしまう。でも、花柳が何をしてもそれは花柳の自由だからさ。今日は久しぶりに一人で土曜日を過ごすことになるよな。


 とはいえ、特にやることがない俺だった。


「あの……! 千秋くん!」

「はい」

「やってほしいことがある!」

「なんですか?」

「団子頭! やってほしい!」

「……それ、気に入ったんですか?」

「うん!」

「はい。分かりました。じゃ、くし持ってきますからソファに座ってください」

「はい〜」


 花柳の後ろで静かに髪の毛をとかしていた。

 そのままゆっくり団子頭を作る。

 そしてもぐもぐとサンドイッチを食べる花柳、その後ろ姿を見つめながらしばらくぼーっとしていた。


「ねえ。私が行っちゃうと、今日一人になるけど。いいの? 千秋くん……」

「はい。慣れてますから」

「寂しくなったらすぐ電話してね! 私すぐ帰ってくるから! 分かった!?」

「そんなことしませんから、佐藤さんと楽しんでください」

「はい〜。ふふっ」

「できました」

「わぁ!!! 可愛い!!! これ、本当に可愛いよ! 千秋くん! ありがと〜」

「はい……」


 私服も髪型も……、よく似合うな。

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