36 スクールカースト

 俺の名前は澤田健斗、ごく普通の高校生で学校ではあまり目立たないそんな人だ。

 そう、俺の人生はずっと普通だった。

 そして人みんな平等とかよく言ってるけど、俺にはそう見えない。なぜなら、はっきりと見えるからだ。スクールカーストというのがさ。そんなことを気にする人どれくらいいるのか分からないけど、俺は自分のことを二軍だと思っていた。


 そして俺の友達……望月千秋は圧倒的一軍。

 でも、本人はそんなことに興味なさそうに見える。いわゆる……、スクールカーストに属さない人。とはいえ、いつも周りの女の子たちに声をかけられて、俺の知らないところで告られて、千秋の人生は薔薇色だった。


 井上いのうえ凛花りんか、当時の一年や二年生たちはこの名前を絶対忘れられないだろう。

 井上先輩はそれほど有名な人だったからさ、そしてその有名な人の彼氏が俺の友達望月千秋だった。千秋は顔立ちもいいし、背も高いし、男の俺が見てもすごくカッコいい人だったから。そんな千秋が井上先輩と付き合った時は正直羨ましかった。


 男ならみんなやったことあるかもしれない。

 一度だけでもいいから可愛い女の子と付き合う妄想を———。

 でも、妄想なんかしなくても千秋はそんなことができる。それがすごく羨ましかった。


「…………」


 井上先輩と別れた時はあまり動揺しなかったけど、その後……すぐ可愛い女の子とくっついていたからさ。動揺した。彼女の名前は花柳小冬、正直に言うと花柳も可愛い女の子だ。顔も可愛いし、おっぱいも大きいし……、それに背が低いからその可愛さが倍になる。


 そして花柳と付き合ったら俺に合わせてくれるような気がして、ちょっと期待をしていたかもしれない。

 花柳みたいなか弱い女の子がタイプだったからさ。


 だから、俺も最初は花柳を狙っていたけど、小林のせいで悩んでいた。

 どっちがいいかな? ずっと悩んでいた。誰がいいんだろう。

 でも、校内に広がっている噂のせいでほとんどの男は花柳に近づかなかったからさ。まだチャンスはあると思っていた。でも、そのチャンスはあっという間に消えてしまってすごく動揺した。千秋があの花柳とデートをしていたからさ———。


 一緒に遊ぼうって誘った俺たちの話を断って、千秋はあの日花柳とショッピングをしていた。楽しそうにな。


 あの千秋が井上先輩以外の女の子の前であんな顔をするなんて、初めて見た。

 あいつは何をしても楽しくないって顔をしていたからさ。


 そしてもう一人千秋の失恋を知っている人がいた。

 それは小林ゆあ。小林もずっと千秋のこと好きだったからさ。思い返せば、千秋のこと好きな人めっちゃ多かった気がする。でも、小林の気持ちは断られた。何度も何度も声をかけてみたけど、結局千秋と付き合ったのは井上先輩。それからずっと待っていたかもしれない。別れるのを———。


 そして……、やっと告白をするチャンスが来たのに。

 そのチャンスを花柳に奪われた。


 それがすごく気に入らなかった小林は花柳を人けのないところに連れてきて、顔を叩いた。背が高い小林にあの小さい花柳が敵うわけないから、そのまま床に倒れてしまう。俺は後ろでその姿を見ていた。


 怖くて震えている花柳。そして今まで知らなかったけど、花柳の体にはたくさんのあざが残っていた。

 それにスパッツ履いてないから、花柳のパンツが見える。

 その時、俺の中から何か湧いてくるような気がしたけど……、誰かの足音が聞こえてすぐその場を立ち去った。


 その後はずっと俺に花柳の陰口を言ったけど……、俺は黙々とその話を聞いてあげるだけだった。彼女が俺に興味ないってことを知っていても、あの時は他の選択肢がなかったからさ。いつか俺のことを見てくれるんだろうと……そう思っていた。


 小林もスタイルがいいからさ。

 そしてどうして俺にだけ可愛い彼女ができないのかとため息をつく時、俺は駅の前で見てしまったんだ。


「あれ、千秋じゃん」


 ほんの少し、ほんの少しだったけど、すげぇ美人と一緒にいた気がする。

 しかも、スーツだったよな。あのお姉さん。

 一時期、〇〇活でもやってるのかと思ってたけど、さすがにそんなことはしないよなとすぐ否定した。でも、千秋としょっちゅうくっついている花柳も〇〇活をしているって噂があったから、余計なことを考えてしまう。


 もし、それが〇〇活じゃなかったら……、羨ましすぎて頭が壊れそうになるかも。

 なぜ、俺は千秋みたいにならないのか。なぜ、俺だけ———。


 そして俺が興味を持っていた人は、全部千秋に興味を持っている。

 ずっとそばで話を聞いてあげても無理だった……。

 小林は俺のことをただの友達だと思っている。必要な時に使える道具、あるいは千秋を呼び出す手段。それだけだったからさ。俺たちは決して、恋人になれない。だから、俺たちの関係は今のままでいいとそう思っていた。


 そして俺は……、千秋と一緒にいる花柳を目で追っていた。

 いつも廊下で千秋を待っていて、千秋のためにお弁当を作って、千秋のためならなんでもするような雰囲気だったからさ。小林も可愛いけど、花柳は言うことをよく聞いてくれる。


 千秋を見る時のその目、いつも上目遣いで千秋を見つめるその目がとても可愛い。

 可愛すぎて、俺も欲しくなる。

 何をしても全部許してくれそうなそんな可愛い女の子が、欲しかった……。どうして千秋だけそんなに恵まれたんだろうな。


 でも、それから数日後、千秋はみんなの前で堂々と花柳と付き合っているって言い放った。信じられなくて正気って聞いたけど、正直……すごく羨ましかった。俺もそうなりたいのに、どうして俺は何をしても千秋みたいになれないのか悔しかった。


 マジでなんなんだよ。


 そして千秋は俺と……、小林の関係を応援してくれた。

 ぎゅっと花柳の手を握ってさ。

 その後は……、いつもの通り二人っきりでお弁当食べるんだろ。千秋……。


「…………」


 俺も……、一軍になりたい。

 やっぱり、すぐ花柳に声をかけるべきだった。クッソ。

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