34 おせっかい③

 休み時間ごとに俺と花柳の関係を聞いてくるクラスメイトたち。

 どうしてそこまでしつこく俺に声をかけるのか分からないけど、俺と花柳が一緒にいるのがそんなに不思議なのか? 何を言ってあげたらいいのかもう分からなくなってきて、そのまま机に突っ伏していた。


「千秋! ちょっといいか?」

「健斗…………」

「教室はうるさいから廊下で話そう」

「うん」


 昼休み。俺を廊下に連れてきた健斗は、何か言いたいことでもありそうな顔をしていた。それになぜか小林も一緒にいる。この二人は仲がいいな……。そんなに仲がいいなら早く付き合っちゃえ、健斗のやつ何をしてるんだろう。


 彼女が欲しかったんじゃなかったのか?


「それで? どうした?」

「あのさ、久しぶりにみんなで遊ばない? 今日、バイトないだろ? 千秋」

「確かにそうだけど、今日はダメだ。予定があるから」

「誰と?」

「言っても分からないから言う必要ないと思う、ごめん。今日は二人で遊んでくれ」

「ええ……、私は千秋くんと一緒に遊びたいよ!」

「小林さんには健斗がいますから、俺なんかいなくてもいいと思います」

「どうしてそうなるの?! いや、澤田くんは……ただの友達だから」


 なんか、今さらっとやばいことを言い出したような気がするけど、小林……。

 でも、二人のことだから気にしなくてもいいよな。そのまま無視することにした。

 すると———。


「千秋くん、お昼……食べよう」

「あっ、小冬さん」

「はあ!? どうして花柳が千秋くんを下の名前で呼ぶの? そして千秋くんもどうして花柳を下の名前で呼ぶの? どういうこと!?」


 そういえば、お昼一緒に食べようって言われたよな。

 うっかりしていた。

 そして急に大声を出す小林のせいで、教室の中にいる人たちが廊下に出てくる。どうして俺たちは普通に話やお昼を食べることすらできないんだろう。そこまで気にしなくてもいいのにな……。


 俺には理解できない思考回路だ。


「小冬さんは……、小冬さんですから。どうしましたか?」

「わ、私のことは! そう呼んでくれないじゃん。三年間同じクラスだったのに! どうしてあの女は下の名前で呼ぶの? もしかして、付き合ってるの? 本当に付き合ってるの?」


 俺……、花柳が作ったお弁当食べたいし。

 でも、ここで否定したら……、いつかまた今みたいなことを言われるかもしれないからさ。上手く答えないと……。そして一限が始まる前にちゃんと線を引いたと思ったけど、小林本人はまだそれに気づいていないようだ。


 だから———。

 こんなことをするつもりはなかったけど、やっぱり———やるしかない。


「俺……、他人に自分のことを言うのあまり好きじゃないんで。でも、ずっと今みたいにしつこく俺に声をかけるからちゃんと話しておきます」

「…………」


 そう言いながら、そばにいる花柳の手を握った。


「俺は……、ここにいる小冬さんと付き合っています。これでもういいですよね?」

「つ、付き合ってるの? 本当に……? だって……、別れたばかり……」

「それ……、今の話と関係ありますか?」

「…………」

「マジかよ、千秋。付き合ってたのかよ。花柳と」

「うん。健斗には言えなかった……、ずっと彼女作りたいって言ってたから無理だった」

「正気か? 千秋」

「問題あるのか? 健斗……」

「あの花柳だぞ? 他にも選択肢……、あるだろ?」


 その時、ぎゅっと俺の手を握る花柳だった。手が……、震えている。

 そしてさっきからずっと俯いていたからさ。


「どうかな? 分からない。そしてそろそろお昼食べてもいいか? 小冬さんが待っているからさ」

「…………」

「健斗」

「うん?」

「お前も頑張れ」

「…………」


 そう言った後、すぐ花柳と外に出る。

 それに今日のおかず唐揚げだったよな。


 ……


「すみません、みんなの前で余計なことを言ってしまいました」

「ううん……。私こそ、千秋くんにずっと迷惑をかけているような気がして、ごめんね」

「そんなことないですよ。あの人たちが余計なことを言うだけです。そしてこう言っておいた方がお互い楽だと思って仕方がありませんでした」

「じゃあ、私も……誰かに聞かれたらつ、付き合ってるって言って……もいい?」

「はい」

「そうなんだ……。あっ、話が長くなったね! お昼食べよう、今日は千秋くんの好きな唐揚げだから!」

「はい」


 すぐご飯と唐揚げを一口食べた。

 すると、口の中に広がる幸せ……。すごくいい。そして花柳のお弁当が食べられるこの人生は恵まれたとしか言えない。コンビニのパンやお弁当と全然違って、これを食べるためにお昼まで待っていたような気がする。


「美味しい?」

「はい……」

「へへっ、やっぱり……私は千秋くんと出会ってよかったと思う。一緒にお昼を食べるだけなのに、すごく楽しい」

「そうですか? 俺も小冬さんを拾ってよかったと思います」

「拾うって……、野良猫じゃあるまいし……!」

「そうですね。でも、可愛いのは一緒だからそれでいいと思います」

「ふん……! 千秋くん、にんじん……ちゃんと食べて」

「…………見てましたか」

「野菜をちゃんと食べないと強くならないよ!? 男でしょ!」

「ど正論……。はい、食べます……」


 そしてお昼を食べた後、しばらくベンチでじっとしていた。


「ねえ、千秋くん」

「はい。小冬さん」

「一応、みんなに付き合ってるって言っちゃったから、私…………」

「はい?」

「私……、さりげなく千秋くんと手を繋いでもいいかな? ダ、ダメだったらダメって言ってもいいよ! 大丈夫!」

「なんでそんなことで悩むのか分かりませんけど、好きにしてもいいですよ? 手を繋ぎたいなら……、こうやって———」


 また花柳の手を握った。

 そして今度は指を絡めて、そのままぎゅっと……花柳の小さい手を握ってあげた。


「うぅ———っ」

「ど、どうしましたか? 小冬さん」

「手を繋ぐのは……、なんっていうか。すごくエロいね!」

「えっ?」


 どこが? でも、花柳の顔が真っ赤になっている。


「本当に私が繋ぎたい時に手を繋いでもいいの?」

「は、はい……。そういえば、小冬さん……手繋ぐの好きですか? 前にも……」


 すぐこくりと頷く花柳に、なぜか笑いが出てしまう。


「あっ、笑った!」

「いいえ。なんか、小冬さんみたいな女の子は初めてで……」

「ごめんね……」

「いいえ、すごく可愛いなと思ってました」

「…………か、からかわないで」

「すみません」

「ふん!」


 それにしても、花柳と恋人ごっこかぁ……。

 あの面倒臭い人たちのせいでまさかこんな関係になってしまうとは。

 でも、これも悪くない。なぜかそう思っていた。

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