27 思い出④

「そういえば……、二人はいつから付き合ってたんだ?」

「大智、俺たちは付き合ってない」

「えっ?」

「えっ?!」


 なんで二人が同時にびっくりするんだよ……。

 そんなことより俺たちは付き合ってないのに、二人が勝手にそう思っただけだろ?

 それになぜかがっかりしているような気がするけど、マジかよ……。大智は俺に何を期待していたんだ? 一体……。


「てか、男が付き合ってない女の子と映画とか観るわけないだろ! ちゃんと二人の関係を俺たちの前で説明するんだ! 千秋!」

「だから、友達って」


 近所のファミレスでハンバーグなどを注文した俺たちは、しばらくそこで話を続けていた。とはいえ、ほとんど花柳の話だけどな。


「でも、小冬ちゃん。さっきから何も言わないんだけど……」

「二人のテンションが高すぎるからだ」

「あはははっ、そうか? 俺たち、いい人だから安心してよ! あはははっ」

「うわぁ……、大智くん。うるさい」

「えっ? お、俺……!? まさか、俺……花柳さんに嫌われてるのか」

「そ、そんなことないからね!」

「よっし! 嫌われてない!」

「だから、うるさいって大智」


 数分後、注文したメニューが出てきて、やっと静かになる二人だった。

 そしてパスタを注文した花柳が静かにそれを食べている時、そばでハンバーグを食べていた俺は頬についているパスタのソースに気づく。本人はまだ気づいていないようだな。


「小冬さん、こっち見てください」

「うん? どうして?」

「ソースがついてます」

「あっ、ごめんね……。これ、美味しくて……」

「そうですか? それはよかったですね」


 そう言いながら花柳の頬を拭いてあげると、向こうで食べている二人の顔が真っ赤になっていた。なぜ……? その前にどうしてじっとこっちを見てるんだ……? あの二人は。


 やかましい……。


「こっちを見てください……」

「ど、どうして〜?」

「…………」

「くっそ! ドラマかよ! 千秋! カッコいいから何をしても許されると思ってるか!? 確かに、それは正解だけど! やめてくれぇ」

「なんか、二人を見ると……角砂糖を食べてるような気がする。虫歯したらどうしよう……」

「二人とも……、大袈裟だ」

「くっそ! 甘すぎじゃねぇか。なのに、付き合ってないって言ってるのか! さっさと付き合っちゃえ!」

「頼むから、普通に食べてくれない……?」

「はい……」

「ねえねえ……」


 そして今度はそばにいる花柳が俺を呼ぶ。


「あーん」

「くっそがぁ!!! きたのかぁ!!! あれかぁ!!! 恋人同士でやってるあれかぁ!!!」

「だから、お前は大人しくそれを食ってろ! 大智」


 なぜか、疲れてしまった。


「こ、小冬さん?」

「美味しいから……、食べさせたくて」

「は、はい……」


 でも、そのフォークはさっきまで花柳が使ってたフォークだけど、それを俺が舐めてもいいかな。てか、あの二人はめっちゃうるさいのに……、どうして一人だけ平和で「あーん」ができるんだろう。


「…………」


 ずっとこっちを見ていて、仕方がなく花柳のフォークを舐めた。

 すると、満面の笑みを浮かべる花柳。家にいる時はこんなことしなかったと思うけど、いきなりどうしたんだろう。そしてあの二人にずっとからかわれているから、なぜか落ち着かない俺だった。


「美味しい?」

「はい」

「よかった。私にも食べさせてくれない?」

「あっ。でも、俺のフォークは……」

「気にしない。あーん」


 一応、あの二人は向こうで静かにしているけど、めっちゃニヤニヤしている。

 すごく恥ずかしい。でも、食べさせるしかなかった。

 花柳がそれを望んでいるし、そしてさっき俺に食べさせてくれたからさ。


「どうですか?」

「美味しい、こういうの初めて。誰かと、そして友達と一緒に食べるのはこんなに楽しいことなんだ」

「小冬ちゃん……。また一緒に食べようね!」

「そうそう、俺たちいつもオッケーだからさ! そうだよな? 千秋」

「まあ……」


 こいつらがいい人ってことは分かってるけど、やっぱりテンションが高すぎる。

 ちょっと話しただけですぐ疲れてしまうからさ。


「そうだ! 四人で写真撮ろう!」

「い、いいの? 私と……」

「何言ってるんだよ! 当たり前だろ!? そうだよね? 美咲ちゃん」

「そうそうそう! はいはい、みんなこっち見て!」

「チーズ!」


 そうやって偶然映画館で出会った二人とファミレスで写真を撮った。


 ……


「すみません、あの二人テンションが高すぎて……」

「ううん、楽しかったよ……。お姉ちゃんと千秋くん以外の人と友達になったし、それにこうやって写真も送ってくれたから」

「まあ、それもそうですね」

「ひひっ、ありがとう。私……、本当に幸せだよ!」


 帰り道、花柳が四人で撮った写真を見ながらゆっくりと歩いていた。

 どうやらその写真が気に入ったみたいだな。


「ねえ……、千秋くん」

「はい」

「手が冷えてる……」

「えっ? そうですか? えっと…………」

「手が冷えてる……」

「じゃあ、小冬さんの手を握ってあげますから……」

「うん……」


 もう夏だし、それに今日はけっこう暑かったと思うけど……。

 なのに、手が冷えているか。


「…………」


 その時……、ほんの少し手の甲が触れて、そのまま花柳の手を握った。

 でも……、花柳の手は温かった……。どういうことだろうな。

 そしてちらっと花柳の方を見た時、なぜか俺から目を逸らしていた。


「加藤さんと佐藤さんが……、ファミレスに行く時にこんな風に歩いていたから」

「ああ……」


 それ以上は何も言えなかった。

 なぜそう言ったのか分かりそうだから……、そのまま花柳と家に帰る。


「…………」


 小さくて可愛い手だ。

 そしてぎゅっと……、俺の手を握っている。


「ごめんね、面倒臭い女の子で……」

「そんなことないです。すみません、気づくの遅くて……」

「いいよ、私のわがままだし……」


 俺も……、久しぶりに楽しかったからそれでいいと思っていた。

 そういえばあいつらと別れる前に花柳のことめっちゃ褒めてたよな。可愛いとか、いろいろ。


 まったく———。


「また、千秋くんと一緒に出かけたい! 楽しい!」

「はい。また出かけましょう。小冬さん」

「うん!!!」


 その笑顔が可愛かった。

 いいね。また……、出かけよう。

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