26 思い出③

「ううぅ……、ずっと千秋くんにくっついててごめんね。でも、そうしないと……怖くて耐えられないから」

「大丈夫です、そんなに怖かったんですか?」

「そうだよぉ。いきなり化け物が出てくるラストシーンは本当に怖かったからね!」


 そういえば……あのシーンが出てきた時、すぐ俺に抱きついたよな。

 まあ、俺もあんなことが出てくるとは思わなかったからびっくりしたけど……、俺より花柳の方がもっとびっくりして体がすごく震えていた。でも、あんな化け物はどうせ世の中に存在しないからさ。


 怖がらなくてもいいと思うけど……、花柳はそうできないみたいだ。


「ううぅ……」


 そして明るいところに出てもずっと俺の腕を抱きしめている花柳だった。


「でも、楽しかった……! 私、こういうの初めてだからね!」

「そうでしたか、よかったですね」

「本当にありがとう、ポップコーンも美味しかったし! 映画も楽しかった! そろそろ帰ろうか」

「あっ、今日は外で食べましょう。ファミレスとか」

「ファミレス……!」


 その時、後ろから俺の名前を呼んでいるような気がした。気のせいかな?


「おーい! 千秋! こっちだぞ!」


 やばい……、どうしてこのタイミングであの二人とばったり会うんだろう。

 しかも、俺……今花柳と一緒にいるからさ。どうやらあの二人も休日にデートをしているみたいだ。


「ち、千秋! なんだよ! お前もデートしていたのか! あはははっ」

「あれ? 後ろにいる女の子は誰?」


 すぐ俺の後ろに隠れる花柳。

 そうだよな……。花柳は今まで友達いなかったから、こうやって誰かと話すの苦手かもしれない。ここは俺がどうにかしないけど、この二人テンションめっちゃ高いからさ。


 それに恋バナがめっちゃ好きだからさ、普通にまずい。


「誰と一緒に来たんだ? 彼女か!? 千秋!!! 彼女かよ!!!」

「彼女なの!? えええ!!! 私たちにも紹介してよ!!! 望月くん!!!」


 声も高いし、テンションも高い。

 そして花柳が俺の後ろで震えている。まずい。


「大丈夫ですよ。小冬さん……、この二人はちょっとバカなんですけど、優しい人ですから」

「そ、そうなの……?」

「おいおい! 友達に向かってバカはなんだよ、バカは!」

「そうだよ〜」


 じっと二人の方を見つめる花柳が俺の腕を掴んでいた。

 やっぱり、怖い……ってことだよな。


「へえ、この子が望月くんの彼女なんだ……。可愛い〜」

「えっ……、えっと……」

「ふーん、お前やるじゃん。てか、どうしてダブルデートしてくれないんだよ。こんなに可愛い彼女いるくせに〜」

「うるせぇよ、いろいろ事情があるから」

「ええ〜」


 そして二人の前で花柳に耳打ちをする。


「この二人は噂なんかに流される人ではありません。安心してください」

「そ、そうなんだ……」


 そう言いながらちらっと二人の方を見る花柳。

 でも、声はすぐ出てこないようだ。


「はーい! そこ! こそこそしないで今から何か食べに行こー!」

「どうしますか? 小冬さん」

「い、行こう……。私たちもちょうどファミレスに行こうとしたから」

「いいね! 小冬ちゃん! 一緒にファミレス行こう! どう!? 大智くん」

「青春だね! 行こう! ファミレス!」

「あっ! 私の名前は佐藤美咲で、私の彼氏は加藤大智! よろしくね! 小冬ちゃん」

「よ、よろしくお願いします……」

「てか、めっちゃ可愛いね! 小冬ちゃんは。団子頭も可愛いし、その洋服も可愛いし、それにあの望月くんを落とせるなんて! すごい!」

「えっ?」


 そうだよな、この二人テンションめっちゃ高いからさ。

 そんな反応が出るのもおかしくない。そして今はそんなことより俺たち付き合ってないけど、どこから説明すればいいんだろう。それに説明してもこの二人全然聞いてくれないような気がする。


 特に佐藤さんの後ろでニコニコしている大智! 問題はお前だ。

 そして顔に出てるぞ。「二人の関係がめっちゃ気になる」って。


「ど、どうして俺睨まれてるんだ……?」

「なんでもない」

「はいはい! 行こう行こう! 近所に美味しいファミレスがあるから私たちが案内するね!」

「ありがとうございます。佐藤さん」

「大智くん、何してんの? 行こう〜」

「はいはい〜」


 さりげなく手を繋ぐ二人、そして二人の後ろ姿をじっと見つめる花柳だった。


「どうしましたか? 小冬さん」

「ううん……! なんでもない。いい人たちだなと思って」

「そうですよね、テンションが高いから俺も少し苦手なんですけど。それでもいい人です、あの二人は」

「あの二人はよね?」

「はい。お似合いですよね? あの二人」

「うん、お似合いだね」


 予定になかった二人との出会い。そしてあの二人は当たり前のように……、ありのままの花柳を受け入れてくれた。噂はしょせん噂……、そんなことを気にするのは時間を無駄にするだけだ。


 意味がない。


「手……」


 じっと二人を見ていた小冬が小さい声で話した。


「はい? 何か言いましたか? 小冬さん」

「なんでもない。あの二人を見ると……、なんかなと思ってね」

「好きな人と一緒にいられるのはいいことだと俺もそう思います」

「そうだよね?」

「はい」


 なぜか、じっと俺の方を見ている花柳だった。

 どうしたんだろう、俺に言いたいことでもあるのかな……? 何か迷っているような気がした。


「二人とも、そこで何してるの〜? 信号変わったよ!」

「行きましょう、小冬さん」

「うん……!」

「そしてすみません」

「どうして謝るの?」

「あの二人にちゃんと付き合ってないって話しておくべきだったんですけど、こんなところで会うとは思わなかったので」

「否定しなくてもぉ……」

「はい? すみません、声が小さくて聞こえませんでした」

「ううん……。お腹が空いてね!」

「はい……」


 やっぱり、女子はよく分からない。

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