25 思い出②

 映画は俺がおごることにしたけど、何を観ればいいのかまだ決めてない。

 だから、スマホで調べていた。

 そして花柳はどんなジャンルでもいいよって言ってくれたから……。俺はあの二人に言われた通り、ホラー映画を観ることにした。どうせ、最近のホラー映画は化け物ばかり出てきて、観客をびっくりさせるだけだからさ。気にしなくてもいいだろう、多分———。


 そして今はソファで花柳が着替えるのを待っている。


「ど、どうかな……? 千秋くんが買ってくれた洋服を着てみた!」

「はい。似合います。小冬さんはやっぱり何を着ても似合いますね」

「ふふっ。実は髪型もどうにかしたかったけど……、今まで髪の毛を縛ったことあまりないから何が似合うのかよく分からなくて……」


 だから、時間がかかっちゃったのか。着替えるだけなら、そんなに時間かからないよな。髪型かぁ……。


「小冬さんに似合いそうな髪型ですね……」

「うん?」

「俺の前に座ってください」

「何かやってくれるの?」

「まだ時間ありますから、今日の服装に似合いそうな髪型をしてあげます。もし気に入らなかったらそのまま解いてもいいです」

「いいね! お願い!」


 なんか俺の好みを押し付けるような気がするけど、似合いそうだからさ……。

 それに……、髪型でけっこう悩んでいたように見えるし。

 ソファに座っていた俺は、手のひらでゆっくり花柳の髪の毛を触った。そしてさりげなく団子頭を作ってあげた。


「はい。完成です」


 そう言いながら手鏡を花柳に渡す。


「お団子ができたぁ……!」

「どうですか?」

「可愛い!!! へえ、千秋くんは男子なのに……こういうこともできるんだ。すごい! どこで習ったの?」

「そうですね、俺にもよく分かりません。そろそろ行きましょうか」

「うん!」


 ……


 私服姿の花柳と一緒に歩くのはある意味で新鮮だった。

 そしてやっぱり小春さんの妹だな。制服を着ていた時はよく分からなかったけど、私服姿の花柳はちょっと違う。周りの人たちがさっきからちらっと花柳の方を見ていた。


 それほど可愛いってことだよな。


「ねえ、千秋くん。これ……、デート……かな?」

「そうですね」

「へへっ、デート好き。二番目のデートだね?」

「はい……」


 そのまま映画館に入って、ポップコーンとドリンクを買って、席に着いた。

 そういえば、俺はまだ何を観るのか花柳に話してないな。本人も何を観るのか聞いてないし、多分……何を言っても花柳は俺の意見に従うと思うから……、それでいいと思っていた。


 アニメはあれだし、ロマンスもあれだし、それ以外楽しめるのはホラーくらいだからさ。


「ペア席なんだ……。ここ高くないの?」

「せっかく映画を観にきましたから、楽しまないと……。そして……すぐそばに他の人がいるのが嫌なんで」

「そうなんだ……! ありがとう! こういうの初めて! そして映画館に来るのも初めてで、今ドキドキしている!」

「そういえば、小冬さんはホラー映画大丈夫ですか?」

「…………」


 なんだろう、この静寂……。

 そしてその表情……、どうやらダメみたいだ。


「だい、大丈夫……! なんとかなると思う!」

「すみません。苦手だったら、他の……」


 席から立ち上がろうとした時、花柳が俺のシャツを掴んだ。


「いいの! 私、ホラーも好きだから」

「そうですか?」

「うん! せっかく映画を観にきたからね、千秋くんと楽しみたいの。座って」


 めっちゃ苦しそうに見えるけどな。


「はい」

「それに……、私キャラメルポップコーン大好きだから。ありがとう、千秋くん!」

「そうですか、全部食べてもいいですよ」

「ひひっ」


 そして映画が始まる。

 でも、予想通り……花柳はめっちゃ怖がっていた。まだ何も出てないのに、雰囲気が怖いから……俺の袖を掴んだまま映画を観ていた。それに……、ポップコーン食べるのを忘れてしまうほど緊張している。


 やっぱり、他の映画がよかったかもしれないな。


「…………うぅ」

「小冬さん、ポップコーン食べないんですか?」

「今、両手使えないから……。食べられないよぉ……」

「えっ? 離せば……」

「離したら……、千秋くんが消えてしまうんでしょ……?」


 どういう話なのかよく分からないけど……、幽霊みたいのが子供を誘拐したシーンを見たからだと思う。

 それは仕方がないな。


「はい。口を開けてください」

「あ、あーん」

「…………」

「おいひい……! ド、ドリンクも……!」

「はいはい」


 そばでポップコーンを食べさせながら俺も映画を観ていた。

 これ、意外と面白いな。

 でも、花柳の体はずっと震えていた。そして怖いシーンが出てくるたびに、俺を方を見る。その顔はすごくやばかったけど、少し可愛かったような気がした。大智もこういうの苦手って言ってたよな。佐藤さんの話が分かりそうだ。


「ねえ、千秋くん……」

「はい。小冬さん」

「く……くっついてもいいかな?」

「はい……。やっぱり怖いんですよね?」

「ある程度我慢できると思っていたけどね……。やっぱり、いきなり出てくるとびっくりするし、ごめんね」

「いいえ、ポップコーン食べます?」

「食べさせて……」

「はい」


 なんか、これ……餌付けしているような……。

 そしてもぐもぐとポップコーンを食べる花柳は、怖いシーン出るたびに俺の方を見ていた。その視線がすごく気になる。


 めっちゃ見られていて集中できない。


「あっ、怖いなら体を抱きしめてもいいですよ。そっちの方が動きやすいんで」

「いいの……?」

「はい。ホラー映画を選んだ俺のせいですし」

「じゃあ、失礼しまーす」


 そう言いながら俺の体を抱きしめる花柳だった。

 そのままじっと映画を観る二人。


「あのね、千秋くん」

「はい」

「ううん……。やっぱり、なんでもない!」

「は、はい……」


 なんだろうと思っていたけど、気にせず映画に集中することにした。

 そのまま映画が終わるまで俺たちはくっついていたような気がする。


「……ドキドキしている」

「はい?」

「なんでもない!」

「はい……」

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