17 朝と、来客②

 一緒に歩いているだけなのに、なぜかすごく緊張していた。

 そして……、周りの視線がすごい。

 多分、みんな小春さんのことを見ているんだろう。確かに、俺が見ても小春さんはすごい美人だからさ。スタイルもいいし、顔も小さいし、スーツも似合うし、いわゆる完璧なキャリアウーマンだった。


 そしてそんな素敵な女性と今カフェに来ているから、すごいプレッシャーを感じている。


「何食べる? 私のおごりだから遠慮せず言ってみ」

「あっ、俺はコーヒーでお願いします」

「うん?」


 なぜか、俺を見て首を傾げる小春さん。

 何か変なことでも言ったのか、俺……。


「他には? コーヒーだけなの?」

「はい。小春さんと話を終わらせた後、花柳さんが作ってくれた朝ご飯を食べますから」


 そしてコーヒー二杯が出た後、小春さんが俺をじっと見つめていた。

 じっと見ているから俺も何気なく小春さんと目を合わせたけど、本当に花柳の大人バージョンだなと思っていた。花柳より背が高いからイメージは少し違うけど、花柳もきっとこんな素敵な女性になるんだろう。


「単刀直入に聞くけど、千秋くんは小冬としたの?」

「すみません、言ってる意味がよく分かりません。そのしたの?ってどういう意味ですか?」

「面白いね。セックスだよ」

「してないです」

「へえ……。じゃあ、好きだから小冬と一緒に自分の家で住んでるの……? 千秋くんは」

「すみません、言ってる意味がよく分かりません。好きとか、考えたことないんで」


 ずっと変なことばかり聞いている。

 こんなくだらないことを聞くために俺とカフェ来たのかと思うくらいだ。


「まずは花柳さんと出会った時のことから話します……」

「それならもう小冬に聞いたよ」

「そうですか?」

「千秋くんとあったことは小冬が電話で話してくれたから大体のことは知っている」

「はい……」

「初対面からこんなことを言うのは悪いと思うけど、私いろいろ聞きたいことがあってね。いいかな?」

「はい」


 コーヒーを飲んだ後、小春さんの質問を待っていた。

 どうせ、花柳を連れて行くはずなのに、俺に何を聞くつもりだろう。セックスならやってないし、花柳には指一本……と言いたいけど、寝ている時にくっついていたからアウトかな。


「小冬と一緒にいる理由を教えてくれない? セックスが目的じゃないなら、あの子と一緒にいる理由はないと思うけど……、赤の他人じゃん。そして小冬の話を聞いた時、千秋くんとの生活をすごく気に入っているように話していたから。こんな人初めて見たとか、一人でずっと千秋くんの話をしていたよ」


 今の話で分かったこと。

 まず花柳と電話をした人は姉の小春さん、多分お小遣いも小春さんにもらったと思う。そして……、俺との生活気に入ってたんだ。

 それはよかった。


「一緒にいる理由ですね。花柳さんにも話しましたけど、その理由は俺にもよく分かりません」

「…………同い年の女の子と一緒に寝てるのに、よく分からないか」

「はい。俺は居間で寝ても構いませんって言いましたけど、花柳さんにそばにいて欲しいって言われて。最初は断るつもりだったんですけど、不安そうに見えて、仕方がなく花柳さんの不安が消えるまでそばにいてあげることにしました」

「あの子……、マジでバカだからね」

「花柳さんは頭がいい人です。声をかけたことはないんですけど、成績順位一位のすごい人ですよ」

「真面目だね、千秋くんは」

「そんなことないです」

「次の質問は……、小冬に興味あるの? 千秋くん」

「ないです」

「即答…………。でも、小冬はちっちゃくて可愛いと思うけど……」

「はい。俺もそうだと思います」

「えっ? なのに、興味ないの?」

「はい。それとこれと別です。可愛いという事実は否定しません。興味がないだけです」


 そう。俺は花柳に興味ない。興味……、そもそも興味ってなんだ? 俺には分からない。好きとか、そういう感情は全部先輩に習ったから……。先輩がいなくなった今の俺に、そういう感情はいらない。あいにく……、俺は今の話に共感できない人だ。


 生まれた時からずっとそうだった。


「じゃあ、好きでもない人と卒業するまで一緒にいる理由はなんなの……? 卒業までまだ時間あるよね?」

「体……」

「やっぱり、目的は体だったの?」

「———にできたたくさんのあざと花柳さんの事情を聞きました」

「…………そうだね」

「そしてそのままほっておいたら、絶対変な人について行きそうな気がして、どうせ行く場所がないならうちに来ますか?って言いました。それに友達いないように見えて……」

「そうなんだ……。世の中にまだこんな人がいるなんて、不思議だね」


 でも、どうして小春さんが俺に理由を聞くのか分からなかった。


「あの……。迎えに来たんですよね? 花柳さんのこと」

「あいにく私は今仕事のせいで九州に住んでいるから」

「えっ?」

「昨夜仕事が終わった後、新幹線に乗って今朝ここに着いたの」


 九州から……関東まで? だから、少し疲れているように見えたのか。

 すごいな。妹のために……。


「そして私は今から小冬の話をするけど……、その前に言わないといけないことがあるの。千秋くん」

「はい。なんでしょう」

「小冬と卒業するまで一緒にいてくれない?」

「はい、それは問題ありません。でも、てっきり小春さんが連れて行くと思ってたんですけど、その理由を聞いてもいいですか?」

「小冬は……、今の生活にすごく満足しているみたいでね。初めてだった。小冬が楽しそうに誰かの話をするのは……。そして友達がいないのは知らなかった。今の話が無責任と言われるかもしれないけど、まずは聞いてくれない?」

「はい」

「あっ。でも、その前にチースケーキが食べたいから注文してもいい?」

「はい」


 その時、花柳からラ〇ンが来た。


(花柳さん) 話が長い……。そして私待ってるから! 一緒に朝ご飯を食べたい!

(千秋) すみません、話が長くなりそうです。

(花柳さん) お姉ちゃんと美味しいの食べてるんでしょ!? そうでしょ!?

(千秋) いいえ、俺はコーヒーを飲んでいます。小春さんには花柳さんが作った朝ご飯を食べますって言っておきました。

(花柳さん) 分かった。じゃあ、待つから……。


「小冬なの?」

「はい。どうやら、俺のことを待っているみたいです」

「ふーん、そういえば小冬にスマホをあげたのも千秋くんだよね?」

「はい。そうです」

「あっ、チーズケーキ出た!」

「はい」


 花柳も小春さんも甘いもの好きなんだ……。さすが、姉妹。

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