11 騒ぎ②

「見た見た……? 望月くんに彼女ができたみたい!」

「ええ、そうなの? さっき廊下で待っていたあの女の子? 名前なんだっけ……。あっ、そうだ! 花柳だったよね?」

「そうそう」

「でも、どうして花柳なんだろう。望月くん、見る目な〜い。花柳だなんて……」

「みんな、まだ本人に聞いてないから付き合ってるのかどうか分からないでしょ? そしてうるさい!!!」


 女子たちの話にキレたゆあが「ドン!」と机を叩いて、いきなり声を上げた。

 すると、ざわざわしていた女子たちが静まり返る。


「ご、ごめん……。ゆあちゃん」

「…………」


 ……


 そして屋上。


「私……、やっぱり余計なことをしたのかな? みんな、望月くんの方を見ていたから迷惑をかけたような気がする」

「そんなことないですよ。むしろ、一人で寂しかったはずなのに……声をかけてあげられなくてすみません」

「ううん……。私は大丈夫! ずっと一人だったから、そういう状況にはもう慣れている」

「そうですか……」

「ねえねえ、早く食べよう!」

「はい」


 お弁当の蓋を開けると、すごい量のおかずが入っていてちょっとびっくりした。

 なんか、お母さんが作ってくれたお弁当みたいだ。

 そして花柳は料理上手だからさ。何を作っても美味しいし、見ているだけで幸せになる。


 すぐ卵焼きを食べてみた。


「おおっ、美味しいです。すっごく」

「よかった。でも、どうして今朝早めに行っちゃったの? 朝起きた時に望月くんがいなくて、私びっくりしたよ……」

「えっ? 俺……、ちゃんと話しておいたはず……」

「うん? 何を……? ごめん、私知らない……」


 どうやら、それは寝言だったみたいだ。

 まあ、確かに目を閉じたまま話していたから仕方ないか。

 ラ〇ン、送ってあげた方がよかったかもしれないな。うっかりしていた。


「なんでもないです」


 てか、俺たちまだラ〇ンの交換していない。


「まあ、いろいろ……。そうだ。サンドイッチは食べましたか?」

「うん! それ、美味しかった! ありがとう! 実は一緒に朝ご飯を食べたかったけど。望月くんがいないから、仕方がなくお弁当を作ることにしたの……」

「そうですか、すみません。実は俺……この前一緒に出かけた時、花柳さんが困っているように見えて、なるべく問題を起こしたくなかったんです。一緒にいたらまたあの時みたいに面倒臭いことが起こるかもしれませんから。だから、先に学校行ったんです」

「だ、大丈夫……! 私、慣れているから。みんなにひどいことを言われても平気だよ。私はただ……、望月くんと朝ご飯を食べたかっただけ。でも、そうだね。私と一緒にいると……みんなに変な目で見られるから……。それは嫌だよね……」

「俺、周りの視線なんかあまり気にしていません。確かに、花柳さんと廊下で話していた時、視線がすごかったですね。でも、そんなことどうでもいいです。俺はやりたいことをやるだけですから」

「も、もし……! 本当に気にしないんだったら、私……学校にいる時に望月くんに声をかけてもいいのかな?」

「えっ? 普通に声かけてもいいんですけど、むしろ俺の方から花柳さんを無視していたような気がしてすみません」

「ううん……! 全然平気! 私……、お弁当を作ってよかったと思う。声をかけたいけど、それっぽい言い訳が思いつかなくてね」

「なんですか、それ……」


 くすくすと笑う花柳に、思わず笑いが出てしまった。

 そして口には出せないけど、花柳のお弁当めっちゃ美味しくて、毎日食べたくなるそんな味だった。学校で食べるお昼はほとんどコンビニのパンだったし、何を食べようかそれを考えるのも面倒臭いからさ。


 だから、いつも近所のコンビニでパンを買ってしまう。

 でも、いろんなおかずがたくさん入っているお弁当を食べると……やっぱりコンビニのパンじゃ勝てないな。


「そんなに美味しいの? 望月くん。すごく美味しそうな顔をしている〜」

「えっ? そ、そうだったんですか? は、恥ずかしいです……」

「ううん……! さっきの顔、めっちゃ可愛かった! もっと見たいね。私のお弁当を美味しく食べる望月くんの顔……!」

「か、からかわないでください……。全然可愛くです」

「ええ、可愛いよ……。ねえ、また作ってあげようか? お弁当……」

「そ、それは…………お、お願いします……」


 すごく手間がかかりそうなのに、なぜか断れない俺だった……。

 でも、この美味しいお弁当がまた食べられるなんて、花柳は本当にいい人だ。


「あ、そうだ……。花柳さん、よかったら連絡先を教えてくれませんか? 今日みたいに俺の話が伝わらないかもしれないし、連絡先を交換した方がいろいろ便利だと思います」

「あっ……」


 なぜか、慌てているように見えた。


「どうしましたか?」

「ごめんね、私のスマホ液晶が完全に壊れて……使えなくなっちゃったの」

「あ、そうですか?」

「うん……。ごめんね。実はどうしても連絡したい人がいるけど……、スマホが壊れてあの人にも連絡できない状態なの」

「それなら俺のスマホ貸してあげます」

「い、いいの……?」

「はい。どうしても連絡したいんですよね? あの人に」

「じゃあ、今日……一緒に帰る? あの人……今頃仕事をしているはずだから。邪魔したくないの」

「そうですか。分かりました」

「ありがとう……、望月くん。私……、望月くんと出会って本当によかったと思う」

「恥ずかしいこと言わないでください……」

「ふふっ、はーい」


 涼しい風が吹いてくる屋上、俺は久しぶりに誰かと二人っきりでお弁当を食べた。

 すごく美味しくて、すごく楽しくて、いい昼休みを過ごしたと思う。これは全部花柳のおかげだ。


「じゃあ、放課後……。私、望月くんのクラスに行くから!」

「はい。分かりました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る