7 花柳さんとデート②
女子の洋服と下着はけっこうお金かかると思うけど、どうせ俺は自分にあまりお金を使わないからさ。それにちゃんと貯金してるし……、お母さんからの仕送りやバイト代があれば適当に生きていける。
そして先輩に振られたから、お金を使うところもなくなった。
それが最後のデートだったからさ。
でも、今は……先輩の代わりに花柳がそばにいる。いや、いさせてか。
「き、気持ち悪いかもしれないけど……」
「はい?」
「私、こんな風に男子と歩くの初めてで、なんか不思議……」
「彼氏、いたはずじゃ……」
「あの人はあまり優しくないから、一緒に歩くと……何をされるのか分からないから怖かった」
「そうですか、最悪の彼氏ですね」
「うん。だから、不思議……。私、望月くんと学校で話したことないのに、そばにいてくれるだけで落ち着く」
「それはよかったですね」
「ふふっ、ありがとう!」
まあ、楽しそうに見えるから、今はこれでいいだろ。
そしてちらっと花柳の横顔を見ていた。
「あれ?」
「小林〜、そこで何してんの?」
「あっ、澤田くん。いや、あっちに見慣れた人がいたような気がして」
「ええ? そうか? 誰?」
「ううん……。よく見えなかった。うちの制服を着ていたけど、なんか千秋くんだった気がする」
「また千秋の話かよ。ごめんって、そんなに千秋に会いたかったのか?」
「…………そうだよ」
……
やっぱり、花柳と一緒に入るのは無理だよな。
お店の前に立っているだけで恥ずかしくなる。
「じゃあ、俺は外で待ちますから。このカードでお会計してください」
「ねえ、一緒に入らないの?」
「えっ? どうして……、俺がこの店に入らないといけないんですか?」
「下着……、望月くんが選んでくれるんじゃなかったの?」
「すみません……。俺、男ですけど?」
「望月くんが買ってくれるんだから、望月くんの好みを教えて。どんな下着が好きなの? 私、それ履くから」
さらっと俺の好みとか言い出したけど、一瞬聞き間違いかと思った。
そもそも……、下着はただの下着だろ? 好みとかあるのか? 俺。健斗ならありそうに見えるけど、俺は女子の下着にそこまで興味ないからさ……。ここは何を言ってあげればいいんだろう。よく分からないな。
その場で二分くらい悩んでいたら、俺をお店に連れていく花柳だった。
「すみません。俺……、こういうの苦手です」
「あっ、そうなの……? あら、顔が真っ赤になっている……。望月くん」
「知ってますから、早く選んでくださいよ……」
「…………真っ赤!」
「知ってます……」
「ふふふっ、恥ずかしいの? 女の子の下着」
「そ、それ以上言ったら先に帰ります」
「ごめんなさい……」
そしてどこを見ても女子の下着ばかりだから落ち着かない。
ピンクとか、ホワイトとか、女子たちの好きそうな明るい色の下着と華やかな下着が見えてくる。死にたい。それに花柳はさっきから真剣に下着を選んでいたからさ、この空気がやばい。やばすぎる。
「これはどうかな? 望月くん……。私に似合うかな?」
「ピンク……。い、いいと思います……」
試着した後、自分が選んだ下着を見せてくれる花柳。
てか、意味分からない。
「うん! じゃあ、これで!」
「あの……、三枚くらい買っておいた方がいいと思います。それだけじゃ足りないはず……ですよね? 多分……」
「うん…………。わ、分かった」
そしていちいち選んだ下着を見せてくれなくてもいいのに、顔が熱くなる……。
この人……、元カレのことは変なことをする人だから嫌って言ってたけど、俺の前ではさりげなく下着を見せてくれるのか。どうしてだ? 分からない。
「ありがとうございま〜す!」
やっと、解放されたような気がする。
「わ、私が持つから……!」
「いいです。俺が持ちます。次は洋服……買いに行きましょう」
「う、うん……!」
女子の洋服もいろいろあるな。そして女子はこういうのが好きだって先輩に言われたことがある。一緒に洋服を買う時はいつも試着した写真を送ってくれたからさ。そこを今花柳と来ている。
そして楽しそうな顔をしている彼女を見て、なんかいいなと思っていた。
てか、俺……また先輩のことを。
「このスカート、可愛い!」
「それ……、ちょっと短くないですか? 花柳さんはスカートよりズボンの方が似合うと思います」
「…………」
「どうしましたか?」
「私、スカート……、似合わないの? やっぱり、足が太い?」
「そういうことじゃないです。すみません、スカートも似合います……。ちょっと恥ずかしいから……、一人で好きな服を選んでください」
何を言ったんだろう、俺は。
「ねえ、私……望月くんに可愛いと思われる洋服を買いたい」
「花柳さんは何を着ても可愛いです。だから、ゆっくり選んでください。俺のこと、気にしなくてもいいです」
そして試着した洋服を俺に見せてくれる花柳がニコニコしている。
まあ、当たり前のことだけど、やっぱり可愛い。それにセンスがいい。
シャツもスカートもすごく似合うから、その場ですぐ「すごく似合います」と話してあげた。今までどんな生活をしていたのか分からないけど、着替えるたびに、幸せを感じているような気がした。
まるで、子供みたいに喜んでいる。
そしてお会計を終わらせた後、花柳は俺が買ってあげた洋服を持ってニコニコしていた。
「そんなに嬉しいんですか?」
「うん……! だって、私……こんな風に洋服を買ったことないし、こういうの初めてだから……。あの……、私どうだった? 可愛かった……?」
「はい」
「…………うん」
「じゃあ、次は部屋着ですね」
「もういい……! 私、望月くんの部屋着着るから……もういいよ…………」
「大丈夫です。買ってあげますから」
「ううん……、いい。私、望月くんの部屋着がいいから……。それでいいの。そして本当にありがとう。これを大事にするから……!」
やっぱり、負担を感じているかもしれないな。別に構わないけど……。
むしろ、遠慮しない方が俺にはいいことかもしれない。バカみたいだ。
「はい……。じゃあ、甘いもの食べに行きましょうか?」
「うん……! ありがと!」
「それ、俺が持ちます……」
「あ、ありがとう……。楽しい…………」
「はい? すみません、周りの声が大きくてよく聞こえませんでした」
「ううん……! なんでもない! 行こう!」
「はい……」
そして一階に降りた時、後ろから聞き慣れた女子の声が聞こえてきた。
「あれ? 千秋くん?」
「…………」
「あれ? 千秋じゃん。何してるんだ、こんなところで。あれ? 待って! そばにいるのはもしかして彼女!?」
タイミングが悪いな。
同じクラスの健斗と
それによく分からないけど、花柳が俺のシャツを掴んだまま離してくれなかった。
「千秋くん、そばにいる人誰? あの先輩とは別れたよね……? そうだよね?」
「はい。今日は友達と遊びに来ただけです、小林さん」
「友達……」
「あっ!!! 花柳じゃん」
「マジ!? あの……、花柳小冬?」
下を向いている花柳の顔をわざわざ確認しに来るなんて、こいつ暇なのか。
でも、まずはこの場から離れた方がいいかもしれない。
さっきから何も言ってないし、緊張しているように見えたからさ。
「じゃあ、俺たちは先に行くから、健斗。行きましょう、花柳さん」
「あっ、うん……」
「いや! ちょ、ちょっと待っ———」
ここのパフェは美味しいってクラスの女子たちが言ってたけど、仕方がなかった。
俺はすぐ花柳を外に連れてきた。
「なんで……、千秋くんがあんな〇ッチと一緒にデートしてるの? どうして、教えてくれなかったの!? 澤田くん!」
「いや、俺も知らなかったぞ! 千秋、断ったからさ。まさか、花柳とデートをしているとは……」
「……チッ」
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