6 花柳さんとデート

 めっちゃ気持ち悪い夢を見た。

 まさか、俺を振ったあの先輩の夢を見るとは……。しかも、楽しかった時の記憶。

 もうそんなことどうでもいいのに……、どうして先輩の夢を。それに今日は花柳とショッピングをする日だから、あれは忘れよう。とはいえ、朝から頭の中が複雑でどうしたらいいのか分からなかった。


 そしてすぐそばには俺が拾った女の子がすやすやと寝ている。

 先輩と付き合っていた時もこんなことやったことないのに、女の子と同じベッドで寝るなんて。やっぱり、床に寝床を作った方がよかったかもしれない。俺のベッド狭いから、二人で寝るのは無理だ。


 こうやって……、くっついて寝るしかないからさ。

 それにいろいろ触れてるし。


「ううぅ…………」


 そして体を起こしたいけど、なぜか俺の腕を掴んでいてそのままじっとしていた。

 そういえば、ずっとこうだったよな。


「花柳さん、朝です」

「ううん……。も、望月くん…………。おはよう、今何時?」

「八時四十分です。昨日はよく眠れましたか?」

「うん……。ありがとう……。望月くんがそばにいてくれて……。えっと、その……久しぶりにぐっすり寝たような気がする……。そして手……、ずっと握ってくれたんだ……」

「ああ、そうですね。不安そうに見えて……。でも、触ったのは手だけです」

「うん……。ありがとう」


 そう言いながら俺に笑ってくれたけど、なぜかその顔が少し悲しく感じられた。

 本来なら、俺なんかじゃなくて好きな人とこんなことをするべきなのに……。


「えっと……、望月くん……。私も敬語で話した方がいいかな?」

「どうしてですか?」

「いつも敬語で話しているから……。それに今日から……、一緒に暮らすようになった……よね?」

「ああ、そうですね。でも、敬語は気にしないでください。癖です……。花柳さんには何も求めません、今のままで十分です」


 そしてぎゅっと俺の腕を掴む花柳、そのまましばらくベッドでじっとしていた。

 こんな朝は初めてだ。


「朝ご飯……、作るから。な、何が食べたい? 望月くん」

「花柳さんの好きなものなんでもいいです。なんでも食べられますから」

「……わ、分かった。部屋でちょっと待っててね」

「はい……」


 そう言いながら急いでキッチンに向かう花柳だった。

 そのまましばらく目を閉じる。気のせいかもしれないけど、俺のベッドで花柳の匂いがする。ここで、この狭いベッドで俺は花柳と———。


「…………」


 ずっとくっついていたのか。


 ……


 今朝は卵焼きとみそ汁、そしてサラダか。いいな……。

 俺一人だったらきっと面倒臭いからすぐインスタントを食べたかもしれない。

 誰かが作ってくれた温かいご飯は本当にすごいな。ほぼ3ヶ月間、ずっとレンジでチンして食べてたからさ。


 その生活ももう終わりか。


「いただきます」

「どう?」

「はい。すごく美味しいです……。ありがとうございます」

「私……、もっと頑張って美味しいのたくさん作ってあげるから! また食べてくれるよね?」

「はい、お願いします。楽しみにしておきます」

「…………」


 そしてみそ汁を飲みながら俺の方を見ている花柳に気づく。

 もしかして、言いたいことでもあるのか? 余計に気になるな。


「花柳さん、どうしましたか? さっきからジロジロこっちを見てるような気がしますけど」

「あ、あのね……。ちょ、ちょっと気になることがあるっていうか」

「はい。なん……でしょう」

「私の噂……知ってるのかな?」

「噂ですか……?」


 噂なら、昨日健斗に言われたあれか?


「私のこと……、学校の人たちは〇ッチって思ってるから。いろんな人とやりまくって、そうやってお金稼ぐって……。そして人の彼氏を奪うクズ女……」

「へえ……」

「き、気にしないの? 私の噂……。そして望月くんは隣クラスだから…………」


 みそ汁を啜りながら少し考えてみた。

 それを気にしていたのか。


「じゃあ、俺の方から聞きますけど、さっき話したことは全部事実ですか?」

「ち、違う……! 私はそんなことやったことないよ…………」

「それでいいです。別にそんな噂、俺は気にしていません。そしてそんなことをするような人には見えませんでした。少なくとも俺はそう思っています」

「ありがとう。私……望月くんには! 絶対誤解されたくなくて……、ごめんね」

「ごちそうさまでした。温かい朝ご飯ありがとうございます。俺、出かける準備をしますから」

「…………」


 そう言いながら茶碗と皿を台所に置いた。

 そして落ち込んでいるように見える花柳の頭にそっと手を乗せる。


「ごめんって言わなくてもいいです。それに今日は一緒にショッピングするって言いましたよね? テンションを上げてください」

「う、うん……! すぐ食べるから!」

「いいえ、ゆっくりでいいです。まだ時間ありますから」

「あっ、うん……!」


 ……


「あっ」

「どうしたの……?」


 俺はバカか、花柳が制服しか持ってないってことをうっかりしていた……。

 それに俺だけ私服じゃあれだし……、仕方がない。


「いいえ、ちょっと待ってください。制服に着替えますから、そこでちょっと待ってください」

「えっ!? どうして? 制服に…………」

「なんか、今は制服が着たい気分です」

「…………」


 急いで制服に着替えた後、エレベーターに乗る二人。

 てか、休日に制服を着るの初めてだ。


「なんか、一緒に登校してるような感じだね」

「そうですね。今日は……、いろいろ買いましょう」

「本当にいいの? 私なんかにお金を使っても」

「私なんかじゃないです。もっと自分のことを大切にしてください」

「ありがとう……。そして私……、本当にいい人と出会って、また涙が出ちゃいそうだよ。ごめんね」

「ここで泣いたら、ショッピング後パフェを食べるのはなかったことにします」

「ごめん……! 絶対泣かないから……!」

「はい。行きましょう、花柳さん」

「うん」


 先輩以外の女子とデートをするのは初めてで、なんか不思議だなと思っていた。

 これをデートって言ってもいいのかよく分からないけど。


「あの……、今日は……何を買うの?」

「そうですね。まだ決めたことはないんですけど、まずは下着を買いましょう」

「し、下着……。うん…………」


 さりげなく「下着」と言い出す千秋と、彼のそばで照れている小冬。

 そのままショッピングモールに向かう二人だった。

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