デッパツ


翌日。

明朝五時。

荷物を持つ八峡義弥は部屋から出ていく。

同時に、永犬丸統志郎も部屋から出ていた。


「やあ我が友」


「ふァ…ぁァ、はよさん」


八峡義弥は欠伸混じりに挨拶を交わす。


「朝っぱらだってのに暑いわ」


「仕方が無いさ、それが夏と言うものだからね」


適当な会話を交えながら二人は階段を下っていく。

一階へと降りると、食堂からカタカタと音が聞こえて来る。


「夜々さん、おはようございます」


食堂に入ると。

祝子川夜々が着物の上に割烹着を着た姿で料理をしていた。


「あ、おはようございますっ今日は早いですねっ!何かご用事ですかっ?」


祝子川夜々が満面の笑みを浮かべながら二人に挨拶をした。

八峡義弥は祝子川夜々に今日から一週間、別荘へ遊びに行く事を話す。


「よよっ!?べっそうっ!?」


「あ、夜々さんも行きたかったすか?」


「あ、いえ、そうですか…」


「八峡さんも、永犬丸さんも、一週間も居ないのですね、少し寂しく感じちゃいます…」


悲しそうな顔をしながら祝子川夜々が落ち込んでいる。

が、心配させない様にすぐに表情を笑顔に戻した。


「楽しんできてくださいねっ!」


「はい、お土産、買って来ますね」


「いいえ、そんな気を使わなくてもっ」


「良いっすよ、バイトしてんで、結構金あるんすから」


海に行く前日にお好み焼き店で後輩に奢るくらいだ。

贄波璃々からのバイト代を上乗せされたのだろう。


「そんじゃ、夜々さん」


「行ってきます」


「では、失礼します」


「はいっ、お二人様っ、いーっぱい遊んでっ、楽しんで来て下さいねっ!」


祝子川夜々がそう言って二人の姿を見送る。

八峡義弥と永犬丸統志郎は、荷物を持ちながら集合場所である校門前へと急いだ。

八峡義弥はあさがお寮の裏に停めておいた原チャリを持って行く。

学園滞在時に免許を取ったらしい。


「イヌ丸はどうすんだ?」


八峡義弥が永犬丸統志郎の移動方法について伺った。

永犬丸統志郎は多くの荷物を持ちながらも、片手で自らの足を叩く。


「無論、ボクはボクの足で走るよ」


「マジか、根性あんな」


永犬丸統志郎は術式によって肉体を狼の様に変化させる事が出来る。

だから永犬丸統志郎は長距離の道を走って行こうとしていた。


「それだったら荷物嵩張るだろ」


「心配には及ばない、担いでいくさ」


八峡義弥と永犬丸統志郎は会話を続けながら学園前へと集合する。

既に遠賀秀翼、猿鳴形、そして月知梅瑞稀が待機していた。

界守愁は贄波璃々の屋敷で荷物を運ぶ作業に勤しんでいる為に不在。

後から遅れて来る為に、メンバーは全員そろっていた。


「八峡さん」


月知梅瑞稀が八峡の元へと近づいて来る。


「僕は車を呼んでいますので」


「皆さんの荷物を運びますよ」


にこやかに笑みを浮かべながら言う。


「おう、悪いな」


八峡義弥がそう言って荷物を渡す。

永犬丸たちも月知梅に感謝しながら荷物を渡した。


「ふふふ…八峡さんの荷物…あ、んんッ、それでは、先に車で別荘地に移動しますね、八峡さんが下さったメモに書かれていた住所で良かったのですよね?」


先日、月知梅瑞稀が住所を教えて欲しいと言ったので、事前に住所を教えていた。


「あぁ、荷物、頼むな」


八峡義弥が何気なくそう言ったが。

月知梅瑞稀はその言葉に感動を覚える。


「(今、僕は八峡さんに期待されているッ!その期待には、なんとしてでも応えなければッ!)お任せ下さい、八峡さん、必ず荷物は別荘地に、命にかえても、必ず」


「いや、其処まで重要じゃねぇから」


八峡義弥はそう突っ込んだ。

月知梅瑞稀は荷物を乗せた車を走らせて、一足早く別荘地へと向かう。


「そんじゃ、俺らも行くか」


そうして、八峡義弥たちは。

別荘へと向かうのだった。

原チャリを走行させる八峡義弥。

その前に遠賀秀翼がオートバイで先行し。

永犬丸統志郎が脚力で八峡義弥の隣を走り。

猿鳴形が八峡義弥の後ろを走る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る