おこのみやき
「はッ、そんな燥ぐなよ後輩共、そのテンションはあの夏の海の日までとっときな」
後輩のじゃれ合いを見て八峡義弥は笑う。
明日の別荘での休暇は、賑やかになりそうだった。
「折角だし、妃紅ん家行くか」
先輩風を吹かしまくる八峡義弥が二人に対して言った。
紅粉屋妃紅。
お好み焼き店〈べにや〉の看板娘の妃紅だ。
「お好み焼き食いに行くんすか?」
「あぁ、奢ってやるよ」
(八峡さんと長い時間過ごせるなんて幸せ過ぎて絶頂しそうだッ)
界守愁は腹を空かせた様子だ。
月知梅瑞稀は嬉しさの余り表情が蕩けている。
「んじゃ、行くぞー」
そう言って、八峡義弥らはお好み焼き店〈べにや〉へと足を運ぶのだった。
三人を連れて〈べにや〉へと向かう八峡義弥。
中に入ると景気の良い声が店内で響いた。
「へいらっしゃいッ」
「らっしゃっせー」
後に続いて作業的な声が響くと、厨房から一人の女性がのろのろと歩いてくる。
金色の髪を腰まで伸ばし、所々がハネた髪型。
その頭部にはツバ付き帽子が被られており、八峡義弥を確認すると、帽子を取って頭を下げる。
「先輩じゃないっすか」
「ごはん食べに来たんすか」
そう言って気怠そうな顔は一変して人懐っこい笑みを浮かべる。
彼女が笑うと、口元から可愛らしい八重歯が見えた。
「よう妃紅、今日も手伝いご苦労さん」
八峡義弥はそう言って労う。
お好み焼き店〈べにや〉を経営する父の娘である紅粉屋妃紅。
父は一般人だが、母が祓ヰ師と言う混血であった。
「おう紅粉屋、来てやったぜ」
界守愁が偉そうにそう言うと、紅粉屋妃紅は睨みを効かせながら吠える。
「お前は来なくて良いんだよ」
「んだコラ、それが客に対する態度かコラァ!」
「うるせぇんだよ筋肉馬鹿」
そんな二人のやり取りを見ながら。
無視をする様に、八峡義弥の腰に手を添えて部屋へと誘導する月知梅。
「さあ、八峡さん、あちらの席へ行きましょう、あと隣に座っても良いですか?」
「おい月知梅コラ抜け駆けしてんじゃねぇぞ、つかお前はダメだ何をするか分かんねぇ、先輩の隣は俺が座る」
界守愁が月知梅瑞稀を突き放す。
その際に月知梅の肩を軽く押したが。
月知梅瑞稀は界守愁の手に触れて薄く笑みを浮かべる。
「痛いですね、界守くん、この手、普通にしてあげましょうか?」
月知梅が神胤を起動させる。
その挑発的な行動に界守愁はキレた。
「やってみろやコラァ!」
そうして界守愁も神胤を起動させた直後。
八峡義弥がその二人の喧嘩を割って入る。
「やめろ馬鹿共、俺ァ飯を喰いに来たんだぞ」
強制的に喧嘩を終了させると。
不完全燃焼の二人は燻っていた。
「あー…、すんませんした先輩」
「すいません。八峡さん」
「お前らどっちが隣に座るかで揉めんなよ、お前らあれな、二人とも一緒の席な、俺の隣は…良し、妃紅」
そう言って隣に居た紅粉屋妃紅の手を引いて近づけさせる。
そして彼女の肩を抱いて接近させた。
「え、ちょ、せ、先輩、あ、あの、自分、嬉しい、です、あの、はい」
頬を赤くしながら紅粉屋妃紅が自らの髪を指で巻く。
だが。
背後から殺意が漏れ出す男のチョップが振り下ろされた。
「おっと」
「お客さぁんッ、ウチの妃紅は売り物じゃないんでェ!」
そう言ってサングラスを付けた少し若めな男性がそう言った。
彼はこのお好み焼き屋〈べにや〉の店長、紅粉屋妃紅の父だった。
先程のチョップで紅粉屋妃紅と離れた八峡は、両手を上げて笑う。
「冗談すよお義父さん、殺意漏れてますよ」
「お義父さんと言うなァ!俺は認めてねぇ!!」
自慢の娘に手を付けられて怒り狂う店長。
「親父、止めて、もう、ウザいから」
「ぐッえ、ひ、嬪子ォ…」
そして紅粉屋妃紅の言葉でショックを受ける店長は。
トボトボと厨房の奥へと引っ込んでいくのだった。
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