サルちゃんとかき氷

葦北静月は得意そうに笑みを浮かべて。


「この鉄糸を操ってバストを計ってあげる、心配しないでっ!昔、距離を探る訓練をしてたから、鉄糸を使えば簡単にスリーサイズが分かっちゃうからっ!!」


そう言って。

葦北が神胤を放出させて鉄糸を操り出す。

風に揺れる髪の毛の様に、鉄糸が蠢くと。

思川に向けて、鉄糸の先端が伸び出した。


「ちょ、あの…ひゃっ!?」


思川の服の中に、鉄糸が入り込む。

服の中で蠢く鉄糸に思川は声をあげた。


「くすぐったいッ…くっあっ!、そこ、なに触ってるのさ!」


顔を赤らめる思川。

葦北静月は指を芋虫の様に動かす。


「えぇと、これが……こうっ」


しゅるり、と。

思川の服が圧迫されていく。

主に胸部に重圧な柔肉に満たされていく。

呼吸が楽になった感覚を憶える思川は。

自身の晒しが外された事に気が付き、胸を両手で抑える。


「は、あ!?なに、してるのさっ!」


赤い頬をよりいっそうに赤くさせて。

思川百合千代は葦北を見つめる。

その瞳には恥ずかしさのあまり涙目になっていた。


「ふふーん、どうでしょ、すごいでしょ?まだまだこんなもんじゃないからっ!思川さんの体、隅々まで調べてあげるっ!」


「ぁっ!やだ、やめっッ、んんッ!!」


葦北の指が滑らかに動く。

思川の体に鉄糸が絡みつき、柔らかな肉に硬い糸が押し込まれる。

嬌声に近い声をあげながら、二人の如何わしい行動を見ていた贄波は。


「すいません、お会計で」


「カードで、お願いします」


取り敢えず、他人の振りをするのだった。

一方の野郎共。


「やかい、これをもっていこう」


猿鳴形が八峡義弥の前に出したもの。

それはかき氷機だった。

それもペンギンのかき氷機だ。


「あ?…あー、サルちゃんよぉ、駄目です、戻して来なさい」


八峡義弥はそのかき氷機を見てそう言った。

猿鳴形は表情を変えないがそれでもショックを受けている。


「なぜだ、やかい、なつにかきごおりは、ていばんだろう?」


猿鳴形はそう言ってペンギンのかき氷機を大事そうに抱える。

意地でもそれを別荘に持っていく気概だ。

だが八峡義弥は彼の願いを否定する。


「分かる、分かるぞォ、サルちゃん、俺だってこのペンギンさんでかき氷作りたいけどよォ…これを持って行けねぇ理由が三つあんだよ」


八峡を猿鳴形に指を立てる。


「まず一つ、氷の調達はどうすんだ?」


予め持って行くにしても、氷が解けている可能性がある。


「べっそうなんだからこおりくらい、あるだろう?」


「あるかも知れないな、けど、持って行ってはならない理由は他にある」


八峡義弥は中指を立てる。

端から見れば猿鳴にピースをしている様に見えた。


「荷物が嵩張る、暑い夏、絶対それを持って行って後悔する」


「これはやかいがもっていくわけじゃない、おれがもっていくから、もんだいはない」


猿鳴形はなんとかこのかき氷機を持ってく為に必死になって八峡を説得している。

それ程までに、このペンギン型のかき氷機が魅力的であるらしい。


「じゃあ最後に一つ、かき氷に掛けるシロップ、あれ絶対余らせて腐らせるからッ!」


「……それはもうてんだ」


余程のかき氷好きじゃ無ければ。

かき氷シロップを消費する事は難しい。

最悪、調子に乗って様々なシロップの味を買って全部駄目にする可能性もあった。


「分かったか?かき氷機は買えないんだ…分かったらそのペンギンさんを棚に戻してきな」


「…わかった」


トボトボと猿鳴形の後姿を見ながら。

その光景を見ていた永犬丸統志郎がやって来る。


「我が友よ流石に、あれは可哀そうじゃないか?」


「心を鬼にしろイヌ丸、あれがサルちゃんの為になる…俺も、昔はな、かき氷機を買って、後悔したんだ」


夏場でしか活躍しないかき氷機。

季節を逃せばかき氷機は何処に置いても邪魔になる。

年を跨いで夏の季節になっても、年中埃を被っていたかき氷機では食欲が失せてしまう。

結局、かき氷機を捨てる羽目になるのだ。

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