水着を買おう
「つーワケでお嬢の計らいだ海に行きたいかお前らァ!」
デパート前の駐車場。
八峡義弥は買い物に来た野郎共に向けて声を荒げた。
「うみか、たいすいようにかえないとな」
「海と言えば
「因みに男共は現地集合ッ!各自足を用意しとけよォ!」
八峡義弥のテンションは上がり続けている。
それ程に海に行くのが楽しみなのだろう。
「此処からは別行動、男子は男子、女子は女子で行動な?一時間したら屋上に集合で、んじゃ、一旦解散ッ!」
そうして、海に行く為の準備が始まる。
デパート内。
水着コーナーにて。
「うーん……水着、どれにする?」
葦北静月が両手に水着を持ちながら二人に伺う。
贄波璃々と思川百合千代は彼女の手に持つ水着を見た。
片方は水色でフリルの付いたビキニ。
もう一つはオレンジ色をした紐パンツだ。
「葦北さ、そんな際どいの、着るのかい?」
「え?ふつーだと思うけど、違うの?」
思川百合千代が彼女の水着を見て恥ずかしそうな顔をしながら言う。
別段、普通の水着であるが、長年男装をし続けた彼女にとっては刺激が強い様子だった。
「私はこれかしらね」
贄波はマネキン人形が巻いていた下着を隠すパレオを手に取る。
「あれ?贄波さん、水着は買わないの?」
葦北が贄波が手に持つ商品を見て言った。
「えぇ、水着は別の店で買う事にするわ」
「ふぅん。水着、見せ合いっこしたかったけどなぁ」
残念と言った様子で、葦北は狙いを思川に向ける。
「思川さん、どれにするか決めたの?」
「え、いや。ボクは別に……」
「えー、水着着ないの?勿体ないよ、綺麗なのに」
「ボクは、そう言う視線を集める服は、嫌いなんだ」
思川百合千代が男装しているのは、男の視線を受けない為にある。
今は男子学生の様な服装で、胸部などは平であるが。
それは彼女が胸にさらしを巻いているからであり、彼女の胸囲は男の目を奪う程に豊満だった。
「でも、贄波さんの別荘にある海って言うなればプライベートビーチなんでしょ?なら、視線なんて気にする事ないよ」
「いや、八峡たちが居るし…ボク自身、恥ずかしいんだ…」
男モノの服装に慣れてからか。
女性モノの服を着る事に躊躇いが出来ている。
「大丈夫だって!八峡はともかく他の男子メンバーは普通の女性じゃあ興奮なんてしないから」
今更であるが。
祓ヰ師の殆どは常軌を逸した性格をしている。
特殊な性癖やトチ狂った人格を持つものも居る。
そして八峡以外の93期生の祓ヰ師は頭のネジが抜け落ちていた。
永犬丸統志郎は女性に興味が無く。
遠賀秀翼はアメリカ系の女性が好みであり。
猿鳴形はそもそも男性器が無いから反応のしようがない。
「それとも、さ、八峡を気にしてる?」
葦北静月が確かめる様に思川に伺う。
その目は何処か真剣で、彼女の返答次第では態度すら変わりそうな感じだ。
「いや…別に八峡は…関係、ない」
思川百合千代が視線を逸らす。
葦北静月はそれを見逃さない。
「…そっか、まあ、それなら水着に挑戦してみなよ」
「いや、だから恥かしいし…あっ、そもそもボクは自分のバストが何センチなのかも分からないんだ」
抜け道を見つけた様に、思川百合千代は声を出す。
そんな彼女に対して、葦北は目を光らせた。
「なら大丈夫、私に任せてっ」
そう言って、葦北が五指に指環を嵌める。
それは、絡繰機巧を操る為の〈指弦〉。
しかしその指弦には、髪の毛の様に細い鋼の糸が垂れている。
「指弦なんて、それで何をするのかしら?」
贄波璃々が彼女の指を見て言った。
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