海に行く予定

「あぁ、それで、金欠なの…でも、意外ね、八峡、お金を散財すると思ってたのだけれど」


「あー、まあ?パチンコとか、博打に使ったりするけどよォ、備えがあった方が後々楽になるだろ?俺に明日があるのかすら、分からねぇけど」


祓ヰ師と言う職業に就いたとすれば。

その殉職率は著しく高くなる。

この五十年で、三十代を超える祓ヰ師は、全体の三割にも満たないだろう。


「ふぅん…まあ、大丈夫よ、貴方が死ぬなんて分からないもの」


贄波璃々はしんみりしながらそう言った。

八峡義弥は彼女の言葉に「けどよ、何れかは死ぬ」と言い、さらに続ける。


「だから、楽しく生きてぇだろ?楽しい思い出背負ってそれで死ねたら、俺はそれで良いと思ってる」


仲間との思い出。

それだけあれば、如何なる死地でも恐怖は無い。

八峡義弥はその様に思っていた。


「…思い出、ね…ねぇ、八峡」


「あ?なんだよ」


八峡義弥はコーラを飲みながら贄波璃々に伺う。

贄波璃々が言う事は、それは八峡義弥を誘っている様なものだ。


「七月の中旬、私は此処を離れるのだけど」


「どっか行くのか?」


「えぇ、此処は暑すぎて、熱帯地になるから、だから、避暑地に行くの」


「避暑地…つー事は、別荘かえー、いいなぁお嬢、俺も行きてぇよ、一夏を涼しく過ごしてぇ」


「…貴方さえ良ければ…付いてくる?」


贄波璃々は八峡にそう聞いた。

八峡義弥は項垂れた様子で空返事をしたが。

数秒の硬直を以て再び贄波璃々に伺う。


「え?なに、俺、誘ってんの?」


「…えぇ、そうよ、誘っているの」


贄波璃々は、少し恥ずかしく思いつつも。

視線を逸らす事無く、八峡義弥を見つめている。

その瞳の真剣さに、八峡義弥は本気で言っているのだと分かった。


「海、かぁ…それって、俺とお嬢以外に、誰か来んの?」


八峡はそう聞いた。

贄波璃々は答える。


「私と、界守、そして高樋の三人ね」


「そうか…他に、誰か行く予定は?」


「無いわ。誘ったの、貴方が初めてですもの」


「そうかぁ…ならよぉ、お嬢、他にも呼んで良いか?」


八峡義弥は贄波璃々に聞く。

贄波璃々は少し考えた素振りをして。

首を縦に振った。


「えぇ、構わないわ」


「…マジかー…やっべ、すっげー、楽しみなんだけど」


八峡義弥はにやけた。

夏の一大イベントがあるかの様に。

今年の夏に思いを馳せていた。

後日。

三日後に贄波璃々の別荘にて多くの生徒が一週間の停泊をする事が決まった。

八峡義弥は各々の生徒に連絡を取り入れると、


「取り敢えず93期生全員に連絡しといた」


と、その旨を贄波璃々に告げる。

贄波璃々はこの男がどれ程の人間を呼ぶのかなど分からなかったが。

差別の言葉がそれで帳消しになるのならば、と。

八峡義弥の行動を止める事は無かった。


「あと、明日は大型デパートに行くぞ」


「…なんの為に?」


「別荘、海か山、あるだろ?」


「えぇ、別荘のすぐ近くに海があるけれど」


「じゃあ海に適した用品を買わなくちゃな、お嬢、水着を買え」


そんな八峡義弥の言葉に反感を覚える贄波だったが。

結局、八峡の半ば無理矢理な説得に応じて共にデパートへ行く事になる。

そうして当日。

デパートの前には。

第93期生の面子が殆ど揃っていた。

八峡義弥を始め、永犬丸統志郎、遠賀秀翼、猿鳴形。

贄波璃々、葦北静月、思川百合千代。

八峡義弥は93期生全員を呼んだつもりだったが。

東院一は「行くわけないだろ」とその集会を拒否。

九重花久遠と花天禱は「行きたいのは山々だが」と予定がある為に来られなかった。

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