もえもえきゅん
「あー、ご尤もな事で…まぁ? お嬢が俺の事嫌いでも別に良いし」
「ち、ちがッ」
贄波璃々は後悔した。
ちっぽけなプライドで、八峡義弥と言う男を傷つけてしまった。
決して傷つけるつもりでは無かったのに。
もう、後悔しても遅かった、が。
「俺はお嬢の事が好きだからよ、だから、仲良くしようぜ?」
そう言って八峡義弥は笑った。
その表情に贄波璃々は面食らい。
そして、そっぽを向くように椅子に座る。
贄波璃々が思っている以上に。
八峡義弥は、贄波璃々の事を知っている。
彼女が差別をする様な言葉を吐いたとしても。
それが彼女の言い過ぎである事を理解していた。
そもそも、八峡義弥は一般家系から排出された祓ヰ師。
この業界の事は新参と言っても良く。
この業界での差別など、さっぱり分からない事が多い。
「……言い過ぎたわ、ごめんなさい」
贄波璃々は八峡義弥に謝罪をして。
「私も、嫌いじゃないわ」
と、八峡義弥に対してそう言った。
言って、そして恥ずかしながら耳まで真っ赤になる贄波。
それを見て、八峡義弥は再三と笑って。
「知ってる」
とだけ言う。
その直後。
「お兄ちゃん、ご注文は何にするの?」
空気を読まず。
投刀塚旭はオーダーを待った。
注文を終えると。
八峡義弥はふと最悪な出来事を思い浮かべて嘆いた。
「なあ、聞いてくれよお嬢」
「どうかしたの?」
贄波璃々が八峡義弥にそう聞く。
八峡義弥はコップの中にある氷を口の中に含んで噛み砕いた。
「マジでやってらんねぇよ、なあ、あのクソ教師がさぁ」
「…貴方の言う教師って、贄波先生の事?」
「あー、違う違う、あれはもう、逆に感謝の域にあたるから、いや、感謝はするけど尊敬はしないけどさ」
「…あの人じゃないのなら、誰の事?」
八峡義弥が教師を罵るとしたら決まって贄波阿羅教師だ。
しかし八峡義弥はそれは違うと断定した。
ならば誰なのか、次に八峡は口を開く。
「俺を京都に連れて行ったあの野郎だよ」
「お兄ちゃーん、コーラ持ってきたよー」
猫なで声で投刀塚旭がコーラと珈琲を持ってくる。
贄波璃々の方に珈琲を置いて。
八峡義弥の前にコーラを置くと。
「おいしくなーれ!」
と両手でハートマークを作り、八峡のコーラに向けた。
「あ?なにそれ」
八峡義弥が奇怪な行動をする投刀塚にそう突っ込む。
「んーなんか都会のほうだと流行ってるんだってー」
どうやらメイド喫茶の呪文の様な奴を真似たらしい。
「へぇ…都会の人間は毎日こんな事してんのか」
「都会にはメイドさんが居てね?なんだか、毎日してるみたい」
この時代。
まだ情報が豊かでは無く。
その様な話が噂話の様に蔓延っていた。
「ブルジョワー、マジ、ブルジョワジー」
「だからお兄ちゃんが来たら毎日してあげるね!」
「じゃあ次に来るのは流行りが終わった時だな」
そんな会話を交えて。
投刀塚旭が奥へ引っ込んでいった。
八峡義弥はストローを使ってコーラを飲む。
「で、八峡。続きは?」
「ん?あぁ、あのクソ教師な?俺の術式は、ある人から教わったんだが…その際に、仲介料とか言いやがって、六百万振り込んどけって言いやがってよォ、そのせいで俺の蓄えた金、全部無くなっちまったんだよ…信じられねぇだろ!?それが教師のすることかよ!!」
思い出すだけでも腹が立つ。
八峡義弥は煮え滾る思いを贄波璃々に話し込んでいた。
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