能力の説明

「先輩、どうぞ」


永犬丸士織が冷蔵庫から二リットルのお茶を八峡義弥に渡す。


「あぁ、悪いな」


「イヌ丸飲み物貰っていくぞ」


そう八峡義弥が永犬丸統志郎に言う。

永犬丸統志郎は手を上げて。


「構わないよ」


と言った。


「そんじゃ、俺は戻るわ」


「イヌ丸、この礼はまた今度な」


二リットルのペットボトルを脇に挟んで、永犬丸統志郎に別れの言葉を告げる。


「楽しみにしてるよ」


永犬丸統志郎は最後まで八峡義弥に顔を向ける事は無かった。

部屋から出ようとする八峡に、永犬丸士織が声を掛ける。


「先輩」


「あ?どした?」


八峡義弥が振り向いて永犬丸士織の顔を見る。


「あの…先輩は兄さんの腹痛の原因を、知ってるんですか?」


永犬丸士織は心配そうにそう言った。

八峡義弥は一瞬何を言っているのか分からなかったが。

永犬丸統志郎が、何故腹痛になったのか、その原因を喋っていないのだろうと推測して合点がいく。

永犬丸の性格上を考えれば気兼ねなく自身の失態を話す事が出来る人間だと思っていたが。

どうやら、八峡義弥が思っているよりかは、プライドがあるらしい。

ならば八峡義弥はその尊厳を守る義務があると考えた。


「あー…まあ、察してくれ」


「…何を察するのですか?」


「イヌ丸が原因を喋って無いんだろ?」


「はい、理由を聞いても」


「心配する事は無いと、言っていましたので…それでも、心配しますよ、兄さんは、私の兄さんですから」


としょんぼりする永犬丸士織。

八峡義弥はその顔を見て笑みを浮かべる。

こんなにも心配している彼女に、あんなくだらない理由で腹痛になった事を知ったら、どんな顔をするのだろうか。


「……先輩?笑ってるんですか?」


「……あ、悪い、つい、な」


「……流石です先輩。先輩が笑うと言う事は、兄の腹痛はそれ程大事に至る事では無いと言うのですね?」


と、少し拗ねた様に言う。


「あぁ、心配する事じゃないさ、大丈夫、お前の兄はあんな事でくたばる奴じゃない俺が言うんだ、間違いない」


自身ありげに言う。

永犬丸士織は、そう言われたら、もう何も言い返せないでいた。


「…なら先輩の言う事、信じますね」


そうして、彼女は不安の表情を解いて、安堵の笑みを浮かべる。

八峡義弥は彼女の顔を見て、つられるように笑った。


「じゃあな」


「イヌ丸によろしく」


「はい」


「それでは、先輩」


そう言って頭を下げる永犬丸士織。

八峡義弥は永犬丸統志郎の部屋から出て行った。






明朝。

目を覚ました八峡義弥。

本日は眠気も無く起床出来た。

二度寝しようと思わない程に。


(まあ、起きたからって何をするワケでもねぇけど)


ベッドの上に横になりながら。

八峡義弥は物思いに耽る。

それは過去の記憶や今後の事。

今日は一日なにをしようかなど考えて。

八峡義弥は自らの術式を改めて整理する。


(八珠流式神術式)

(八徳を起源とした術式)

(仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌)

(この八字に当て嵌める様に式神を扱える)

(そしてその式神は)

(字に纏わる関係性として俺に従う)

(悌冰は元は雪女だが)

(悌の字で縛る事で俺を兄妹として認識している)

(義劔は死亡した剣豪)

(義の字で俺に義を感じるようになっている)

(それが、俺の術式だ)

(傀儡術式とは違って)

(式神術式はコントロールし易い)

(神胤の消費も)

(式神を召喚する為の門を作るだけだから)

(式神を縛る為に神胤を消費しなくて良い)

(これが、傀儡術式との相違だな)


式神術式は、畏霊を調伏させて自らの駒として扱う。

屈服した式神は叛旗を起こさない様に能力に制限を掛ける。

術師が気絶したとしても、式神が暴走する事は無い。

傀儡術式は、畏霊を神胤で縛り自らの駒として扱う。

術師の神胤で縛る為、能力を全能で振るう事が出来る。

その変わり、術師が気絶や死亡した場合、傀儡が暴走する。

式神術式か傀儡術式の何方かを選ぶとすれば。

式神術式の方がバランスが良い。

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