仕事終わりの翌日
五時間後。
葦北静月・永犬丸統志郎・八峡義弥の三名が学園に帰還。
葦北静月が今回の任務の報告を教師に伝達する事で任務が完了する。
9時14分に任務完了となった。
三人はその後、任務による疲弊の為に自室にて約十時間の休息。
八峡義弥が起床して活動する時間になる頃には、既に夜の七時を超えていた。
「……あー」
喉が渇いた為に冷蔵庫から適当な飲み物を探す。
しかし冷蔵庫の中には何も無かった。
気怠い身体を動かしながら、八峡義弥は隣に居る永犬丸の部屋を訪ねる。
何か飲み物を強請る様子らしい。
「イヌ丸、居るかぁ?」
扉をノックして暫く待つ。
弛んだ様子の八峡はシャツの中に手を突っ込んで腹部を掻いていた。
ととと、と部屋の中で歩く音が聞こえる。
扉が開かれると、永犬丸統志郎とは言い難い少女が顔を出した。
「あ、こんにちは、先輩」
そう言って軽く微笑む少女。
永犬丸統志郎の美貌がそのまま女性として現れている様な可愛らしい容姿。
何処か永犬丸の面影が残っているのは、それは彼女が永犬丸統志郎の妹であるからだろう。
一学年下であり八峡義弥の後輩に当る女生徒。
「おう、ワン子か」
八峡義弥は彼女の事をそう呼んでいる。
「兄に用事ですか?」
永犬丸士織が首を傾げて伺う。
彼女の問いに八峡義弥は頷いた。
「飲み物を恵んで貰おうと思ってよ、あいつのものは俺のもの、俺のものはあいつのもの…まぁ、そんな感じぃ?」
八峡義弥と永犬丸統志郎は兄弟の様に仲が良い。
親友とも呼べる立ち位置であり、彼らの間に遠慮と言うものは無かった。
「流石です、先輩、ジャイアニズムかと思えば兄の尊厳を保ち、尚且つ二人の仲の良さを露見させる行為、兄の妹である私にとっては尊い絆を感じました先輩の思慮深さは他の人たちでは中々行える行為ではありません、兄に対するリスペクトに、私は感動しました」
と、陶酔する様に永犬丸士織が言う。
永犬丸統志郎が重度の露出狂として変態認定されているのならば。
その妹である永犬丸士織も、八峡義弥に崇拝的感情を抱く変態である。
その変態性は、似た者同士な兄妹であった。
「あー、うん、そうだな」
八峡義弥はそう言って濁す。
そして何故、永犬丸士織が部屋を出たのか気になった。
永犬丸統志郎は現在、部屋に居ないのだろうか、と。
「ところで、イヌ丸は?」
八峡が伺った。
永犬丸士織は部屋の奥を見て兄が居る事を示唆。
「どうやら、お腹を壊した様子で今は、ベッドの上で寝込んでます」
と、永犬丸士織がそう言った。
(へぇ、イヌ丸腹壊したのか…なんか、悪いもんでも食ったのか?…あぁ、喰ったわ)
昨夜の事。
任務の際に永犬丸統志郎が畏霊の肉を喰っていた事を思い出す。
恐らくはそれが原因だった。
八峡義弥が永犬丸統志郎の部屋に入る。
部屋の中に入ると、ベッドの上で横になる永犬丸統志郎の姿があった。
げっそりとした表情をしている彼は鼻をすんすんと動かした。
すると永犬丸統志郎は八峡義弥に背を向けていながらも。
「我が友かい?」
と、永犬丸統志郎は八峡義弥が来た事を言い当てて見せた。
永犬丸統志郎の鼻は犬の様に利く。
ほぼ毎日顔を合わせる八峡義弥の臭いは鼻が覚えていた。
「おう、イヌ丸、大丈夫か?」
八峡義弥が笑いながら言う。
永犬丸統志郎の腹痛の原因を知っているから、馬鹿を見たなと言う意味で笑っていた。
「大丈夫さ、我が友が見舞いに来てくれた、我が妹が看病もしてくれた、これで治らないワケが無い」
(俺は見舞いに来たワケじゃねぇけどな)
八峡義弥の目的は永犬丸統志郎から飲み物を分けてもらう事だった。
それ以外の理由などなく、永犬丸統志郎が寝込んでいた事すら知らなかった。
だがそれは言わぬが花だろう。
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