恥ずかしい気持ち
送迎用の車にて畏霊の棲む幽世へと移動する。
その送迎途中の話。
四人乗りの車には、補助として付いてくる結界師が運転席で運転。
助手席には葦北静月が乗り、後部座席には八峡義弥と永犬丸統志郎が座っている。
八峡義弥は両肩を回して体の痛みを確認していた。
「我が友よ、何処か痛むのかい?」
「あ?あぁ、昼前に訓練してたからよ」
「あの狂人とか…支障は無いのか?」
永犬丸統志郎はそう心配してくれる。
八峡義弥は問題ないと言うと両手を永犬丸に見せる。
「指があれば印を結べる」
「そうすりゃ式神が出せるからよ」
「そうか、そういえば我が友は、もう既に式神遣いであったか」
「おう、もう足を引っ張る事もねぇ」
不具合は無さそうだと、八峡義弥は体の点検を終える。
そして前を見ると、ミラーに写る葦北静月と目があった。
葦北静月は恥ずかしさで赤くなった頬を丸めながら、ミラーの位置を変えて視線を合わせないようにする。
「やめてください」
結界師がそう言って後ろの車が見える様にミラーを調整していた。
八峡義弥は面倒臭そうな表情を浮かべている。
彼女がご立腹なのは、八峡義弥が彼女のパンツを見た為だった。
あれはどちらかと言えばズボンなどを履いて来なかった葦北の方に非がある様に思える。
「何時まで怒ってんだよ」
八峡義弥が葦北に喋り掛ける。
数秒ほど待って葦北が口を開いた。
「パンツ見たじゃん」
そう言われて八峡義弥は深く溜息を吐く。
「お前なんで下履いて無いんだよ」
問題点を突き付けた。
そもそも葦北静月がズボンを履いていれば良かっただけの話なのに。
「あれ部屋着だからっ!普段着にするの忘れてただけだからっ!」
と、彼女は言い訳をする様に言った。
「じゃあ俺悪く無いじゃん」
「悪く無いけどさぁ!けど、もうちょっとさぁ!」
「んだよ、優しく言えってか?それとも何も言わずに触って教えたら良かったのか?」
「何も言わずに放っておけば良かったの!指摘されたら、恥ずかしくなるじゃん!」
どうやら葦北はあの恰好に関して指摘された事に腹を立てているらしい。
あのまま何も言わなければ、葦北静月は恥ずかしいと言う感情も思い出さなくても良かったと。
そう言っている。
「……なぁイヌ丸」
「ん?なんだい」
八峡義弥が永犬丸の耳元でささやく。
「葦北の言い分、分かるか?」
「乙女心と言う奴だろう」
「そうか、じゃあそっとしとくか、そういう年頃なんだな」
そう決めつけた直後に葦北が振り向いた。
「勝手に決めつけないで!もう黙って、私だって恥ずかしいんだからぁ!!」
そう言って葦北が涙目ながらに叫んだ。
「危ないんで騒がないで下さい」
結界師が注意しながら、四人を乗せた車は幽世へと向かっていく。
八峡義弥は資料の内容を思い浮かべる。
〈牧場にて見学者が四名行方不明。
厩舎にて男性一名、女性二名、少女一名が消息を絶つ。
事件内容は牧場経営者から警察へ伝達され事件分類を怪異該当と認定された〉。
事件発生から既に五時間が経過していた。
協会から評議会、評議会から八十枉津学園へと経由申請を行われて、八峡義弥・永犬丸統志郎・葦北静月の約三名に加えて付き添いの結界師が一名、合計四名がこのウエスタン牧場へと派遣される。
幽世前に到着する四名。
八峡義弥・永犬丸統志郎・葦北静月が幽世に侵入。
結界師が門を請け負い、現世側で待機となる。
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