仕事の話とろくでなし

「牛の畏霊だね、中世派の祓ヰ師が牧場付近に結界で隠していたらしい」


永犬丸がそう言って自前のシャツのボタンを外していった。

八峡義弥はそれを気にする事無く資料に目を通していく。


「今から行けば、深夜の一時に到着か」


「祓うのに一時間、帰りは朝になるね」


「帰りにパーキングエリアに寄ろうぜ、自販機の握り飯が喰いたくなってきた」


適当に駄弁りながら会話を進めていると。

八峡の部屋をノックする音が聞こえて来る。


「来たみたいだね」


そう言う永犬丸は既に服を脱ぎ捨てていた。


「ご立派なもんは見せんなよ?これから女が入って来るんだからよ」


八峡が釘を刺して、扉を開く。

部屋の前には、このあさがお寮に住む葦北静月の姿があった。


「あ、やっほう」


と、紅潮する顔で葦北が言う。

彼女の恰好は常日頃から見ているジャージ姿では無かった。

だぼだぼな白のTシャツを着込み、首にはタオルが巻かれている。

額から汗が滲んでいるのは、恐らく先程まで入浴していたのだろう。

何処かシャンプーと石鹸の香りが混じる清潔感のある匂い。

葦北静月の女性としての匂いが混じり、八峡義弥の鼻孔に張り付く。

風呂上がりの彼女の姿を見て、何処か色っぽさを感じながらも。

八峡義弥は平然とした表情で葦北静月を出迎える。


「取り敢えず、入れよ」


そう言って葦北静月を中に入れる。


「あっつー…ねぇ八峡、ここ、空調入れて無いの?」


そう言いながらタオルで額の汗をポンポンと拭う葦北。

八峡義弥は彼女のそんな姿を後ろから眺めながら答える。


「空調?ねぇよそんなの」


「えー、じゃあ窓開けて良い?」


「あぁ、なんなら開けてやろうか?」


「いいよ、自分で開けるから、あ、トシくん、やっほう」


「やあ絡繰姫、やっほう」


そう言って永犬丸統志郎と葦北静月が手を叩き合った。

葦北静月も、永犬丸統志郎の半裸には突っ込まない様子だ。

彼女が部屋の窓を開ける。

八峡義弥が部屋の真ん中に置いてあるテーブルに座ると。

強い風が吹いた。

それに従い、テーブルの上に置いた資料が吹き飛ぶ。


「おっと」


永犬丸統志郎が立ち上がり、宙に舞う資料を手に取る。

八峡義弥は動けないでいた。

強い風が吹いて、葦北静月のTシャツがまくれ上がったからだ。


「うわわ」


葦北静月が驚いて窓を一旦閉じた。

そして後ろを振り向いて二人の顔を見る。


「ご、ごめんっ、風強かったね、資料は大丈夫?」


「問題は無いよ」


持ち前の反射神経で全ての資料を回収した永犬丸。

八峡義弥は動けないでいた。


(……あのさぁ、葦北、せめて、下に何か履けよ)


八峡義弥はそう言って、風で彼女の服がめくれ上がった際に。

彼女の色気の無いベージュのパンツを見てしまった。

スカートの様に弛んだシャツが彼女の臀部を軽く隠していたが。

先程の風でシャツがめくれ、それで彼女の下着を見てしまったのだ。


(これ、どうやって説明すれば良いんだ?)


八峡はしばらく考えて。

「おい葦北ァ」


「ん?どうしたの?」


「お前パンツ見えてんぞ」


素直にそう言う。

一瞬、なんの話か分からなかった葦北は。

急に悟り、シャツを掴んで赤い顔をよりいっそうと赤らめた。

どうやら、下に何かを履くのを、忘れていた様子だった。

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